都内近郊の美術館や博物館を巡り歩く週末。展覧会の感想などを書いています。
はろるど
「わたし超スキッ!! 草間彌生」 軽井沢ニューアートミュージアム
軽井沢ニューアートミュージアム
「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」
4/11-9/23
軽井沢ニューアートミュージアムで開催中の「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」へ行ってきました。
軽井沢のまさに中心、駅から北へのびるメインストリートに位置する軽井沢ニューアートミュージアム。ガラス張りの外観も軽快。カラマツ林を意識したという白い柱もすっかり街に溶け込んでいます。
今そこで開催中なのが、まさに長野県生まれの草間彌生の個展。言うまでもなく水玉で世界を席巻。日本を代表するアーティストです。
さて草間といえば、六本木の森美術館や、先だっての埼玉県立近代美術館しかり、このところ大きな美術館でも個展続き。一方、ここ軽井沢ニューアートでは何を見せて、また何を特徴とするのか。
結論から申し上げましょう。草間の最初期から近作までを網羅しつつ、特に70年代後半、アメリカから帰国後のいわゆる不遇だった時代にもスポットを当てています。
第1章 松本~京都~東京 1929~57
第2章 ニューヨーク 1957~1973
第3章 ヴェネツィア・ビエンナーレ以前 1973~1993
第4章 ヴァネツィア・ビエンナーレ以降 1993~現在
ではその最初期から。生まれの松本、そして京都市立美術工芸学校時代の作品。まるでクレーを思わせるような抽象から、後の水玉を彷彿させる「点」、そして「ネット」状の平面まで。草間の原点を見ることが出来ます。
草間は精神科医の式場隆三郎に見出されて東京へ。50年代中盤には都内画廊や百貨店で個展を開催。キャリアを重ねていきます。そして単身ニューヨークへ。当初は経済的にも非常に厳しい生活を強いられながらも、旺盛な制作意欲で次々と大作に挑みました。
草間彌生「無題」1963年 ミクストメディア
ここで面白いのは、アメリカで起きた反戦運動に関係し、草間のハプニング・パフォーマンスを映像で紹介していること。また60年代初期の写真映像集「集積ー千のポート・ショー」(1961-64)なども。編集はいずれもワタリウム美術館。これが意外と見入ります。
草間彌生「自己消滅」1966-74年 ミクストメディア
またマネキンに水玉をあわせた「自己消滅」(1966-74)のインスタレーションも展示。こちらは撮影可能でした。
さてその後がいよいよ70年代、アメリカから帰国後、不遇であった時代の作品です。先のニューヨークでは大画面へネットやドットを配した力強い作品が多かったのに対し、この時期は小さな画面に何やら暗鬱で閉塞感すら漂う奇怪なモチーフが跋扈。死を思わせるイメージも。また昆虫や鳥などの写真をコラージュしたものも目立ちます。
最近の作風からすれば半ば隔絶しているともとれる70年代。知られざる草間の作品にただただ驚かされるばかりでした。
再評価の大きな切っ掛けとなったのが、1993年のヴェネツィアビエンナーレ。草間はこの年の日本館で当時としては異例の個展を開催します。
草間彌生「PUMPKIN PUMPKIN」2000年 油彩・カンヴァス
お馴染みのカボチャのモチーフ、「PUMPKIN PUMPKIN」(2000)もご覧の通り。(この作品も撮影可能です。)また松本市美術館からやってきた横5メートル超の「Infintity Nets 雪原」(2001)なども展示。ちなみに会場には同美術館の他、板橋区立美術館、国立国際美術館、富山県立近代美術館などの作品も登場。思いの外に多彩です。
草間彌生「GOLDEN-NETS 黄金の網」2007年 アクリル・カンヴァス
約90点弱で追いかける草間の今と昔。ともすると紹介されにくい70年代。水玉、ネットだけではない全体像を知ることが出来ました。
軽井沢グッズも充実したミュージアムショップ
さて美術館は軽井沢の一等地。館内にはギャラリーの他、この界隈としてはリーズナブルなレストランも。その名は「リストランテ・ピエトリーノ」。イタリアンでお昼のパスタコースは1500円からです。
デザートは草間仕様のカボチャのケーキをいただきました。美味!
軽井沢ニューアートウェディング
なお同館ではウェディング業務にも力を入れ始めているとか。展示室の一室(先の黄色のカボチャのあった部屋です。)がそのまま式場へ。いわゆる人前式の形。
ウェディングイメージのバンケットルーム
またバンケットルームでは好きな作品を前に披露宴を行うことが可能。こちらの写真はイメージバンケットです。後ろに見えるジュリアン・オピーや白髪一雄、李禹煥などはもちろん全て本物。他にも色々と選べます。(撮影許可をいただきました。)
ウェディングイメージのバンケットルーム
軽井沢といえばウェディングのメッカでもありますが、美術館ウェディングはおそらくここニューアートだけではないかと。また新たな試みとして注目されそうです。
会期途中で一部の作品が入れ替わります。展示替え中は観覧出来ません。ご注意下さい。
前期:4月11日(木)~6月30日(日)
後期:7月5日(金)~9月23日(月・祝)
ニューアートミュージアムの裏手方向から望む「森の礼拝堂」
「わたし超スキッ!! 草間彌生」展は9月23日まで開催されています。
「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」 軽井沢ニューアートミュージアム
会期:4月11日(木)~9月23日(月・祝) 前期:4月11日(木)~6月30日(日)、後期:7月5日(金)~9月23日(月・祝)
休館:火曜日。(祝日の場合は翌日)
時間:4月~6月 10:00~17:00、7月~9月 10:00~18:00 *入館は30分前まで。
料金:一般1500円、65歳以上・高校・大学生1200円、小・中学生700円。
*20名以上の団体は各200円引き。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町1151-5
交通:JR長野新幹線軽井沢駅、しなの鉄道軽井沢駅より徒歩7分。専用駐車場あり。
「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」
4/11-9/23
軽井沢ニューアートミュージアムで開催中の「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」へ行ってきました。
軽井沢のまさに中心、駅から北へのびるメインストリートに位置する軽井沢ニューアートミュージアム。ガラス張りの外観も軽快。カラマツ林を意識したという白い柱もすっかり街に溶け込んでいます。
今そこで開催中なのが、まさに長野県生まれの草間彌生の個展。言うまでもなく水玉で世界を席巻。日本を代表するアーティストです。
さて草間といえば、六本木の森美術館や、先だっての埼玉県立近代美術館しかり、このところ大きな美術館でも個展続き。一方、ここ軽井沢ニューアートでは何を見せて、また何を特徴とするのか。
結論から申し上げましょう。草間の最初期から近作までを網羅しつつ、特に70年代後半、アメリカから帰国後のいわゆる不遇だった時代にもスポットを当てています。
第1章 松本~京都~東京 1929~57
第2章 ニューヨーク 1957~1973
第3章 ヴェネツィア・ビエンナーレ以前 1973~1993
第4章 ヴァネツィア・ビエンナーレ以降 1993~現在
ではその最初期から。生まれの松本、そして京都市立美術工芸学校時代の作品。まるでクレーを思わせるような抽象から、後の水玉を彷彿させる「点」、そして「ネット」状の平面まで。草間の原点を見ることが出来ます。
草間は精神科医の式場隆三郎に見出されて東京へ。50年代中盤には都内画廊や百貨店で個展を開催。キャリアを重ねていきます。そして単身ニューヨークへ。当初は経済的にも非常に厳しい生活を強いられながらも、旺盛な制作意欲で次々と大作に挑みました。
草間彌生「無題」1963年 ミクストメディア
ここで面白いのは、アメリカで起きた反戦運動に関係し、草間のハプニング・パフォーマンスを映像で紹介していること。また60年代初期の写真映像集「集積ー千のポート・ショー」(1961-64)なども。編集はいずれもワタリウム美術館。これが意外と見入ります。
草間彌生「自己消滅」1966-74年 ミクストメディア
またマネキンに水玉をあわせた「自己消滅」(1966-74)のインスタレーションも展示。こちらは撮影可能でした。
さてその後がいよいよ70年代、アメリカから帰国後、不遇であった時代の作品です。先のニューヨークでは大画面へネットやドットを配した力強い作品が多かったのに対し、この時期は小さな画面に何やら暗鬱で閉塞感すら漂う奇怪なモチーフが跋扈。死を思わせるイメージも。また昆虫や鳥などの写真をコラージュしたものも目立ちます。
最近の作風からすれば半ば隔絶しているともとれる70年代。知られざる草間の作品にただただ驚かされるばかりでした。
再評価の大きな切っ掛けとなったのが、1993年のヴェネツィアビエンナーレ。草間はこの年の日本館で当時としては異例の個展を開催します。
草間彌生「PUMPKIN PUMPKIN」2000年 油彩・カンヴァス
お馴染みのカボチャのモチーフ、「PUMPKIN PUMPKIN」(2000)もご覧の通り。(この作品も撮影可能です。)また松本市美術館からやってきた横5メートル超の「Infintity Nets 雪原」(2001)なども展示。ちなみに会場には同美術館の他、板橋区立美術館、国立国際美術館、富山県立近代美術館などの作品も登場。思いの外に多彩です。
草間彌生「GOLDEN-NETS 黄金の網」2007年 アクリル・カンヴァス
約90点弱で追いかける草間の今と昔。ともすると紹介されにくい70年代。水玉、ネットだけではない全体像を知ることが出来ました。
軽井沢グッズも充実したミュージアムショップ
さて美術館は軽井沢の一等地。館内にはギャラリーの他、この界隈としてはリーズナブルなレストランも。その名は「リストランテ・ピエトリーノ」。イタリアンでお昼のパスタコースは1500円からです。
デザートは草間仕様のカボチャのケーキをいただきました。美味!
軽井沢ニューアートウェディング
なお同館ではウェディング業務にも力を入れ始めているとか。展示室の一室(先の黄色のカボチャのあった部屋です。)がそのまま式場へ。いわゆる人前式の形。
ウェディングイメージのバンケットルーム
またバンケットルームでは好きな作品を前に披露宴を行うことが可能。こちらの写真はイメージバンケットです。後ろに見えるジュリアン・オピーや白髪一雄、李禹煥などはもちろん全て本物。他にも色々と選べます。(撮影許可をいただきました。)
ウェディングイメージのバンケットルーム
軽井沢といえばウェディングのメッカでもありますが、美術館ウェディングはおそらくここニューアートだけではないかと。また新たな試みとして注目されそうです。
会期途中で一部の作品が入れ替わります。展示替え中は観覧出来ません。ご注意下さい。
前期:4月11日(木)~6月30日(日)
後期:7月5日(金)~9月23日(月・祝)
ニューアートミュージアムの裏手方向から望む「森の礼拝堂」
「わたし超スキッ!! 草間彌生」展は9月23日まで開催されています。
「わたし超スキッ!! 草間彌生ー世界を感動させた自己愛」 軽井沢ニューアートミュージアム
会期:4月11日(木)~9月23日(月・祝) 前期:4月11日(木)~6月30日(日)、後期:7月5日(金)~9月23日(月・祝)
休館:火曜日。(祝日の場合は翌日)
時間:4月~6月 10:00~17:00、7月~9月 10:00~18:00 *入館は30分前まで。
料金:一般1500円、65歳以上・高校・大学生1200円、小・中学生700円。
*20名以上の団体は各200円引き。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町1151-5
交通:JR長野新幹線軽井沢駅、しなの鉄道軽井沢駅より徒歩7分。専用駐車場あり。
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「吉田夏奈 海は青い、森は緑」 アートフロントギャラリー
アートフロントギャラリー
「吉田夏奈 海は青い、森は緑」
5/24-6/16
アートフロントギャラリーで開催中の吉田夏奈個展、「海は青い、森は緑」へ行ってきました。
最近では昨年のあざみ野コンテンポラリーの他、京橋リクシルでも個展を行った吉田夏奈。立体と平面を駆使してのパノラマ的インスタレーション。青い海に深い森に山と、美しき自然を連想させる作品で魅了してきました。
その吉田夏奈が今度は代官山のアートフロントギャラリーに挑戦。かつての展開と新たな視点。また一つ変化した展示を繰り広げています。
それでは二つあるアートフロントのスペース。道路に面した空間から見ていきましょう。
手前:吉田夏奈「Panoramic Lake」2013年 スチレンボードにオイルパステル、クレヨン
こちらはリクシルでの展示と同様の「Panoramic Lake」。スペース中央に広がるのは山に囲まれた巨大な湖。何と縦5メートル超に横3メートル弱。そしてそれを見下ろすのが同じく湖や山を鳥瞰的に捉えた平面の作品です。
吉田夏奈「城山日出峰の目眩」2012年 紙にオイルパステル、クレヨン
上から下、下から上へ。見る角度を変えて見るとまた景色も変化していく。山の稜線に岩肌。そして陽の明かりに煌めく水面。細かな線描もポイントかもしれません。
さてメインのフロアへ。パネルの作品とともにあるのが、今回の新作、レリーフ状の森、その名も「海は青い、森は緑」です。
吉田夏奈「海は青い、森は緑」2013年 木、スチレンペーパー、アクリル、オイルパステル、クレヨン
レリーフの森は一見、ランダムに、しかしながらやはり何らかの『場』を構成するかのように配置されています。
吉田夏奈「海は青い、森は緑」2013年 木、スチレンペーパー、アクリル、オイルパステル、クレヨン
独立したレリーフがいくつか重なって生み出される新たな景色。吉田は現在、制作の拠点を小豆島に移しています。レリーフの間にある言わば余白の空間こそ瀬戸内の海。その間を縫って歩くことは、それこそ船に乗って瀬戸内の島を廻る体験をイメージさせるもの。見る側の想像力を喚起させる作品でもありました。
吉田夏奈「Face to the Green」2011年 紙にオイルパステル、クレヨン
なお吉田は小豆島も会場の一つである「瀬戸内国際芸術祭2013」に大型の作品を出品しています。そちらも是非見たいものです。
6月16日までの開催です。
「吉田夏奈 海は青い、森は緑」 アートフロントギャラリー(@art_front)
会期:5月24日(金)~6月16日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区猿楽町29-18ヒルサイドテラスA棟
交通:東急東横線代官山駅より徒歩5分。
「吉田夏奈 海は青い、森は緑」
5/24-6/16
アートフロントギャラリーで開催中の吉田夏奈個展、「海は青い、森は緑」へ行ってきました。
最近では昨年のあざみ野コンテンポラリーの他、京橋リクシルでも個展を行った吉田夏奈。立体と平面を駆使してのパノラマ的インスタレーション。青い海に深い森に山と、美しき自然を連想させる作品で魅了してきました。
その吉田夏奈が今度は代官山のアートフロントギャラリーに挑戦。かつての展開と新たな視点。また一つ変化した展示を繰り広げています。
それでは二つあるアートフロントのスペース。道路に面した空間から見ていきましょう。
手前:吉田夏奈「Panoramic Lake」2013年 スチレンボードにオイルパステル、クレヨン
こちらはリクシルでの展示と同様の「Panoramic Lake」。スペース中央に広がるのは山に囲まれた巨大な湖。何と縦5メートル超に横3メートル弱。そしてそれを見下ろすのが同じく湖や山を鳥瞰的に捉えた平面の作品です。
吉田夏奈「城山日出峰の目眩」2012年 紙にオイルパステル、クレヨン
上から下、下から上へ。見る角度を変えて見るとまた景色も変化していく。山の稜線に岩肌。そして陽の明かりに煌めく水面。細かな線描もポイントかもしれません。
さてメインのフロアへ。パネルの作品とともにあるのが、今回の新作、レリーフ状の森、その名も「海は青い、森は緑」です。
吉田夏奈「海は青い、森は緑」2013年 木、スチレンペーパー、アクリル、オイルパステル、クレヨン
レリーフの森は一見、ランダムに、しかしながらやはり何らかの『場』を構成するかのように配置されています。
吉田夏奈「海は青い、森は緑」2013年 木、スチレンペーパー、アクリル、オイルパステル、クレヨン
独立したレリーフがいくつか重なって生み出される新たな景色。吉田は現在、制作の拠点を小豆島に移しています。レリーフの間にある言わば余白の空間こそ瀬戸内の海。その間を縫って歩くことは、それこそ船に乗って瀬戸内の島を廻る体験をイメージさせるもの。見る側の想像力を喚起させる作品でもありました。
吉田夏奈「Face to the Green」2011年 紙にオイルパステル、クレヨン
なお吉田は小豆島も会場の一つである「瀬戸内国際芸術祭2013」に大型の作品を出品しています。そちらも是非見たいものです。
6月16日までの開催です。
「吉田夏奈 海は青い、森は緑」 アートフロントギャラリー(@art_front)
会期:5月24日(金)~6月16日(日)
休廊:月曜日
時間:11:00~19:00
料金:無料
住所:渋谷区猿楽町29-18ヒルサイドテラスA棟
交通:東急東横線代官山駅より徒歩5分。
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「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」 日本橋高島屋8階ホール
日本橋高島屋8階ホール
「美の競演 京都画壇と神坂雪佳ー100年の時を超えてー京都市美術館・細見美術館コレクションより」
5/29-6/10
日本橋高島屋8階ホールで開催中の「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」へ行ってきました。
竹内栖鳳、上村松園、菊池契月らといった京都画壇の日本画家たち。一方で琳派の感覚を近代へ呼び込んだ神坂雪佳。ともに別の立場から作品なり画業を切り込む機会こそあったものの、同時に比べられることは稀。実際に殆ど行われたことはありませんでした。
接点はもちろん京都。そして奇しくも2012年は栖鳳と雪佳が没後70年を迎えた年。同時代の画家であります。
[展覧会の構成]
・四季の移ろい
・いにしえの京美人 今様の京美人
・和歌の美 吉祥の美
・装いの美
・愛しき所 愛おしきもの
というわけで京都画壇の画家と神坂雪佳の作品が一堂に。作風の差異はもちろん、むしろジャンルを超えて共通する美意識などを探る仕掛けとなっていました。
さてこの展覧会、一つ重要なポイントが。それが京都市美術館から多数の近代日本画がやってきていることです。
堂本印象「婦女」 京都市美術館
雪佳はどちらかというとお目にかかることの多い細見美術館のコレクション。一方で京都画壇はなかなか関東で見られない京都市美術館の所蔵品。とりわけ美人画が殊更に充実しています。
まずは竹内栖鳳の「絵になる最初」。裸のモデルが恥じらう姿を描いた有名作。少し赤らんだ肌にあらぬ方向を見やる視線。心の一瞬の動きを捉えた力作です。
上村松園「朝日」 京都市美術館
そして上村松園の「待月」。橋の上で振り返って立つ女性。手には団扇。衣の透け表現も松園の得意とするところです。
さらには中村大三郎の「ピアノ」も。屏風に描かれたのは大きなグランドピアノを演奏する振り袖姿の女性。楽譜はシューマン。ペダルは草履で踏んでいます。その他には北野恒富の「浴後」なども心に留まる一枚。京市美の近代日本画を堪能出来ました。
神坂雪佳「十二ヶ月草花図(6月)」 細見美術館
さて雪佳はどうでしょうか。お馴染みの「百々世草」は3面の公開です。また金地に文字通りカキツバタを配した「杜若図屏風」、さらには額装の「十二ヶ月草花図」に代表作の「金魚玉図」も。さすがの細見コレクション。雪佳名品展としても申し分ありません。
竹内栖鳳「清閑」(部分) 京都市美術館
最後に雪佳と京都画壇の対比についても少し。美人画において雪佳は歴史や文学に登場する女性を求めたのに対し、京都画壇の画家たちはまさしく京都の今、近代人としての女性を描いたとか。また雪佳は例えば動物をモチーフにする際、あくまでも小画面へ可愛らしく描いたのに対して、京都画壇はいかに動物を写実的に捉えるのかに取り組んだそうです。
上村松園「人生の花」(部分) 京都市美術館
もちろん多様な画家たちのこと、画風も一筋縄ではありませんが、雪佳と対比することで、改めて開けてくるものもあるやもしれません。
また高島屋資料館から特別に出品された栖鳳の杉戸絵「雀・鶏の図」や、雪佳の「光琳風草花」などの見どころも。初見の作品も少なくありませんでした。
「神坂雪佳の世界ー琳派からモダンデザインへの架け橋/平凡社」
6月10日まで開催されています。会期は短めです。ご注意下さい。
「美の競演 京都画壇と神坂雪佳ー100年の時を超えてー京都市美術館・細見美術館コレクションより」 日本橋高島屋8階ホール
会期:5月29日(水)~6月10日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:一般800円、大学・高校生600円、中学生以下無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
「美の競演 京都画壇と神坂雪佳ー100年の時を超えてー京都市美術館・細見美術館コレクションより」
5/29-6/10
日本橋高島屋8階ホールで開催中の「美の競演 京都画壇と神坂雪佳」へ行ってきました。
竹内栖鳳、上村松園、菊池契月らといった京都画壇の日本画家たち。一方で琳派の感覚を近代へ呼び込んだ神坂雪佳。ともに別の立場から作品なり画業を切り込む機会こそあったものの、同時に比べられることは稀。実際に殆ど行われたことはありませんでした。
接点はもちろん京都。そして奇しくも2012年は栖鳳と雪佳が没後70年を迎えた年。同時代の画家であります。
[展覧会の構成]
・四季の移ろい
・いにしえの京美人 今様の京美人
・和歌の美 吉祥の美
・装いの美
・愛しき所 愛おしきもの
というわけで京都画壇の画家と神坂雪佳の作品が一堂に。作風の差異はもちろん、むしろジャンルを超えて共通する美意識などを探る仕掛けとなっていました。
さてこの展覧会、一つ重要なポイントが。それが京都市美術館から多数の近代日本画がやってきていることです。
堂本印象「婦女」 京都市美術館
雪佳はどちらかというとお目にかかることの多い細見美術館のコレクション。一方で京都画壇はなかなか関東で見られない京都市美術館の所蔵品。とりわけ美人画が殊更に充実しています。
まずは竹内栖鳳の「絵になる最初」。裸のモデルが恥じらう姿を描いた有名作。少し赤らんだ肌にあらぬ方向を見やる視線。心の一瞬の動きを捉えた力作です。
上村松園「朝日」 京都市美術館
そして上村松園の「待月」。橋の上で振り返って立つ女性。手には団扇。衣の透け表現も松園の得意とするところです。
さらには中村大三郎の「ピアノ」も。屏風に描かれたのは大きなグランドピアノを演奏する振り袖姿の女性。楽譜はシューマン。ペダルは草履で踏んでいます。その他には北野恒富の「浴後」なども心に留まる一枚。京市美の近代日本画を堪能出来ました。
神坂雪佳「十二ヶ月草花図(6月)」 細見美術館
さて雪佳はどうでしょうか。お馴染みの「百々世草」は3面の公開です。また金地に文字通りカキツバタを配した「杜若図屏風」、さらには額装の「十二ヶ月草花図」に代表作の「金魚玉図」も。さすがの細見コレクション。雪佳名品展としても申し分ありません。
竹内栖鳳「清閑」(部分) 京都市美術館
最後に雪佳と京都画壇の対比についても少し。美人画において雪佳は歴史や文学に登場する女性を求めたのに対し、京都画壇の画家たちはまさしく京都の今、近代人としての女性を描いたとか。また雪佳は例えば動物をモチーフにする際、あくまでも小画面へ可愛らしく描いたのに対して、京都画壇はいかに動物を写実的に捉えるのかに取り組んだそうです。
上村松園「人生の花」(部分) 京都市美術館
もちろん多様な画家たちのこと、画風も一筋縄ではありませんが、雪佳と対比することで、改めて開けてくるものもあるやもしれません。
また高島屋資料館から特別に出品された栖鳳の杉戸絵「雀・鶏の図」や、雪佳の「光琳風草花」などの見どころも。初見の作品も少なくありませんでした。
「神坂雪佳の世界ー琳派からモダンデザインへの架け橋/平凡社」
6月10日まで開催されています。会期は短めです。ご注意下さい。
「美の競演 京都画壇と神坂雪佳ー100年の時を超えてー京都市美術館・細見美術館コレクションより」 日本橋高島屋8階ホール
会期:5月29日(水)~6月10日(月)
休館:会期中無休。
時間:10:00~20:00 *入場は閉場の30分前まで。最終日は18時閉場。
料金:一般800円、大学・高校生600円、中学生以下無料。
住所:中央区日本橋2-4-1 日本橋高島屋8階
交通:東京メトロ銀座線・東西線日本橋駅B1出口直結。都営浅草線日本橋駅から徒歩5分。JR東京駅八重洲北口から徒歩5分。
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「千紫万紅ーいつも現代」 セゾン現代美術館
セゾン現代美術館
「千紫万紅ーいつも現代」
4/16-7/7
セゾン現代美術館で開催中の「千紫万紅ーいつも現代」を見てきました。
いわゆる現代美術、特に戦後アメリカの抽象美術コレクションでも定評のあるセゾン現代美術館。いまそこで「千紫万紅ーいつも現代」と名付けられた展覧会が行われています。
さてまず「千紫万紅」(せんしばんこう)とは。辞書を引きましょう。それは「さまざまな花の色の形容。また、色とりどりに咲いている花のこと。」を意味する言葉。翻って同美術館では作品を花になぞらえて乱れ咲かせる。ようは通常より作品をより多く出品。まさに空間を埋め尽くさんとばかりに展示しています。
ジャクソン・ポロック「ナンバー9」1950年
そして二番目の「いつも現代」。こちらのコンセプトはシンプル。つまりたとえ古美術であろうとも作られた時は「現代」。いつも新しかったわけです。ようはそうした古美術品と「現代美術」をない交ぜにして展開。ロスコと青磁、ポロックに金銀蒔絵厨子棚と、洋の東西、時代を超えた様々な作品が一堂に会していました。
さて現代美術好きの私にとって一度は行きたかったのがこの美術館。そうです。実はセゾンの門をくぐったのは今回が初めて。結論から申し上げると、その濃密かつ充実したコレクションに終始圧倒されてしまいました。
アンゼルム・キーファー「革命の女たち」1992年
まずは見たかった作品から。ドイツの作家、アンゼルム・キーファーのインスタレーション「革命の女たち」(1992年)。鉛のベッドと水と植物。静かに横たわる14台のベット。そして壁にはフランス革命期の女性たちの名前が。ベットのそばへ近寄ることは出来ませんが、その異様なまでの緊張感は端から見ていても伝わるもの。まるで収容所。死の気配を強く漂わせています。
イヴ・クライン「海綿レリーフ(RE50)」1958年
絵画ではロイ・リキテンスタインの「赤ワインのある静物」(1972年)にイヴ・クラインの「海綿レリーフ(RE50)」(1958年)も。特にイヴ・クライン、その美しき青みが伸縮しては伸びる様子。彼のこれほど充実した作品を他に見たことがありません。
ジャスパー・ジョーンズ「標的」1974年
それにポロックの「ナンバー9」(1950年)やジャン=ポール・リオペルの「ナンバー6」(1954年)も。そしてジャスパー・ジョーンズの大作。マン・レイも充実しています。一つずつ挙げていくとキリがありませんが、噂には聞いていたコレクション。ようやく向き合うことが出来て感無量でした。
上村松園「簾のかげ」1929年頃
さて展示についても少し。先にも触れた洋の東西の競演。ともかく驚かされるのはその荒々しいまでの力技です。何と上村松園や鏑木清方や伊東深水らの美しき日本画上に、ウォーホルの「ポートフォリオ(毛沢東)」シリーズがずらり。美人画VSウォーホル。しかも毛沢東。思わず仰け反ってしまいます。
横山大観「山茶花と栗鼠」1912年
なお惜しみなく『露出展示』がなされているのもポイント。横山大観の「山茶花と栗鼠」(1912年)はケースもなく、しかも床に直置き。まさに目と鼻の先で愛でることが可能です。(その先のライリーと李禹煥の作品の並びもまた良い!)
ラストはスイスの作家、ジャン・ティンゲリーの「地獄の首都」が堂々登場。廃物を利用し、機械仕掛けで動く彫刻群。ちょうどデモンストレーションの時間だったこともあり、実際に動く様子も鑑賞。動きと音と。タイトルに反してどこかコミカルな印象も受けます。これほど巨大なティンゲリー作品を前にしたのは初めてです。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
また日本の現代美術も所狭しと登場。壁に作品二枚掛けも少なくありません。岡崎乾二郎や中西夏之の絵画も心に留まりました。
さて圧倒的なコレクションにノックアウトされたあとは、緑に囲まれたお庭でクールダウンを。彫刻家、若林奮氏のプランによる彫刻庭園です。
深き森と彫刻作品の数々。まさに森林浴です。
お庭は回遊型。台地を利用した巧みな構成です。二つの橋に傾斜地の鉄板が風景にアクセントを与えます。
また美術館の建築は菊竹清訓氏によるものとか。和を思わせる低層の趣き。すっかり森に溶け込んでいました。
「千紫万紅ーいつも現代」展は7月7日まで開催されています。
「千紫万紅ーいつも現代」 セゾン現代美術館(@sezon_mma)
会期:4月13日(土)~7月7日(日)
休館:木曜日
時間:10:00~18:00 *最終入館は閉館30分前まで。
料金:一般1000(900)円、高校・大学生700(600)円、小・中学生300(200)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140
交通:JR長野新幹線軽井沢駅、しなの鉄道中軽井沢駅より草津温泉行のバスを利用。バス停「軽井沢千ヶ滝温泉入口」下車徒歩7分。中軽井沢駅よりタクシー利用で約15分。専用無料駐車場あり。
「千紫万紅ーいつも現代」
4/16-7/7
セゾン現代美術館で開催中の「千紫万紅ーいつも現代」を見てきました。
いわゆる現代美術、特に戦後アメリカの抽象美術コレクションでも定評のあるセゾン現代美術館。いまそこで「千紫万紅ーいつも現代」と名付けられた展覧会が行われています。
さてまず「千紫万紅」(せんしばんこう)とは。辞書を引きましょう。それは「さまざまな花の色の形容。また、色とりどりに咲いている花のこと。」を意味する言葉。翻って同美術館では作品を花になぞらえて乱れ咲かせる。ようは通常より作品をより多く出品。まさに空間を埋め尽くさんとばかりに展示しています。
ジャクソン・ポロック「ナンバー9」1950年
そして二番目の「いつも現代」。こちらのコンセプトはシンプル。つまりたとえ古美術であろうとも作られた時は「現代」。いつも新しかったわけです。ようはそうした古美術品と「現代美術」をない交ぜにして展開。ロスコと青磁、ポロックに金銀蒔絵厨子棚と、洋の東西、時代を超えた様々な作品が一堂に会していました。
さて現代美術好きの私にとって一度は行きたかったのがこの美術館。そうです。実はセゾンの門をくぐったのは今回が初めて。結論から申し上げると、その濃密かつ充実したコレクションに終始圧倒されてしまいました。
アンゼルム・キーファー「革命の女たち」1992年
まずは見たかった作品から。ドイツの作家、アンゼルム・キーファーのインスタレーション「革命の女たち」(1992年)。鉛のベッドと水と植物。静かに横たわる14台のベット。そして壁にはフランス革命期の女性たちの名前が。ベットのそばへ近寄ることは出来ませんが、その異様なまでの緊張感は端から見ていても伝わるもの。まるで収容所。死の気配を強く漂わせています。
イヴ・クライン「海綿レリーフ(RE50)」1958年
絵画ではロイ・リキテンスタインの「赤ワインのある静物」(1972年)にイヴ・クラインの「海綿レリーフ(RE50)」(1958年)も。特にイヴ・クライン、その美しき青みが伸縮しては伸びる様子。彼のこれほど充実した作品を他に見たことがありません。
ジャスパー・ジョーンズ「標的」1974年
それにポロックの「ナンバー9」(1950年)やジャン=ポール・リオペルの「ナンバー6」(1954年)も。そしてジャスパー・ジョーンズの大作。マン・レイも充実しています。一つずつ挙げていくとキリがありませんが、噂には聞いていたコレクション。ようやく向き合うことが出来て感無量でした。
上村松園「簾のかげ」1929年頃
さて展示についても少し。先にも触れた洋の東西の競演。ともかく驚かされるのはその荒々しいまでの力技です。何と上村松園や鏑木清方や伊東深水らの美しき日本画上に、ウォーホルの「ポートフォリオ(毛沢東)」シリーズがずらり。美人画VSウォーホル。しかも毛沢東。思わず仰け反ってしまいます。
横山大観「山茶花と栗鼠」1912年
なお惜しみなく『露出展示』がなされているのもポイント。横山大観の「山茶花と栗鼠」(1912年)はケースもなく、しかも床に直置き。まさに目と鼻の先で愛でることが可能です。(その先のライリーと李禹煥の作品の並びもまた良い!)
ラストはスイスの作家、ジャン・ティンゲリーの「地獄の首都」が堂々登場。廃物を利用し、機械仕掛けで動く彫刻群。ちょうどデモンストレーションの時間だったこともあり、実際に動く様子も鑑賞。動きと音と。タイトルに反してどこかコミカルな印象も受けます。これほど巨大なティンゲリー作品を前にしたのは初めてです。思わず時間を忘れて見入ってしまいました。
また日本の現代美術も所狭しと登場。壁に作品二枚掛けも少なくありません。岡崎乾二郎や中西夏之の絵画も心に留まりました。
さて圧倒的なコレクションにノックアウトされたあとは、緑に囲まれたお庭でクールダウンを。彫刻家、若林奮氏のプランによる彫刻庭園です。
深き森と彫刻作品の数々。まさに森林浴です。
お庭は回遊型。台地を利用した巧みな構成です。二つの橋に傾斜地の鉄板が風景にアクセントを与えます。
また美術館の建築は菊竹清訓氏によるものとか。和を思わせる低層の趣き。すっかり森に溶け込んでいました。
「千紫万紅ーいつも現代」展は7月7日まで開催されています。
「千紫万紅ーいつも現代」 セゾン現代美術館(@sezon_mma)
会期:4月13日(土)~7月7日(日)
休館:木曜日
時間:10:00~18:00 *最終入館は閉館30分前まで。
料金:一般1000(900)円、高校・大学生700(600)円、小・中学生300(200)円。
*( )内は20名以上の団体料金。
住所:長野県北佐久郡軽井沢町長倉芹ケ沢2140
交通:JR長野新幹線軽井沢駅、しなの鉄道中軽井沢駅より草津温泉行のバスを利用。バス停「軽井沢千ヶ滝温泉入口」下車徒歩7分。中軽井沢駅よりタクシー利用で約15分。専用無料駐車場あり。
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「ターナー展」 記者発表会
イギリスを代表する画家であるジョゼフ・マロード・ウィリアム・ターナー(1775~1851)。美しい光と色の織りなす、時に幻想的なまでの風景画は日本でも人気。回顧展を待っていた方も多いかもしれません。
追記:「ターナー展」@東京都美術館(プレビュー記事)
ずばり朗報です。ターナーの回顧展がいよいよ今秋、上野の東京都美術館(10/8~12/18)で開催されます。*以降、神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へと巡回。
と言うわけで、開催に先立って英国大使館で行われたターナー展の記者発表会に参加してきました。
ティム・ヒッチンズ駐日英国大使と「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」
まず挨拶に立ったのはティム・ヒッチンズ駐日英国大使。流暢な日本語でスピーチを。大使自らがターナーの風景画を紹介。それが「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」。父が海軍に属していたことから、大使の生活は常に海とともにあったとか。その海を重要なモチーフとしたターナーには強い思い入れがあると語りました。
東京都美術館の小林明子学芸員
続いて東京都美術館の真室館長の挨拶の後、同館学芸員の小林明子さんによる展示解説がスライドで行われました。ごく簡単にまとめてみます。
・「『絵になる英国』を探して」:展示は画家の生涯と作風の変遷を見るもの。画家としての出発点はイギリス各地の風景を描く水彩画家だった。そして史上最年少、20代でアカデミーの会員に。
「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)
・「『海洋国家』の精神を誇る」:特に海風画を制作し、歴史の素材を盛り込んで、英国の愛国心にも訴えかける作品を多く制作した。「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)は降伏したデンマーク船を英国海軍が曳航する様子を描いている。
「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)
・「イタリアに魅せられて」:旅する画家としてのターナー。フランスからイタリアへ。「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)は最初のイタリア旅行で描いた作品である。後にターナーは水上都市ヴェネツィアに特に魅せられた。
「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)
・「光と大気を描く」:晩年は形態を超えた色彩と光の表現に専念。「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)は、その前衛的なまでの表現から、当時、批判を浴びた一枚。
「クリゾン州の雪崩」(1810年)
・「大自然の畏怖をかたちに」:大自然の険しさ、また自然災害を題材にした作品を描いたターナー。「クリゾン州の雪崩」(1810年)は同地で実際に起きた雪崩に取材したものである。
「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)
・「漱石が愛したターナー」:ターナーを著作で紹介した夏目漱石。日本のターナー受容の一つの契機に。「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)は漱石が留学中のイギリスで見た可能性の高い作品。「坊っちゃん」に引用がある。
太字はターナー展を見る上で重要なキーワードです。なお出品は油彩36点に加え、水彩67点、スケッチ10点の全113点で構成。イギリスはテートからも多数の作品がやってきます。
ゲストトークを行う作家の林望さん
さて最後にゲストトークが。登壇したのは作家の林望さん。こちらもお話に沿って内容を。
林望「ターナーとコンスタブル。一年先輩がターナー。同時代に二人の偉大な画家が生まれましたが、これが生まれからして対照的。ターナーはロンドン中心部、コヴェント・ガーデンの床屋のせがれですが、コンスタブルは田舎の坊ちゃん。粉会社の息子さんです。」
「絵に関しても対照的な人生を歩んでいますね。ターナーは早熟の天才。20代にアカデミーの正会員になって売れっ子でしたが、コンスタブルは遅咲き、50歳を過ぎてから会員に。ターナーは14万ポンドともいわれる巨額の富を残しましたが、コンスタブルは赤貧のうちに死にました。」
「それにしても二人は何故にそれほど境遇が違ってしまったのでしょうか。まずターナーから。彼の絵画はいわゆるヒストリカルでピクチャレスク。ようは歴史的故事や神秘的なものを風景に取り込んで描いています。」
ブリテン島内でターナーが旅した地点
「ターナーは旅する画家としても知られていますが、ともかくブリテン島だけでもこれほど旅をしています。(上スライド。赤い点が旅した地点。)そしてターナーは次第に外国へ目を向けていきます。若い頃、例えば1775年から1800年の間は全て国内のみであったのが、1840年代の旅行は全て外国へ行っています。ようは英国の旅からヨーロッパの旅へと変わるわけです。」
「つまりターナーはピクチャレスクな風景を求めるために旅を続けていたのです。しかも日常ではなく非日常を求めるために外国へ。しかしコンスタブルはそういうことは一切しませんでした。彼は何でもない英国の田舎の田園風景をひたすら描き続けます。そしてこの時代の英国ではピクチャレスク絵画が好まれた。だからターナーは売れに売れたわけです。」
「平和ー水葬」(1842年)
「何枚か作品を挙げましょう。まずは『平和ー水葬』。水葬とは文字通り、海上で行なわれた葬儀のことで、ターナーの友人の画家の葬儀を元にしたそうですが、ともかく空に注目。舞台はジブラルタルですが、これはもうイギリスの空ですね。そして手前に一羽の真鴨。そして異様なほどに真っ黒い船。空は青空なのにこの暗さ。考えられない光のコントラスト。おそらくここには人の死が反映されているのですが、全体で見るとターナーの空想、創造によった風景なのです。」
「またこの一枚(上のスライド)はどうでしょうか。朦朧体ともいえるような作品、未完ですが、実はこれ都市風景で、右には鉛工場の煙突が見えるのですよね。そして左でもくもく出ているのは工場の煙。それを一体何処から見ているのかと思うほど高い視点から鳥瞰的に描いている。ターナーは何も田園だけでなく、こうした工業化された都市風景にも関心を持っていました。そこにも非日常、一種のピクチャレスクを見ていたのではないかと。ここはターナーの新しさかもしれません。」
「作品の中にある物語や思想。そして伝統的なものと新しいものへの関心。さらには光や大気に見られるような革新的な表現。風景を通して『形而上』の何かを見続けていたのがターナーではないかと思っています。」
スライド作品を解説する林望さん
林望さんのトークは以上です。ターナーとほぼ同世代のコンスタブルの対比を基点に、実に興味深いお話をして下さいました。
ターナー展記者発表会の様子
さてこのターナーの回顧展、最近では2度、1986年に国立西洋美術館、また1997年に横浜美術館で開催されましたが、今回はそれらを上回る展示スケール。しかもうち9割は日本初公開の作品というから驚きです。
東京都美術館の真室館長、ティム・ヒッチンズ駐日英国大使、作家の林望さん
公式WEBサイトも全面リニューアルされ、前売チケット情報も既に公開中。特にお得なのは先行前売ペアチケット。2枚で2400円です。その他、紅茶やブックカバーとセットにしたグッズ券もあります。こちらも要チェック!
「ターナー展」チケット情報
余談ですが、ターナー作「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」に登場するハロルド(イギリスの詩人、バイロンの物語誌です。)こそ、このブログの名付け親。もちろんターナーも私の大好きな画家の一人であります。
記者発表会時に大使館の庭園も公開されました
国内では16年ぶりとなるターナーの一大回顧展。まずは大いに期待しましょう!
英国大使館正面風景
「ターナー展」は2013年10月8日より東京都美術館で開催されます。*神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へ巡回。
「ターナー展」 東京都美術館
会期:2013年10月8日(火)~12月18日(水)
時間:9:30~17:30(金曜日は20時まで開館)*入室は閉室の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月14日、11月4日、12月16日は開館。10月15日、11月5日は閉館。
会場:東京都美術館(台東区上野公園8-36)
主催:東京都美術館、テート美術館、朝日新聞社、TBS
後援:在日英国商業会議所、ラスキン文庫
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年8月5日から10月7日まで販売。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
*特別先行前売ペア券各種発売。詳細はチケット情報へ。
注)記者発表会、及び大使館内の写真の撮影については主催者の許可を得ています。またスライド図版は全てターナーの作品です。
追記:「ターナー展」@東京都美術館(プレビュー記事)
ずばり朗報です。ターナーの回顧展がいよいよ今秋、上野の東京都美術館(10/8~12/18)で開催されます。*以降、神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へと巡回。
と言うわけで、開催に先立って英国大使館で行われたターナー展の記者発表会に参加してきました。
ティム・ヒッチンズ駐日英国大使と「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」
まず挨拶に立ったのはティム・ヒッチンズ駐日英国大使。流暢な日本語でスピーチを。大使自らがターナーの風景画を紹介。それが「コーンウォール地方のセント・ジョン村から望むハウモウズの入江」。父が海軍に属していたことから、大使の生活は常に海とともにあったとか。その海を重要なモチーフとしたターナーには強い思い入れがあると語りました。
東京都美術館の小林明子学芸員
続いて東京都美術館の真室館長の挨拶の後、同館学芸員の小林明子さんによる展示解説がスライドで行われました。ごく簡単にまとめてみます。
・「『絵になる英国』を探して」:展示は画家の生涯と作風の変遷を見るもの。画家としての出発点はイギリス各地の風景を描く水彩画家だった。そして史上最年少、20代でアカデミーの会員に。
「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)
・「『海洋国家』の精神を誇る」:特に海風画を制作し、歴史の素材を盛り込んで、英国の愛国心にも訴えかける作品を多く制作した。「スピッドヘッド:ポーツマス港に入る拿捕された二隻のデンマーク船」(1808年)は降伏したデンマーク船を英国海軍が曳航する様子を描いている。
「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)
・「イタリアに魅せられて」:旅する画家としてのターナー。フランスからイタリアへ。「ヴァティカンから望むローマ、ラ・フォルナリーナを伴って回廊装飾のための絵を準備するラファエロ」(1820年)は最初のイタリア旅行で描いた作品である。後にターナーは水上都市ヴェネツィアに特に魅せられた。
「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)
・「光と大気を描く」:晩年は形態を超えた色彩と光の表現に専念。「湖に沈む夕陽」(1840-45年頃)は、その前衛的なまでの表現から、当時、批判を浴びた一枚。
「クリゾン州の雪崩」(1810年)
・「大自然の畏怖をかたちに」:大自然の険しさ、また自然災害を題材にした作品を描いたターナー。「クリゾン州の雪崩」(1810年)は同地で実際に起きた雪崩に取材したものである。
「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)
・「漱石が愛したターナー」:ターナーを著作で紹介した夏目漱石。日本のターナー受容の一つの契機に。「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」(1832年)は漱石が留学中のイギリスで見た可能性の高い作品。「坊っちゃん」に引用がある。
太字はターナー展を見る上で重要なキーワードです。なお出品は油彩36点に加え、水彩67点、スケッチ10点の全113点で構成。イギリスはテートからも多数の作品がやってきます。
ゲストトークを行う作家の林望さん
さて最後にゲストトークが。登壇したのは作家の林望さん。こちらもお話に沿って内容を。
林望「ターナーとコンスタブル。一年先輩がターナー。同時代に二人の偉大な画家が生まれましたが、これが生まれからして対照的。ターナーはロンドン中心部、コヴェント・ガーデンの床屋のせがれですが、コンスタブルは田舎の坊ちゃん。粉会社の息子さんです。」
「絵に関しても対照的な人生を歩んでいますね。ターナーは早熟の天才。20代にアカデミーの正会員になって売れっ子でしたが、コンスタブルは遅咲き、50歳を過ぎてから会員に。ターナーは14万ポンドともいわれる巨額の富を残しましたが、コンスタブルは赤貧のうちに死にました。」
「それにしても二人は何故にそれほど境遇が違ってしまったのでしょうか。まずターナーから。彼の絵画はいわゆるヒストリカルでピクチャレスク。ようは歴史的故事や神秘的なものを風景に取り込んで描いています。」
ブリテン島内でターナーが旅した地点
「ターナーは旅する画家としても知られていますが、ともかくブリテン島だけでもこれほど旅をしています。(上スライド。赤い点が旅した地点。)そしてターナーは次第に外国へ目を向けていきます。若い頃、例えば1775年から1800年の間は全て国内のみであったのが、1840年代の旅行は全て外国へ行っています。ようは英国の旅からヨーロッパの旅へと変わるわけです。」
「つまりターナーはピクチャレスクな風景を求めるために旅を続けていたのです。しかも日常ではなく非日常を求めるために外国へ。しかしコンスタブルはそういうことは一切しませんでした。彼は何でもない英国の田舎の田園風景をひたすら描き続けます。そしてこの時代の英国ではピクチャレスク絵画が好まれた。だからターナーは売れに売れたわけです。」
「平和ー水葬」(1842年)
「何枚か作品を挙げましょう。まずは『平和ー水葬』。水葬とは文字通り、海上で行なわれた葬儀のことで、ターナーの友人の画家の葬儀を元にしたそうですが、ともかく空に注目。舞台はジブラルタルですが、これはもうイギリスの空ですね。そして手前に一羽の真鴨。そして異様なほどに真っ黒い船。空は青空なのにこの暗さ。考えられない光のコントラスト。おそらくここには人の死が反映されているのですが、全体で見るとターナーの空想、創造によった風景なのです。」
「またこの一枚(上のスライド)はどうでしょうか。朦朧体ともいえるような作品、未完ですが、実はこれ都市風景で、右には鉛工場の煙突が見えるのですよね。そして左でもくもく出ているのは工場の煙。それを一体何処から見ているのかと思うほど高い視点から鳥瞰的に描いている。ターナーは何も田園だけでなく、こうした工業化された都市風景にも関心を持っていました。そこにも非日常、一種のピクチャレスクを見ていたのではないかと。ここはターナーの新しさかもしれません。」
「作品の中にある物語や思想。そして伝統的なものと新しいものへの関心。さらには光や大気に見られるような革新的な表現。風景を通して『形而上』の何かを見続けていたのがターナーではないかと思っています。」
スライド作品を解説する林望さん
林望さんのトークは以上です。ターナーとほぼ同世代のコンスタブルの対比を基点に、実に興味深いお話をして下さいました。
ターナー展記者発表会の様子
さてこのターナーの回顧展、最近では2度、1986年に国立西洋美術館、また1997年に横浜美術館で開催されましたが、今回はそれらを上回る展示スケール。しかもうち9割は日本初公開の作品というから驚きです。
東京都美術館の真室館長、ティム・ヒッチンズ駐日英国大使、作家の林望さん
公式WEBサイトも全面リニューアルされ、前売チケット情報も既に公開中。特にお得なのは先行前売ペアチケット。2枚で2400円です。その他、紅茶やブックカバーとセットにしたグッズ券もあります。こちらも要チェック!
「ターナー展」チケット情報
余談ですが、ターナー作「チャイルド・ハロルドの巡礼ーイタリア」に登場するハロルド(イギリスの詩人、バイロンの物語誌です。)こそ、このブログの名付け親。もちろんターナーも私の大好きな画家の一人であります。
記者発表会時に大使館の庭園も公開されました
国内では16年ぶりとなるターナーの一大回顧展。まずは大いに期待しましょう!
英国大使館正面風景
「ターナー展」は2013年10月8日より東京都美術館で開催されます。*神戸市立博物館(2014/1/11-4/6)へ巡回。
「ターナー展」 東京都美術館
会期:2013年10月8日(火)~12月18日(水)
時間:9:30~17:30(金曜日は20時まで開館)*入室は閉室の30分前まで。
休館:月曜日。但し10月14日、11月4日、12月16日は開館。10月15日、11月5日は閉館。
会場:東京都美術館(台東区上野公園8-36)
主催:東京都美術館、テート美術館、朝日新聞社、TBS
後援:在日英国商業会議所、ラスキン文庫
料金:一般1600(1300)円、大学生1300(1100)円、高校生800(600)円。65歳以上1000(800)円。中学生以下無料。
*( )は20名以上の団体、及び前売券。前売券は2013年8月5日から10月7日まで販売。
*毎月第3水曜日はシルバーデーのため65歳以上は無料。
*毎月第3土・翌日曜日は家族ふれあいの日のため、18歳未満の子を同伴する保護者(都内在住)は一般料金の半額。(要証明書)
*特別先行前売ペア券各種発売。詳細はチケット情報へ。
注)記者発表会、及び大使館内の写真の撮影については主催者の許可を得ています。またスライド図版は全てターナーの作品です。
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