川上弘美選『精選女性随筆集 第9巻 須賀敦子』(2012年10月文藝春秋発行)を読んだ。
61歳で『ミラノ霧の風景』で驚きのデビューを飾って、69歳で亡くなるまで一挙に名エッセイを残した文学者、文章家の精選集。
川上弘美さんが、『須賀敦子全集』から選んだ17編のエッセイと夫ペッピーノへの愛と茶目っ気があふれる書簡からなる。
私の評価としては、★★★★(四つ星:お勧め)(最大は五つ星)
ほとんどのエッセイは読んだことがあるものだが、十分楽しめた。自分がイタリアのその場にいるように感じ、いかにも素朴だが存在感ある人々が目の前にいるように感じる。
川上弘美さんが「幸福」(まえがき)で書いているように、
須賀さんが日本へ戻り、60歳を過ぎてからイタリアの景色、友人、その多くは既に亡くなっている、を思い出しながら書いているからだろう、最初から哀愁を帯びていて、読む私達もなにか懐かしいような気がしてくる。
『ミラノ霧の風景』
「遠い霧の匂い」「マリア・ボットーニの長い旅」がしみじみとして良い。霧の匂いが浮かんでくるし、自然体のマリアの仕草が見えるようだ。
『ヴェネツィアの宿』
「オリエント・エクスプレス」:わがままで贅沢な父に反発しながらも、若き日のヨーロッパ旅行を思い出す彼のために、オリエント・エクスプレスのコーヒー・カップを持ち病院へ直行し、父と娘の気持ちがかすかに交わる。娘としての須賀さんがいとおしい。
『トリエステの坂道』
「電車道」:イタリア語が流暢になるまえに母国語を忘れたという年とった病院付き司祭、日曜日には誰のでもないお墓に行くロシア移民のおばあさん、鉄道を巡る貧しい人々の話は哀愁が漂う。
「マリアの結婚」「重い山仕事のあとみたいに」は、北イタリアの田舎の素朴だが癖のある人たちが、冷静に、しかし愛情を持って描かれている。
『ユルスナールの靴』
「死んだ子供の肖像」の、ユルスナールの小説『黒の過程』の文学論、神学論は難しくて私はついていけない。
須賀敦子の略歴と既読本リスト
川上弘美の略歴と既読本リスト