A Challenge To Fate

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百鬼夜行の回想録~洋楽ロック編第2回:パレ・シャンブルクと歯科大の思い出

2013年01月24日 00時32分34秒 | 素晴らしき変態音楽


タワレコの再発コーナーにパレ・シャンブルク(以下パレシャン)のデビュー・アルバムがあったので思わず購入してしまった。80年代ノイエ・ドイチェ・ヴェレの代表的バンドの彼らは昨年オリジナル・メンバーで再結成され来日公演を果たした。7月6日代官山UNITでのオールナイト公演のチケットは購入していたが、陰猟腐厭の記事で書いたように岐阜の叔母の見舞いで東京から離れざるを得ず無駄にした。音楽サイトや雑誌の記事によるとかなりいいステージだった様子。残念だが仕方ないと諦めていた。


以来すっかり忘れていたところへデラックス盤再発。LPは持っているがライヴなどレア音源集CD付きとはありがたい。リリース当時特に大きな話題になった訳ではないパレシャンだが2000年以降のクラブ・ミュージック~インディーロックの文脈で再評価され30年ぶりの再結成ツアーは若いファンが熱狂的に迎えたという。UNIT公演の模様はele-kingのレビューに詳しいのでお読みいただきたい→コチラ

「大きな話題になった訳ではない」ということを証明する資料が手元にある。1986年発行の「INDIES 世界自主制作レコードカタログ」という300ページに亘るカタログ本である。当時キャプテンレコードを主宰し気を吐いていた雑誌「宝島」と六本木に日本初のメガストアを構えレジデンツなどUSオルナタティヴ、アイシュトュルツェンデ・ノイバウテンやATATAKレーベルなどのノイエ・ドイチェ・ヴェレ、グリーン・オン・レッドやレイン・パレードなどのペイズリーアンダーグラウンドのレコードを配給していたレコードショップ&レーベル「WAVE」の共同編集によるこの本は80年代インディー盤総カタログという意義に加え当時の音楽観を知る歴史的資料として極めて有用である。日英米欧豪1500タイトル近い自主制作盤が紹介されているがその中にパレシャンは入っていない。WAVEが国内盤をリリースしていたホルガー・ヒラーのソロ「腐敗のルツボ」のコメントで触れられているだけ。ざっと眺めただけでもドイツの無名のアーティストが多数紹介されているにも関わらずである。勿論このカタログだけで当時の音楽シーン全体を判断することは出来ないが80年代最先端の音楽を紹介していた宝島とWAVEからオミットされていたことはパレシャンの一般的認知度がゼロ以下だったことを物語っているのではなかろうか。

蛇足ながらその8年後の1994年音楽之友社発行「 [アルバムガイド800] ロック・オルタナティヴ~パンク/ニューウェイヴ&80'S」では巻末のアルバム・ガイドで野田努(ele-king編集長)によるパレシャンのレビューが掲載されている。 しかしあくまで80年代ニューウェイヴの名盤のひとつという扱いであり、昨年の来日や今回の再発での「多大な影響力」「歴史的名盤」というヒステリックな程の高評価には結びつかない。21世紀に入りCAN、シルヴァー・アップルズ、クラスター、ワイアー等リリース当時低評価または無名に近かったアーティストが再評価される傾向が高いのはCD時代になり幻の作品が次々発掘・再発され最新の作品と同列に提示されたことの影響であろう。特にDJ・クラブ方面の発掘熱は凄い。そのお陰で知られざるアーティストが蘇ることは悪くない。

私がパレシャンを知ったのは1983年秋。名前も顔も何処で知り合ったのか忘れたが歯科大の学生から借りたのである。彼は二人組のバンドをやっており、美大の友人の授業の課題でプロモビデオを撮影することになりギタリストがもう一人欲しいとのことで私が出演することになった。撮影は八王子の歯科大学のキャンパスで行った。石鹸の泡で髪をモヒカンに立てて破いたTシャツで撮影に挑んだ。大学から使用許可を得たらしくボイラー室や研究室や地下倉庫などでピンスポやストロボを使って深夜まで撮影した。雨が降り折角立てた髪が萎れてしまったのを覚えている。

数週間後ビデオが完成したというので田無の彼の学生寮で観た。萎れた髪は残念だったが思ったよりプロフェッショナルな出来で感心した。私はギターを構える位置がジミー・ペイジばりに低かったので画面にギターが映らず口が半開きの表情で腕を上下させる姿が○○カキみたいだと笑われたのを思い出す。その後私の学祭でデュオをやろうと彼を誘ったが当日ドタキャンされひとりでギターノイズと歌をテープエコーで変調し楽器破壊パフォーマンスをした。以来彼とは会っていない。

彼のバンドは今思えばティアーズ・フォー・フィアーズやバウハウスっぽい耽美派エレポップだった。ネオサイケやノイエ・ドイチェ・ヴェレに詳しくエコバニのライヴテープやノイバウテンの7インチを貸してくれた。彼がおススメと貸してくれたのがパレシャンの1st LP。ノイバウテンは雑誌やラジオ/テレビで紹介されておりそれほど驚かなかったが、この名も知らぬバンドの観光写真のようなジャケットのレコードには一聴してぶっ飛んだ。硬質なファンクビートに絡み付くホーンと捩じれたドイツ語の響き。こんな音は聴いたことがなかった。音響的にも経験したことのない不思議な浮遊感がある天上の音楽。ノイバウテンに「新人類(1/2 MENSCH)」というアルバムがあるがパレシャンはいわば「異人類」。人間のようで人間じゃない異形の存在に思えた。再発CDを入手するまでデヴィッド・カニンガムのプロデュースとは知らなかったが、彼のスタジオワークでは間違いなく最高作。この一作でホルガー・ヒラーが脱退し二度とこの奇蹟が再現出来なかったのは必然である。前衛芸術とロック美学とポップ感覚が見事に融合した幸福な瞬間。ニューウェイヴが産んだ最良の果実である。それにも拘らずクラブDJが発掘するまで埋もれていた金塊(NUGGET)である。現在この捻くれまくった感性を継承する者はいるのだろうか?



ポストモダン
ニューアカデミズム
構造主義者

あのプロモビデオがまだ存在するなら是非観てみたいものである。

★おまけ:80年代日本のインディーズのレア音源がコメント欄で試聴出来ます。









コメント (3)
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