組原正 (ギター) from グンジョーガクレヨン
園田游 (舞踏) from グンジョーガクレヨン
吉本裕美子 (ギター)
吉本嬢とは昨年6月アルトー・ビーツのワークショップで出会って以来音楽の好みが似通っていて何度もライヴ会場で顔を合わせるようになった。それと共に彼女が私のような即席演奏者ではなくとても精力的に活動する現役ミュージシャンしかも即興音楽家であることも分かった。友達付き合いや共演相手の視察でライヴ会場に足を運ぶミュージシャンはいるが、彼女のように他のアーティストのライヴに足しげく通う人は意外に少ない。プロの音楽家も元々は熱心な音楽ファンだったはずだが、自分で演奏活動を始めると初心を忘れてしまうのだろうか。他のアーティストの演奏を観ることは刺激にもなるし人脈を広げるのにも役立つ。その経験が自らの演奏に深みと幅広さを与えることになる。その意味でも吉本嬢のフットワークの軽さは正しい演奏家のあり方だいえる。
ここまで書いて何度も顔を合わせている割には経歴を知らないことに気づき彼女のブログ「放牧地帯」でプロフィールを見てプチサプライズ。ロックバンド活動を経て2006年に即興演奏を始めたとのことだがその最初のライヴにギタリスト増田直行氏の名前があり以降何度も共演している事実を発見。増田氏はこのブログで紹介した80年代地下ロックシーンで活動した前衛バンド「陰猟腐厭」のメンバーである。実は昨年末同バンドのドラマー原田淳氏にメールを送り年明けにご返事をもらったばかりだった。返信メールには私の質問への返答と1月14日高円寺ShowBoatに出演すること、そして「ちょうどさっき、メンバーの増田直行と新年電話で、そろそろライブとか新作を・・・と話してた」と書かれていた。とてもありがたいメールで昨日書いたヴァニティ・レコードの件と共に新年早々めでたい出来事の連続に喜んでいたところ。さらにK2=草深公秀氏とも陰猟腐厭の話でひとしきり盛り上がった。そこにきて吉本嬢と増田氏の繋がりが明らかになるとは2013年も目に見えぬ運命の糸に操られる一年になりそうだ・・・・。
吉本嬢のライヴを観るのは昨年9月広瀬淳二氏&ダニエル・ブエスとの共演以来2度目。グンジョーガクレヨンの組原正氏、園田游氏との共演である。昨年八丁堀七針で2回行われたグンジョーのライヴに吉本嬢も来ていたがまさかの共演に驚くとともに彼女の精力的なライヴ通いの成果だと納得。広瀬氏の場合もそうだが実際にライヴに足を運びその場で共演の交渉をするという「アタクダ(=当たって砕けろ/造語)」精神の本領発揮である。組原氏は昨年後半からグンジョー以外のセッション活動を意欲的に行っている。園田氏も2009年のグンジョー解散表明以来肥後ヒロシ氏や広瀬氏他様々なアーティストとコラボしている。そんな3人が一堂に会するライヴにはグンジョーの前田隆氏やフォトグラファー佐藤ジン氏、七針でグンジョーとコラボした絵本作家の高岡洋介氏など馴染みの顔ぶれも集まり満員盛況。新年の挨拶が飛び交うアットホームな雰囲気だった。
最初は組原氏のソロ。昨年のソロ・アルバム「inkuf」レコ発はT.美川氏、中尾勘二氏、グンジョーの前田氏、宮川篤志氏とのセッションだったので完全なソロは初めて観る。ヴォイスをループしカオスパッドで変調させた奇怪な音響の上にギターの弦を撫で回す独特の奏法が炸裂。以前「inkuf」での演奏を「存在を否定されたギター」と表現したがまさにその通りの”非ギター・サウンド”が展開される。畸形ヴォイスを交えたパフォーマンスは”演奏”というより”表現”と呼ぶ方が相応しい。現代美術に”音楽ではない、音を用いる芸術”の総称として「音響彫刻」「サウンド・アート」という呼び名があるが組原氏のパフォーマンスはそれに極めて近い。グンジョーガクレヨンから切り離してみるとその特異性がいっそう際立った貴重なステージだった。
(撮影・掲載については出演者の許可を得ています。以下同)
続いて吉本嬢と園田氏のデュオ。元々舞踏家だった園田氏の白塗り白装束の姿態がゆっくりと蠢く後ろで吉本嬢のギターが奏でられると一遍の映画を観ているような気分になる。吉本嬢の演奏は組原氏とは違いあくまでギターの音に拘り基本となる音域をしっかりキープした上で低音から高音までバランスよく即興を展開しを試みるスタイル。ディストーションやE-Bowで持続音を奏でるところはロックの出自を感じさせるがそんなジャンルから軽やかに逸脱するプレイは彼女のフットワークそのものの柔軟さに溢れている。以前観た時女性ギタリストにしてはユニークだと感じたが、改めて男女は関係なく極めて個性的な存在であることを確信。「ノイズ界のクール・ビューティ」といわれる美貌なのに演奏に没頭して顔を伏せてしまうのが玉に傷、と言ったら叱られるだろうか。組原氏はYouTubeで彼女の演奏を観て”三味線ギタリスト”(ママ)かと思っていたら全然違って素晴らしい演奏にすっかりファンになってしまったと絶賛していた。
最後に3人のセッション。左右にスタイルの全く違うギタリストを配して真ん中で踊る園田氏が圧倒的な存在感を発揮する。ドラムもベースもヴォーカルもないがこの構図は正にロックバンドそのもの。音だけ聴いたらフレッド・フリスとヘンリー・カイザーのデュオのようだろうが園田氏の舞踏の求心力が全く異次元のサウンドビジュアル空間を創造する。音のない存在がサウンドとして聴こえるという不思議な世界は実際に目にしなければ分からないだろう。ライヴは生モノ、現場で体験しなければ完全には伝わらないというのは紛れもない事実である。
終演後出演者+友人総勢10名で打ち上げ。久々の再会に話が弾み奇矯な顔芸パフォーマンスを披露する園田氏と気さくな会話の端々に確固たる信念が滲み出る組原氏が対照的で面白い。佐藤ジン氏から興味深い提案があり、もし実現すれば素晴らしいことになるだろう。これからもグンジョー及び吉本嬢を巡る動向に注目していきたい。
ライヴ観て
受けた霊感
身に纏う
佐藤ジン氏の1986年制作の貴重な写真集「GIG」を久々に開いてみた。BGMに「CASE OF TELEGRAPH」をかけたら見事にシンクロして写真の生々しさが眼前に迫ってきて恐ろしいほどの感動に震えた。現在でも有名な地引雄一氏の写真も素晴らしいが時代のドキュメントをヴィヴィッドに切り取った佐藤氏のポートレイトは再度きちんと整理して日の目を見せる必要があることを強調したい。
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