「躍動する魂のきらめき - 日本の表現主義」 松戸市立博物館

松戸市立博物館千葉県松戸市千駄堀671
「躍動する魂のきらめき - 日本の表現主義」(前期展示)
2009/12/8-2010/1/24



松戸市立博物館で開催中の「躍動する魂のきらめき - 日本の表現主義」へ行ってきました。



まずは本展の概要です。

・明治末から大正期にかけて登場した表現主義の動向を、洋画、日本画、工芸、写真、建築の観点から総覧する。
・会期は前期(12/8-20)、中期(12/22-1/11)、後期(1/13-24)の3期制。出品リスト参照。
・今春より日本各地の公立美術館(栃木兵庫、岩手の各県立美術館、及び名古屋市美術館。)を巡回。この松戸会場が巡回の最後。

西洋の影響も受けて興った国内の表現主義の全貌を、日本中の美術館(個人を含む)の多様な所蔵品から詳らかにするという非常に意欲的な展覧会です。先日、高階秀爾氏が新聞紙上で本年のベスト3に挙げられるなど、巡回先でも高い評価を与えられたと聞きましたが、残念ながら今回の松戸展では一つだけ重要な問題点があります。それは会場が驚くほど狭いということです。例えば旧山種美術館の一室と同程度のスペースに、あの広々とした兵庫県美の企画展の巡回があることを想像してみて下さい。人が二人と通れば塞がってしまうほど通路を狭くして、ともかく作品を詰め込んではいましたが、それでもこれまでの巡回先の作品のおそらくは何割かが「不出品」となっていました。この点は注意が必要です。

とは言え、元々は充実した企画でもあり、見るべき作品が何点もあるのは事実でした。以下、その中でも印象に深かった作品を挙げてみます。



森谷延雄「朱の食堂 茶卓子(復原)」(1925年/松戸市教育委員会)
近年復原されたという森谷のテーブルセット。ともかくその斬新な意匠、またドギツイ色彩に驚かされる。なお展示ではこの他、同じく復原された肘掛けなどと一緒に紹介されていた。



関根正二「少年」(1917年/個人蔵)
神奈川県美に寄託されている関根正二の一枚。うっすらと青みを帯びた染み込むような色彩感はセザンヌのようだ。



岡本神草「挙の舞妓」(1922年頃/星野画廊)
骨張った両手を前に朱色の和服で身を固めた舞妓が微笑む。この不気味な笑いの前では身体が凍り付いてしまいそうだ。



甲斐庄楠音「裸婦」(1921年頃/京都国立近代美術館)
激しいエロスを醸し出す一枚。裸婦が崩れるようなポーズで座っている。はち切れんばかりの乳房とそこに添えられた手にどうしても目がいった。



佐藤朝山「婆羅門僧像」(1914年/京都国立博物館)
まさにカッコいいという言葉がぴったりの木彫像。前を見据えた立ち姿が決まっている。シャープな造形美に惹かれた。



堀進二「壺を抱く女」(1925年/神奈川県立近代美術館)
これほど力強く、また打ち壊すように壺を抱く女がいるのだろうか。長い巨人のような手を組んで壺を囲んでいる。



加藤土師萌「辰砂釉華文飾壺」(1920年代/愛知県陶磁資料館)
赤い釉薬が独特な美意識を見せている。まるで爛れた血がこびり付いているかのようだ。

版画や写真などの小品も多く、私の力ではとても全体像を紹介しきれないのが残念ですが、その他にいくつか数出ていた萬鉄五郎の絵画なども心に留まりました。

さてこの松戸会場で抜け落ちている部分(作品)を補完するのが、全250ページを超える豪華な図録に他なりません。一般書としては4500円と高価ではありますが、図版、そして解説、また表現主義の文献目録、さらには作家略歴などが詳細に掲載されています。これは永久保存版に決定です。(なお図録としては会場で2500円で発売されています。)

「躍動する魂のきらめき―日本の表現主義/森仁史」

ところで同館のある松戸は私の地元ということで半分宣伝にもなりますが、もしお出かけになるようでしたら、本展にプラス200円で入場可能な常設展も是非ご覧下さい。基本は松戸の歴史を模型やパネルで追うものですが、奥には博物館の目玉でもある、日本の郊外団地のモデルともなった常盤平団地実寸大再現コーナーが待ち構えています。その他、市内で出土した土器の展示などもありました。


(展示室全景。手狭ですが妙に豪華です。)


(虚無僧模型。市内の一月寺は日本で現存する唯一の虚無僧寺だそうです。)


(常盤平団地実寸大再現展示。繰り返しますがこれは博物館の中の光景です。)


(中にも入れます。もちろん設置してある家具や備品は当時のものです。)


(側のバイク。臨場感たっぷりです。)

最後にアクセスについてもご紹介します。博物館の最寄駅の新京成線八柱駅(JR武蔵野線新八柱駅)へは、常磐線を経由すると松戸で新京成に乗り換えて上野から30~40分、またメトロ千代田線の直通電車を利用(同じく松戸で新京成に乗り換え)すると大手町から約50分程度かかります。また駅からは徒歩15分ほどですが、道のりにやや不案内な部分があるので、毎時3~4本程度のバスの方が便利かもしれません。駅前ロータリーより約5分で、博物館の目の前の公園中央口バス停(時刻表。のりば3のバスです。)に到着します。なお公園には駐車場もあります。1日500円でした。

隣接するのはほぼ私のような地元住民のための広大な公園です。以下は今年の夏に撮影したものですが、遊具などは一切なく、ただ散歩道と広場があるだけなので、ぼんやりと散歩して歩くのも良いかもしれません。(一周1時間以上はかかります。)


(元は谷津と呼ばれる谷間の湿地帯でした。今でも公園内でその原風景が一部保存されています。)


(千駄堀池。実は湧水です。奥は自然保護区ということで立ち入りが出来ません。)


(公園内広場。ご覧の通りいつも閑散としています。)

折角なので会期末にもう一度拝見出来ればと考えています。来年1月24日までの開催です。(12/28-1/4は休館)
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