「白髪一雄 - 格闘から生まれた絵画」 横須賀美術館

横須賀美術館神奈川県横須賀市鴨居4-1
「白髪一雄 - 格闘から生まれた絵画」
10/31-12/27



2008年に亡くなられたアクション・ペインターの泰斗、白髪一雄の画業を回顧します。横須賀美術館で開催中の「白髪一雄 - 格闘から生まれた絵画」へ行ってきました。



まずは本展の構成です。白髪が生前構想していたテーマをもとにした5章形式でした。

・初期作品:画業当初、1949年から54年までの作品。全11点。
・血のイメージ:アンフォルメル影響下の作品など。水滸伝シリーズ。
・密教シリーズ:延暦寺で得度を受けた白髪。円環モチーフ。
・歴史への憧憬:中国の題材。三国志シリーズ。
・アプローチの多様性 - 題材・技法・画材:様々な絵具素材への関心。2000年以降の近作など。



単に作家の時系列を追うのではなく、上記のような各テーマによって白髪の全体像を効果的に提示する良い回顧展でしたが、如何せん自分にとって苦手な画風ということもあり、残念ながら「惹かれる」という地点にまでは殆ど至りませんでした。というわけで、あまり個々の作品の感想を書いても致し方ないので、ここは私が今回はじめて白髪について知ったポイントをいくつか挙げてみます。

・初期作品の意外性

白髪というとともかくあのドギツイ、何やら色も面も線も荒れ狂う大作絵画のイメージが強くありますが、(そしてそれが苦手ですが。)今回出ていた初期作の比較的シンプルな画風には魅力を感じる部分もありました。特に動物園にでもあるような鳥の檻を描いたその名も「鳥檻」(1949年)、またいわゆる抽象絵画でも、曲線の渦に吸い込まれていくような、一定の秩序だった構成のある「作品」(1957年頃)などは印象に残りました。

・タイトルの由来

作品の中には「天暴星両頭蛇」や「天敗星活閻羅」など、今ひとつ入り込みにくいタイトルも散見されましたが、そもそも白髪がそうした名前を付けたのは、自身の絵画をはじめて海外に出品した際、例えば「無題」では便宜上、作品の識別が難しかったことに由来するのだそうです。

・三国志と水滸伝への関心。

アクションペインティングというと、その偶然性の高い表現行為に関係するのか、結果生まれたモチーフ云々にイメージを掴みにくい部分もありますが、白髪の絵画には彼自身の一定の興味の在処が反映されている面も少なくありません。上にも触れたはじめにタイトルを付ける際に用いられた水滸伝、また80年代の「巴蜀」(1983年)や「關雲長」(1984年)などの三国志など、中国の古典に関心があったとは知りませんでした。

・晩年における絵画上のイメージの構築

私の誤った見方かもしれませんが、アンフォルメル時代よりも晩年の方が、絵画平面上に何らかの意味、また視覚的効果を追求しているように思われます。「群青」(1985)はそれこそクラインならぬ青の美しさを、またタイトルを失念してしまいましたが、白や黄色までを用いて、まるで雲からもれる光を描いたような一枚は、絵画からいくつかの風景を引き寄せることが出来ました。



会場には彼が制作に使っていたというロープが一本、天井から吊るされていました。その使い古された、まるで拷問の道具のようになった姿を見ると、確かに彼の絵画が「格闘」の痕跡であるというのも頷ける気がします。

(美術館建物から前庭方向。)

(館内。一部撮影が可能です。)

(エレベーターから。)

久々に横須賀美術館へ行きました。ガラスを多用した軽やかでシンプルな箱は、白髪の鬱陶しい絵画群と奇妙にマッチしています。

(屋上から目の前の海を眺める。)

27日までの開催です。なお本展終了後は、愛知県の碧南市藤井達吉現代美術館(2010/1/23-3/14)へと巡回します。
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