いずみたくの音楽が流れる。いずみたくの音楽は、耳に素直に入ってくる。いずみたくの音楽は、歌詞が大切にされていると思う。歌詞とメロディが手を携えていっしょにこころのなかに入り込む。
そのいずみたくがつくったミュージカルには、「おれたちは天使じゃない」が有名である。私は、学生時代この初演を渋谷で見て感動した。初演では、有島一郎、西村晃らが出演していた。私はこのミュージカルを何度も見ている。
そして「洪水の前」。初演の「洪水の前」はYouTubeチャンネルで見られる。初演では、財津一郎がでていた。
ライザ・ミネリの「キャバレー」の日本版。いずれもファシズム前夜の状況を、キャバレーとそれにかかわる人々のありようをとおして描く。歌、ダンス、恋、別れ、文士、ダンサー、演奏者・・・・・しかし彼らも、当時の世相に呑み込まれていく。洪水は、すべてを吞みつくす。「洪水の前」は、ファシズム前夜、という意味だ。そして最後には、軍靴の音が鳴り響き、すべてが戦火に消されてゆく。戦争というブルドーザーが、すべてを圧し潰していく。
そのような流れは、キャバレーの中では表立っては見えてこない。たとえ見えても、それは部分的だ。しかしいずれは、洪水となってすべてを呑みこんてゆく。描かれているのは、そういうことだ。
ただ私は、「洪水の前」でうたわれた歌にはどうもなじめなかった。いずみたくのミュージカルでもっとも印象に残っているのは、「おれたちは天使じゃない」でうたわれた「今、今、今」という歌だ。
いずみたくのミュージカルは、何度でも上演してほしいと思う。