「九州列車の旅」 INAXギャラリー1

INAXギャラリー1中央区京橋3-6-18 INAX:GINZA2階)
「デザイン満開 九州列車の旅」
2008/12/3-2009/2/21



美術展ではありませんが、目当ての個展よりも面白かったのでご紹介します。INAXギャラリー1で開催中の「九州列車の旅」展へ行ってきました。

展示はJR九州の列車の魅力を、特にデザインに注視して知らせるものですが、ともかく新幹線「つばめ」や特急「ソニック」などのグッズを見るだけでも楽しめるのではないでしょうか。手狭なINAXギャラリーの中には、JR九州のデザイン顧問である水戸岡鋭治氏のスケッチやイラストをはじめ、試作品、または実際に使われる制服や小物までがぎっしりと並んでいました。鉄道ファンなら間違いなく感涙ものでしょう。


787系「つばめ」(現在はリレーつばめ)誕生時のポスター。1992年に登場した特急列車ですが、その斬新なスタイルは今も古びていません。


885系「かもめ」の先頭部分プロトタイプ。「つばめ」と同じく水戸岡鋭治氏のデザインです。


九州新幹線「つばめ」のNゲージ模型。実は私も一時期にNゲージにハマっていたことがありました。今でも見ると欲しくなります。


「つばめ」などに用いられるカーテンやシートの生地です。基本は和のテイストでしょうか。様々な柄がありました。


何であるかお分かりいただけるでしょうか。何と座席のテーブルです。


「つばめ」グッズ各種。ピンは列車毎に指定されており、乗務の際に交換して使うのだそうです。そのような細やかな芸があったとは知りませんでした。


「つばめ」Tシャツやネクタイなども紹介されています。


最大の目玉は最奥部にてお待ちかねです。新幹線「つばめ」、または「はやとの風」(なのはなDX)に使われる座席がそのまま展示されています。


こちらは新幹線「つばめ」の座席。シートは何と西陣織です。もちろん嬉しいことに実際に腰掛けることが出来ます。バーチャル九州旅行気分を味わえました。

「ぼくは『つばめ』のデザイナー - 九州新幹線800系誕生物語/水戸岡鋭治/講談社」

目を引くデザインはもとより、細部にも雅やかな意匠の施されたJR九州の特急車両には、今や失われつつある鉄道旅行の期待感を高める「何か」が存在しています。やむを得ない面があるとは言え、機能一辺倒に徹するどこぞの会社の車両とは大違いです。

JR九州プロモ 白いかもめ 885系 Kamome 885 models


2月21日までの開催です。なお終了後、3月よりINAXギャラリー大阪(3/7-5/22)へと巡回します。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

「japan 蒔絵」 サントリー美術館

サントリー美術館港区赤坂9-7-4 東京ミッドタウン・ガーデンサイド)
「japan 蒔絵」
2008/12/23-2009/1/26



実のところ蒔絵はそれほど好きではありませんが、この質量ともに充実極まりない展覧会には心底驚かされました。日本の誇る蒔絵の名品が世界各地より集められています。サントリー美術館での蒔絵展へ行ってきました。



計三回の展示替えを追っかける方も多いのではないでしょうか。紹介されているのは京博や大阪市美、それにヴェルサイユ宮殿、ギメ東洋、スウェーデン王室、バリーハウス、ヴィクトリア&アルバートと、洋の東西を問わずに珠玉の蒔絵を所有する美術館の品々ばかりです。全200点弱、まさに豪華絢爛、細部にはパノラマのように広がる見事な意匠には終始圧倒されました。

代表作は公式HPを見ていただくとして、まず印象に深かったのは、西洋の銅版画をイメージしたプレケットでした。これは通常、銅版画で描かれるという肖像図を蒔絵に写し込んだもので、金に象られた男女の様子がエキゾチックなスタイルにて表されています。またこのように蒔絵を所有することにステータスがあった西洋人の一種の憧れは、時に滑稽な形で表れることもありました。その一例が「ジャパニングとワニスの技法書」などの蒔絵の言わば教本ではないでしょうか。そこには蒔絵を通して想像した何とも奇妙な日本の景色が描かれています。まさにシノワズリの極致でした。

またシノワズリ的の点においては「漆の間のあるドールハウス」も見逃せません。ここには王侯貴族が遊んだという計6室の中に、東洋趣味で統一された『中国の間』や『漆の間』が組み込まれています。もちろん必見なのは後者です。山水や花鳥モチーフの蒔絵が壁画のようにしてはめ込まれ、見るも奇妙な空間が作り上げられていました。ちなみに同様のシノワズリの関連として伊万里の大壺なども紹介されています。もちろん私は断然鍋島派ではありますが、派手な伊万里の意匠には輸出用蒔絵の感性と共通する面もありそうです。

会場前半には輸出以前、まだ西洋人も出会うべくもなかった平安から室町期の蒔絵群も展示されていました。その他、武家の趣味の色濃い桃山期の高台寺蒔絵など、里帰り作以外にも見るべき点がたくさんあります。

源氏絵から狩野派風『竹虎図』までが描かれた巨大な「マゼラン公爵家の櫃」にはたまげました。相変わらず趣味は全然合いませんが、この一点だけでも十分に行く価値のある展覧会です。



本日より会期の後半に入りました。おそらくこれほどバブリーな蒔絵展は少なくとも向こう10年はありません。お見逃しなきようご注意下さい。

今月26日までの開催です。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「素朴美の系譜」 渋谷区立松濤美術館

渋谷区立松濤美術館渋谷区松濤2-14-14
「素朴美の系譜 - 江戸から大正・昭和へ」
2008/12/9-2009/1/25



『素朴美』というキーワードにて、近現代に至るまでの日本絵画を概観します。松濤美術館で開催中の「素朴美の系譜」へ行ってきました。

率直なところ、聞き慣れない「素朴美」のイメージは最後まで掴めませんでしたが、展示前半、中世より江戸期までの言わばヘタウマ系の絵画群(お伽草子、仏画、大津絵など。)を見るだけでもかなり楽しめるのではないでしょうか。冒頭、東博所蔵にも関わらず見る機会の少なかった「鼠草子絵巻」からして、思わずニヤリとさせられるように面白い作品です。まだばれる前の『鼠人間』が、取り澄ました様子で婚礼の席についています。展観は残念ながら一部分でしたが、クライマックスは同様の作品を絵本に仕立てたサントリー美術館のグッズにでも当たるのが手っ取り早いかもしれません。

史上最強に下手な「洛中洛外図屏風」が久々にご登場です。不釣り合いなほどに状態の良い金地に描かれているのは、それこそ大地震でも起こって地面がめちゃくちゃに隆起し、また建物が傾いたかのような京都の歪みきった町並みでした。屋根にまで届く大男や大女が、鳥居や神社も引き裂かれたシュールな空間を何食わぬ顔で行き交っています。また仰々しい落款にも注目です。これはやはり『狙って』描かれたのでしょう。

品川は長徳寺に伝わるという江戸後期の仏画、「六道絵」には度肝を抜かれました。渦巻く大波や火炎が四方八方に飛び散り、まさに阿鼻叫喚の地獄絵図が烈しいタッチで描かれています。ねっとりとした濃厚な色彩感をはじめ、主題からしても恐ろしい表現はとても素朴とは思えません。ですが、一推しは紛れもなくこれです。



白隠はともかく、細やかな点描にてシニャック顔負けの野山の景色を描く玉堂に素朴さを見いだすのは困難でしたが、その他にも好きな芋銭をはじめ、岸田劉生や熊谷守一、さらには萬鉄五郎の作品なども紹介されていました。ちなみに『素朴美』という奇怪な言葉はともかく、私が一番素朴であると感じたのは作家、武者小路実篤の描いた小品です。正面から捉えられた南瓜にはまさに彼の「心情が率直に表現」(美術館HPより)されています。気取った様はまるでありませんでした。

今月25日までの開催です。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

N響定期 「シューベルト:交響曲第8番(ザ・グレート)」他 ジンマン

NHK交響楽団 第1637回定期公演 Aプログラム1日目

ショスタコーヴィチ ヴァイオリン協奏曲第1番
シューベルト 交響曲第8番「ザ・グレート」

ヴァイオリン リサ・バティアシュヴィリ
管弦楽 NHK交響楽団
指揮 デーヴィッド・ジンマン

2009/1/10 18:00 NHKホール



目当てのジンマンよりも、失礼ながらも存じ上げなかったバティアシュヴィリの方により感銘しました。トーンハレ管とのコンビでも名高いジンマンがN響に初共演します。Aプロ初日へ行ってきました。

ステレオタイプにもショスタコーヴィチと言うと、とかく暗鬱に構えるか、逆に諧謔性を強調する演奏を思い浮かべてしまいますが、ジンマンとバティアシュヴィリには、そのような言わば情緒的でかつ斜めに構えた部分は殆どありません。音楽の不純物を排するかの如く、オーケストラより軽やかでまた繊細な響きを引き出したジンマンは、安定した技巧にも裏打ちされた、即物的なバティアシュヴィリのソロをサポートすることに見事なほど成功しています。そしてもちろんバティアシュヴィリの最大の聴かせどころは、第三楽章「パッサカリア」のカデンツァではなかったでしょうか。彼女の独奏は中音域において豊かな音量があるのはもちろん、低音部のピアニッシモにも鋼のような太い芯が通っています。また最終楽章の「バーレスク」も聴き逃せません。文字通り同楽章は「道化的」(解説冊子より引用)な要素の強い部分ではありますが、バティアシュヴィリはどちらかと言うと曲の主観には立ち入らずに、それ自体の持つ運動の流れにのって駆け抜けるような疾走感に長けた演奏を披露していました。当然ながらショスタコーヴィチならではの『語り』は望めませんが、ジンマンとともに、変奏に主題の交錯するこの曲の構造を透かしとっています。訛りのない、半ば洗練されたショスタコーヴィチでした。

近年の研究によれば「第8番」が定着しつつあるという一方のシューベルトは、ジンマンならもっと突っ込めた面があったとは感じてしまうものの、あえてスケール感を放棄した、室内楽的な小気味良い演奏が繰り広げられていたのではないでしょうか。「グレート」が作曲家に独特な歌謡性を連ねたものでもなく、また小型のブルックナーのように仰々しいものでもなく、モーツァルトの交響曲の延長上として聴こえて来ただけでも収穫があります。基本的には正攻法でしたが、余分な贅肉を削ぎ落としたスタイリッシュな音楽が展開されていました。当然ながらクライマックスの高揚感も比較的控えめです。大時代的な演奏に有りがちの勿体ぶった様相は皆無でした。

SCHUBERT, Symphony 9, 4th movement

*こちらはブリュッヘンのベト7のような躍動感に満ちた「ザ・グレート」。暗部を抉られた曲が、ステージ上にて踊り狂います。

この日のN響はすこぶる好調です。指揮者が袖に下がる前に団員が立ち上るのは感心出来ませんが、(N響以外でまず見たことがありません。)ジンマンの手法に敬意を払いながら、なおかつ持てる力を全て出し切っていました。まずは初回とのことで若干の手探り感は否めませんでしたが、是非とも再度の共演を願いたいものです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「豊かな実りを祈る」(博物館に初もうで) 東京国立博物館

東京国立博物館・本館特別1室(台東区上野公園13-9
「豊かな実りを祈る - 美術のなかの牛とひと - 」(博物館に初もうで・平常展)
1/2-25



早くも正月恒例のイベントとして定着した感があります。少し遅くなりましたが、東博の平常展「初もうで展」へ行ってきました。

以下は印象深かった作品の一覧です。今年の干支は人間の生活と密接な牛だけに、さすがに展示品には事欠かない様子でした。(出品リスト



「駿牛図巻断簡」(鎌倉時代)
駿牛とは優れた牛を表す言葉だそうです。妙なたとえかもしれませんが、ちょうど競馬の名馬の写真のように、このような評判の牛の姿を飾り立てていたのかもしれません。



渡辺華山「牧牛図」(江戸時代)
可愛らしい目をした牛と、その背中へ楽し気にのる牧童の姿が描かれています。手に飛来して来た雀ももちろん仲間です。





渡辺始興「農夫図屏風」(江戸時代)
秋の農村です。耕作にいそしむ農夫の姿が穏やかなタッチで表されています。遠目からでは牛が見当たりませんが、拡大するとあちこちにいることが分かりました。実りを与えてくれる牛は感謝すべき貴重な労働力です。



森徹山「牛図屏風」(江戸時代)
今回の一推しです。大胆な銀地に二頭の牛が向かい合います。やや変色した銀の力にもよるのか、どこか異様な雰囲気をたたえていました。



俵屋宗達「牛図」(江戸時代)
水墨の名手、宗達の作品です。お馴染みのたらし込みの効果も巧みに、駆ける牛が軽やかに描かれていました。





「小袖 茶綸子地四季耕作模様」(江戸時代)
艶やかな友禅でも違和感がありません。中央には田を耕す牛の姿が描かれています。精緻な絵柄の細部に見入る作品です。



「二匹牛透鐔」(安土桃山~江戸時代)
地味ながらも重文指定を受けた逸品です。家康の次男、結城秀康の刀に付属していました。二頭の牛が何やらアクロバットに回転しています。



ベトナム「五彩水牛文大皿」(16世紀)
キャプションにはキュビズム風とありましたが、私にはどうしてもそう見えません。赤と緑の線描で色鮮やかな牛を象ります。

本展示の前に、東洋館の特集陳列「吉祥 - 歳寒三友」も拝見してきました。そちらも次回以降のエントリでご紹介出来ればと思います。

平常展示「豊かな実りを祈る」は今月25日までの開催です。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「雪舟と水墨画」 千葉市美術館

千葉市美術館千葉市中央区中央3-10-8
「岡山県立美術館所蔵 雪舟と水墨画」
2008/12/20-2009/1/25



岡山県立美術館の主に水墨画コレクションを概観します。千葉市美術館で開催中の「雪舟と水墨画」へ行ってきました。

前半に牧谿、一休、雪舟らの南宋や室町期の作品が並び、後半部にて主に江戸期の武蔵、玉堂、鉄斎、または岡山出身の柴田義重と岡本豊彦が紹介されています。事実上、室町以前と江戸時代の水墨絵画に分かれた二部構成の展覧会と捉えて問題ありません。「雪舟」とあると全て室町絵画で占められているように思えてしまいますが、その辺は注意が必要です。(出品数全66点。うち室町を含むそれ以前の作品は約30点。)



冒頭、伝夏珪の「山水図」(南宋時代)の明快なパースペクティブには雪舟の原点を見ることが出来ます。葉のざわめく木立の向こうに楼閣がたち、そこから広がる湖の先には仄かに望む山々が幾重にも連なっていました。湖面に漂う靄もまた幻想的です。きっと楼閣には心地よい風が吹いているに違いありません。



重文を含む雪舟の「山水図」の三点の響宴には強く惹かれました。「山水図 倣玉潤」における瑞々しい溌墨は、まさに抽象画の美感と即興の緊張感が同時に表されています。画面左下方、横に伸びた墨の線は、水に浮かぶ一艘の小舟なのでしょうか。簡素極まりない山水の光景にも確かにドラマが存在していました。



雪村の大作、「瀟湘八景図屏風」(室町末から桃山時代)が出ています。彼にしてはやや大人しい印象を与えられましたが、まるで波頭か触手のようにして迫り出す奇岩にはやはりオリジナリティがあるのではないでしょうか。うっすらと輝く金泥もまた華やかでした。



円山四条派のDNAを岡山で受け継いだ岡本豊彦の「松鶴波涛図屏風」も見応えある一枚です。緑青の鮮やかな色遣い、もしくは明朗な鶴のモチーフなどは、其一を連想させるものがありました。また玉堂、鉄斎だけでも合計10点は展示されています。岡山県立美術館の水墨画の代表作はほぼ一揃え紹介されているのかもしれません。

同時開催中の収蔵品展「カラーズ」(出品リスト)も秀逸でした。さりげなく渓斎英泉や月岡芳年が出ています。

今月25日までの開催です。
コメント ( 8 ) | Trackback ( 0 )

「石内都展 - ひろしま/ヨコスカ - 」 目黒区美術館

目黒区美術館目黒区目黒2-4-36
「石内都展 - ひろしま/ヨコスカ - 」
2008/11/15-2009/1/11



切々と語られるモノローグに心打たれました。初期の「横須賀ストーリー」より最新の「ひろしま」に至るまで、石内の業績を時間軸、及び各テーマに沿って回顧します。目黒区美術館で開催中の個展へ行ってきました。

70年代後半、初期三部作の「横須賀ストーリー」、「APARTMENT」、「連夜の街」は、ざらっとした質感のモノクロームのオブラートの中から、各々の強烈な場所性が滲み出すように露となる美しい作品です。そもそも彼女は、被写体の歴史や記憶をそれ自身に語らせることに長けていますが、例えば「連夜の街」一つを取っても、汚れたタイル画やハート形の格子などから、かつて繰り広げられた卑猥な欲情の痕跡を確かに汲み取れるのではないでしょうか。また片隅捉えられた猫の姿も印象に残りました。風化し、建物からも消えつつある記憶の断片は、何食わぬ顔で歩く猫のような存在にこそ受け継がれていくのかもしれません。

身体を捉えた作品も初期作と同様、トルソーとしての面白さよりも、いかに被写体の経験を引き出すかということに強い関心が払われています。皮膚に残された生々しい傷跡やしみ、そして皺の跡は、モデルの受け継いで来た生き方の有り様を静かに語っていました。もちろんその昇華したのが「Mother's」に他なりません。石内は母の魂の居場所を口紅の中に見つけ出しました。そしてもちろん彼女は口紅と語りながら、母と過ごした日々の記憶を再生し、未来へと繋げているわけです。

「ひろしま/石内都」

「ひろしま」シリーズを私の安易な言葉で表すのは抵抗があります。有無を言わさない、肌へひしひしと伝わってくる被写体の叫びが展示室全体に谺していました。

明後日、11日までの開催です。今更ながらもおすすめします。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「Haptic - 触覚」 TWS本郷

トーキョーワンダーサイト本郷文京区本郷2-4-16
「Haptic - 触覚|ヴィック・ムニーズ キュレーションによるブラジル・日本アーティスト展」
2008/11/22-2009/1/12



TWS渋谷で個展開催中のムニーズがキュレーションしています。日本とブラジルの計6名のアーティストのグループ展です。本郷のワンダーサイトで開催中の「Haptic - 触覚」へ行ってきました。



触覚とありながら、実際に手で触れる作品がないのが残念ですが、そのイメージ、ようは作者の手の「エネルギー」(公式HPより)を介したオブジェなどには、半ば『触覚的体験』を得ることが出来るのかもしれません。その意味での白眉は、木製家具を用いてシュールな造形物を作る窪田美樹の「かげとり」、計3点でした。残骸と化した家具が時に引き延ばされ、また逆さにひっくり返り、僅かな一点のみで起立する直方体と化す様子は、あたかも手で捏ねて出来た粘土のオブジェを見ているような味わいさえ感じられます。素材へ格闘する作家の痕跡が確かに感じられました。

外国人作家は印象に残りませんでしたが、その他では資生堂での個展も近づいて来た宮永愛子、または初台の個展も記憶に新しい長井朋子などが紹介されています。展示全体の完成度はともあれ、この三名のセレクトは私としてかなり好印象です。

次の連休も全日オープンしています。12日、月曜日までの開催です。
コメント ( 0 ) | Trackback ( 0 )

「ヴィック・ムニーズ - ビューティフル・アース」 TWS渋谷

トーキョーワンダーサイト渋谷渋谷区神南1-19-8
「ヴィック・ムニーズ - ビューティフル・アース」
2008/11/22-2009/3/1



MOTの「ネオ・トロピカリア」にも出品がありました。チョコや砂糖、時にはダイヤモンドなどの素材を用いて『絵画』を描く、サンパウロ生まれのヴィック・ムニーズを紹介します。渋谷のワンダーサイトでの個展へ行ってきました。

ちらし画像だけではイメージも浮かびませんが、実際の展示を見ると、素材とモチーフとの意外な組み合わせに驚かされること間違いありません。ムニーズの完成作は写真ですが、素材はタイヤやバケツ、それにボロきれやペットボトルなど、全て捨てられたゴミによっています。つまりはそれらを土(色土)の『下絵』にそってパズルのようにはめ合わせ、結果的にブラジルの街角の人々などを捉えたポートレートを浮かび上がらせているわけです。言わば彼にとっての絵具はゴミです。チューブから色を絞るのと同じように、土を整え、ゴミを置いて形を作っていました。



展示写真も縦2メートル程度ありますが、彼が実際にゴミを動かして『絵画』を制作する映像を見ると、作品自体が如何に巨大であるかということが良く分かるのではないでしょうか。ゴミという素材によるのか、サブタイトルの如く環境を強く意識した展示ではありますが、純然たるランドアートとして楽しんでもそう問題ありません。ごろんと転がるソファやぬいぐるみ、そしてドラム缶までが、肌や顔の表情を象るパーツと化しています。

同様の技法にてピカソの「泣く女」など、名画を『再生』させた作品も展示されていました。そちらも要注目です。

ロングランの展覧会です。3月1日まで開催されています。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

A Day in the Museum@国立西洋美術館(2009年1月)

毎年このようにして無料で開放されているのでしょうか。無料開館日の新春2日、国立西洋美術館での常設展示を見てきました。

「A Day in the Museum - 美術館へ行こう」(美術ファンクラブ)

以下、いつものように惹かれた作品をいくつかアップしてみます。ちなみにご存知の通り、同館常設展は、フラッシュを用いなければ展示品の全てが撮影可能です。



ジョルジョ・ヴァザーリ「ゲッセマネの祈り」(1570)
あまりにも有名な新約のワンシーンです。眠りこける三人の使徒をよそに、天使に祈りを捧げるイエスの姿が描かれています。また左奥から闖入してきているのは、イエスを捕まえようとユダに引き連れられた群衆です。ヨハネの魅惑的な表情に惹かれる方も多いのではないでしょうか。



ヘーラルト・ダウ「シャボン玉を吹く少年と静物」(1635)
ともかく籠の表面を見て下さい。とても絵画とは思えません。高い質感表現で魅せるダウ渾身の力作です。



グイド・レーニ「ルクレティア」(1636~1638)
短剣を右手もとに置き、これから自殺しようとするルクレティアの虚ろな表情が印象に残ります。自殺という一つの劇的なイベントより、青白い裸体、もしくはシーツなどの質感表現にも見入るべき点の多い作品です。



ダフィット・テニールス(父)「ウルカヌスの鍛冶場を訪れたヴィーナス」(1638)
「鍛冶の神ウルカヌスがヴィーナスに請われて、彼女の息子のアエネアスのために武器を鋳造」(所蔵作品検索より引用)しています。また今回は展示されていませんでしたが、テニールス(子)の「アントニウスの誘惑」も魅力ある一枚ではないでしょうか。西美でいつかテニールス親子の企画展があればと願うところです。



アンリ・ファンタン=ラトゥール「花と果物、ワイン容れのある静物」(1865)
静物画、とりわけ花卉画に佳作の多いファンタン=ラトゥールの作品です。桃の表面の毛羽立った質感までが巧みに表現されています。深い紅色のワインも美味しそうです。



ダンテ・ガブリエル・ロセッティ「愛の杯」(1867)
彼女の掲げる愛の杯を飲み干すのは誰でしょうか。アーサー王伝説に取材したロセッティを代表する見事な一枚です。彼女に会わないと西美に来た気がしません。



ギュスターヴ・クールベ「波」(1870)
クールベの「波」は各種ありますが、私の中での基準作は紛れもなくこれです。大きく曲線を描き、波頭の割れる様を描いた波の力強さは比類がありません。ちなみに本作は、印象派の画家たちを魅了した英仏海峡のエトルタで描かれていると考えられています。



アルフレッド・シスレー「ルーヴシエンヌの風景」(1873)
私の偏愛の画家、シスレーが出ていました。比較的、構図、また細部に秩序だった点の多い初期の頃の作品です。ちなみに意外にも国立美術館にはシスレーがこれ一枚しかありません。



クロード・モネ「雪のアルジャントゥイユ」(1875)
雪景色を描いてモネにかなう画家など存在しません。パリ近郊、セーヌ河側のアルジャントゥイユを描いています。モネはこの街で約7年間滞在しました。何度見てもその美しさに心打たれます。



ピエール・ピュヴィ・ド・シャヴァンヌ「貧しき漁夫」(1881)
オルセー所蔵の異作として知られる作品だそうです。灰色を帯びた抑制的な色遣いの中に、川面に浮かぶ一艘の小舟と漁夫、そして子供が描かれています。漁夫にイエスのイメージが重なることは言うまでもありません。あたかもこれから十字架にのぼる姿であるかのようです。



ポール・シニャック「サン=トロぺの港」(1901)
スーラとシニャックに甲乙をつけるのは困難ですが、今回はシニャックに良い作品が出ていました。やや大きめの描点が、光に包まれた地中海の港町をのびやかに表しています。



エドゥアール・ヴュイヤール「縫いものをするヴュイヤール夫人」(1920)
見慣れた西美常設作品のも多い中、今回初めて惹かれた一枚かもしれません。暖色系のタッチが何気ない日常の幸福感を醸し出しています。

なお西美のHP上で先日、次回企画展以降、2010年度末までのスケジュールが発表されました。

今年の展覧会・イベントラインナップ!!(PDF)

ルーヴル美術館展(2009/2/28-6/14)
古代ローマ帝国の遺産(2009/9/19-12/13)
フランク・ブラングィン展(2010/2/23-5/30)


注目のルーヴルももちろん外せませんが、もう一つ目を引くのは松方コレクションとも縁の深いイギリス人画家、フランク・ブラングィンの回顧展です。ちなみに2006年には同館で彼の版画展も開催されています。ご記憶の方も多いのではないでしょうか。

かねてより新館閉鎖中のため、本館のみでの展示でしたが、質量ともに違和感なく楽しむことが出来ました。さすがにこの日は無料のため、それなりに混み合っていましたが、ルーヴル開催前までは静かな環境で珠玉の西洋絵画に触れられる格好のスポットともなりそうです。
コメント ( 2 ) | Trackback ( 0 )

「国宝 雪松図と能面」 三井記念美術館

三井記念美術館中央区日本橋室町2-1-1 三井本館7階)
「寿ぎと幽玄の美 国宝 雪松図と能面」
2008/12/10-2009/1/24



お馴染み「雪松図」と、先だって重文指定を受けた館蔵の能面などを概観します。三井記念美術館で開催中の「国宝 雪松図と能面」を見てきました。



三井の戦略に思いっきりのせられていますが、やはり私にとってのお正月は応挙の「雪松図」から始まります。同作品については以前も触れたことがありましたが、簡略化された最低限の墨線にて遠近感や立体感の巧みに表された松は、美しい金粉の効果もあってか、新年を祝うのに相応しい姿であることは言うまでもないでしょう。また今年改めて見ることで印象深かったのは、左右に異なった構図上の空間表現です。上部に幹も抜け、全体としても手前側に迫り出すかのように描かれた右隻に対し、左隻はやや遠方から捉えることで、松の後方へ広がる空間の無限な広がりを演出しています。あたかも舞台の前後で相互に大見得をきる役者たちの姿のようにも見えました。

 

本来の鑑賞の方法ではないかもしれませんが、一種のポートレートとして捉えれば能面は俄然面白くなってきます。「雪松図」より後半、ずらりと揃うのは翁、尉、鬼神、男、女の五種に大別された「旧金剛宗家伝来能面」全54面です。中でも興味深いのは、すらりとした卵形の顔面の中に喜怒哀楽、それぞれに異なった情感をたたえる女面でした。口を僅かにあけ、また目を細めながら、前を静かに見据える様子は、例えば鬼神における誇張された表現にはない、言わばミニマルな美感を纏った人間の多様な感情を確かに見ることができます。昔語りをして恐縮ですが、かつて父の実家に、曾祖母が嗜んでいた能の女面が一つだけ飾られていました。まだ幼かった私はそれがどうしても怖く、家に連れて行かれてもその能面の前だけはなるべく顔を背けて通っていたことを良く覚えています。能面は見る者の心持ちを見透かす神秘的な力があるのかもしれません。逃げようとした子供の頃の私はそういう意味でとても正直でした。

その他、同館ご自慢の長次郎の黒楽「俊寛」をはじめとする茶道具、または応挙、呉春などの屏風も紹介されています。

今月24日までの開催です。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

「レオナール・フジタ展」 上野の森美術館

上野の森美術館台東区上野公園1-2
「レオナール・フジタ展」
2008/11/15-2009/1/18



2年前の大回顧展の記憶も蘇ります。上野の森美術館で開催中の「レオナール・フジタ展」へ行ってきました。

展示ではお馴染みの「素晴らしき乳百色」の諸作群が比較的初期の頃より紹介されていますが、それよりも見るべきは、1929年に日本で一度公開されて以来、長らく行方不明であった「構図」と、対になる「争闘」(日本初公開)の超大作4点、または最晩年、キリスト教改宗後に『フジタ』として手がけた礼拝堂のためのフレスコ壁画諸習作群です。特に縦横3メートルにも及ぶ作品が横一列に並ぶ前者の姿は壮観です。実は藤田はそれほど好きな画家ではありませんが、立ち位置を変え、細部にじっくりと見入ってしまいました。





いわゆる群像表現とも呼ばれる「構図」と「争闘」を前にすると、直接的な主題こそ異なりながらも、かつての回顧展でも非常に印象的であった藤田の一種のスペクタクルな戦争画をどうしても連想してしまいます。隆々とした肉体を披露し、殆ど各々が無個性的に絡み合い、戦い、そして乱れる様は、まさに「血戦ガダルカナル」などにおける激しい修羅場の別の形であるように思えてなりません。もちろん「構図」と「争闘」は彼の美しき乳白色で統一され、戦争画における血の表現も、また目を背けたくなるような惨状こそ封じられていますが、画面を濃密に埋め尽くすかのようにして動き廻る人々の様子は、かの地獄絵図へと通じる部分を見出せるのではないでしょうか。藤田は常に乳白色のオブラートを用いながら、人間の奥底に湧き出る卑猥で、またむさぼるような欲望を比較的ダイレクトに露にしました。晩年の俗っぽい宗教画、そして奇妙に色っぽ過ぎて挑発的な女性裸婦画、さらには無邪気だからこそから恐ろしい子供の絵などは、彼のそうした面を表してはいるのかもしれません。藤田は猫よりも人間にこそ「野獣性と家畜性」を見ています。烈しき群像に剥き出しの魂の格闘の痕跡が示されていました。



後半部分、晩年を過ごしたフランスの小村のアトリエの再現展示には臨場感があります。またランスの礼拝堂のための素描も見応え十分でした。上野の森という手狭なスペースを逆手に取っています。あえて画業の一部分にだけ焦点を当て、藤田の魅力をまた新たにする優れた展覧会です。

18日まで開催されています。おすすめします。

*東京展終了後、福岡市美術館(2/22~4/19)、またせんだいメディアテーク(4/26~6/7)へと巡回します。
コメント ( 4 ) | Trackback ( 0 )

今月の予定 2009年1月

年を越えることで展示もかなり入れ替わります。私的スケジュール帳、「今月の予定」を挙げてみました。

展覧会

「レオナール・フジタ展」 上野の森美術館(~1/18)
「寿ぎと幽玄の美 - 国宝雪松図と能面 - 」 三井記念美術館(~1/24)
「雪舟と水墨画」 千葉市美術館(~1/25)
「素朴美の系譜」 渋谷区松濤美術館(~1/25)
「セザンヌ主義 - 父と呼ばれる画家への礼賛」 横浜美術館(~1/25)
「DOMANI・明日展2008」 国立新美術館(~1/26)
「japan 蒔絵」 サントリー美術館(~1/26)
「いとも美しき西洋版画の世界」 八王子夢美術館(~1/27)
「第4回府中ビエンナーレ トゥルー・カラーズ」 府中市美術館(~2/1)
「ランドスケープ 柴田敏雄展」 東京都写真美術館(~2/8)
「三瀬夏之介展 - 冬の夏」 佐藤美術館(1/15~2/22)
「妙心寺」 東京国立博物館(1/20~3/1)
「松岡映丘とその一門」 山種美術館(1/6~3/1)
「十二の旅 - 感性と経験のイギリス美術」 世田谷美術館(1/10~3/1)
「近代の屏風絵」 泉屋博古館(1/10~3/15)

ギャラリー

「束芋 - ハウス」 ギャラリー小柳(~2/14)
「第3回 shiseido art egg - 宮永愛子」 資生堂ギャラリー(1/9~2/1)
「西尾康之 - Drown」 山本現代(1/10~2/7)
「内海聖史 - 十方視野」 ラディウム(1/10~2/14)
「棚田康司 - 結ぶ少女」 ミヅマアートギャラリー(1/28~2/28)

コンサート

「NHK交響楽団第1637回定期公演Aプログラム」 シューベルト「交響曲第8番」他 (10、11日)



まず優先したいのは今月末で終える展示です。何と元日より開館していたという上野の森のフジタ、また賛否両論の渦巻く横浜のセザンヌなどの大型展は近日中に行きたいと思います。また近郊の八王子の「西洋版画の世界」も前々から要チェックの展覧会でした。既に巡回前の埼玉県美でご覧になった方も多そうですが、私は一度訪ねたかった同市内の村内美術館とセットで廻ってくるつもりです。



今月開始の展示で一推しにしたいのは、本年のVOCA賞の受賞も決まった三瀬夏之介の個展「冬の夏」です。ちなみに今個展について氏は、「展示は今までで一番気持ちの込められた空間。」であり、また「コアな部分が出てるはず。」(ともに上記リンク先、作家ブログより。)と述べています。これは当然ながら期待大です。会期早々に駆けつけます。





好調東博の妙心寺展が20日より始まります。内容は妙心寺で「花開いた」(公式HPより)禅文化を紹介するものですが、やはり注目したいのは同寺に伝わる江戸絵画の品々ではないでしょうか。既にHP上でも狩野山楽や海北友松らの勇壮な屏風(展示替えあり)が紹介されていますが、それよりも私はいただいたチラシの裏を見てたまげました。一度はお目にしたかった、メトロポリタン美術館所蔵の畢竟の奇作、狩野山雪の「老梅図襖」(上画像)の出品が告知されています。これは絶対に見逃せません。(大琳派展同様、会期中一人2回券としても使用可能な前売ペアチケットも発売中です。)



ギャラリーでは京橋の小柳で開催中の束芋の他、静岡県美でも好評を博したという内海聖史の個展がお馴染みレントゲンで始まります。また銀座の資生堂では、毎年3名のアーティストが空間を駆使してのインスタレーションで勝負するアートエッグが開催されます。トップバッターはナフタリンを操る宮永愛子です。彼女の作品は時間の経過で姿を変えるので、まずは会期初めに拝見したいです。

コンサートはジンマンの振るN響を挙げてみました。まだ当日券にも余裕があるそうなので、土日のどちらかに聴いてきます。

三が日はいかがお過ごしでしょうか。それでは今月もどうぞ宜しくお願いします。
コメント ( 6 ) | Trackback ( 0 )

謹賀新年 2009

新年明けましておめでとうございます。
本年も皆さまにとって素晴らしい一年であるよう、心よりお祈り申し上げます。



上の画像は例年と同じく酒井抱一より、先だっての大琳派展にも出品された「十二ヶ月花鳥図・一月」(ファインバーク本)です。実のところお目出度い正月にも関わらずどうも調子が優れませんが、三が日は早速、東博の「初もうで展」に『美術初め』と参るつもりです。

それでは本年もこの「はろるど・わーど」をどうぞ宜しくお願いします。
コメント ( 13 ) | Trackback ( 0 )
   次ページ »