BEACH HOUSE
JAPAN TOUR 2013
GUEST:DUSTIN WONG
ボルティモア出身のドリーム・ポップ・デュオ、ビーチ・ハウス待望の単独ツアー!
2000年代以降興味が日本のロック中心になり洋楽ロックを疎かにしてきたのでインディーロック、ポスト・ロックについては余り詳しくないのだが、ゴッド・スピード・ユー!ブラック・エンペラー、アニマル・コレクティヴ、クラップ・ユア・ハンズ・セイ・ヤー、マキシモ・パーク、ヤー・ヤー・ヤーズなど気になったバンドはチェックしていた。また2011年のインディーロック・フェス「I'll Be Your Mirror」で多くの未知のバンドに触れたのもいい体験だった。
一昨年から渋谷WWWに行く機会が増え、そこで入手した「THE RAY」というフリーペーパーの21世紀インディーロック中心の記事作りに驚いた。メジャーな音楽誌が若者の活字離れを意識して年配ファン向けの誌面作りにシフトしたことが私の洋楽離れに拍車をかけたのだが、THE RAYはメジャー誌が見捨てた"今この時代の"アーティストだけ取り上げている。さらにフリーペーパーにしては豪華過ぎるオールカラーで広告が一切掲載されていない。度々糾弾されてきた音楽誌の広告と記事の癒着問題から完全にフリーである。一体どのように収入を得ているのか不思議だが素晴らしい写真も含め作り手の情熱と愛情が溢れた内容は若いロックファンの心を鷲掴みにするに違いない。THE RAYのWeb版が読めるインディーロック情報満載サイトはコチラ。
THE RAYを参考に輸入盤店の試聴機でインディーロックの新譜をチェックしていて出会ったのがビーチ・ハウスだった。女性ヴォーカルのヴィクトリア・ルグランは名前が示すようにミシェル・ルグランの姪だという。CDショップのコメントに「2000年代後半のドリーム・ポップムーブメントの中心的なバンド」とありその括りに興味を惹かれたのは昨日のブログに書いた通り。昨年発売された最新作「Bloom」はポストモダンなジャケットとその真逆を行く叙情的でメロウなサウンドの組み合わせが如何にもポスト・ロック的。このアルバムがビルボードの7位にランクインしたことはアメリカの音楽市場の変容を如実に物語っている。デヴィッド・リンチの不条理ドラマのようなPVを観ても今ひとつ実態が判らず絶好のタイミングの来日公演を楽しみにしていた。
全米TOP10ヒットとはいえメジャー音楽誌からは無視されラジオやテレビで紹介される訳でもない彼らが1000人キャパのリキッドルームを埋められるのかと思ったら何とチケットはSold Out。客層は明らかに20代中心の小綺麗でオシャレな若者が多い。男女比は半々。
サポートアクトはビーチ・ハウスの全米ツアーでもオープニングを飾ったというダスティン・ウォング。一見ミュージシャン風じゃない地味な青年がテレキャスを抱えて登場しいきなり日本語でMCを始めたので外人名を芸名にした日本人アーティストかと思ったが後でググるとハワイ生まれの韓国系アメリカ人で幼少から日本で育ったとのこと。大学進学でボルティモアに移りアヴァン・ロック・バンド、ポ二ーテイルで活動、ボアダムズを引き合いに評価されたという。一昨年からソロ活動を開始。一台のギターに様々なエフェクターをかけてループさせ分厚いアンサンブルを展開する奏法に唖然とする。ほぼインストだが熊追い歌のようなヴォイスも聴かせる。1970年代にマイク・オールドフィールドがスタジオに引きこもり2400回のダビングを重ね作り上げたサウンドがたったひとりでライヴで再現されることに驚愕。まさにテクノロジーの進化を武器にした新世代=ポスト・ロック。この音楽を言葉にしようにも江戸時代の人がパソコンを語るのと同様にそもそも共通言語がないことに気づく。40分に亘る演奏に大きな拍手が沸いた。
いよいよビーチ・ハウスの登場。ステージ左からアレックス・スカリー(G)、ヴィクトリア・ルグラン(Vo.Key)、サポートドラマーの3人だけのシンプルな編成。後ろから照明が照らされシルエットになったメンバーの表情は判らず仕舞い。生ドラムがいるのにチープなリズムマシンを使うのはポスト・ロック的拘りだろうか。興味深いのはオーディエンスの反応。曲を熟知している様子でイントロが始まった途端に歓声が上がるのだ。ビーチ・ハウスがレンタルCD店にあるとは思えないのでCDを買うかダウンロードするかでアルバムを聴き込んでいることが判る。若者の音楽離れが指摘されCDが売れないという嘆きが聞かれて久しいが少なくともこの日集まった1000人の若者は熱心なロックファンなのだと実感。CDより肉感的で色気のある演奏で深く沈み込むスローナンバーばかりなのにヴィクトリアが時々髪振り乱してヘッドバングするのが興味深い。日本ツアー用に用意したというキラキラ光る衣装も面白い。もしかしたら彼女はハードコアパンクやデスメタル好きなのかも知れない。
現代ドリーム・ポップの深遠な世界に触れると共に静謐なサウンドの裏に潜んだ熱い情熱が感じられるライヴだった。
燃えている
夢の世界の
海の家
今日もCDショップで未知のインディーロックを漁るとしようか。