hiyamizu's blog

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帚木蓬生『生きる力』を読む

2014年01月02日 | 読書2

帚木蓬生著『生きる力 森田正馬の15の提言』(朝日選書90、2013年6月朝日新聞出版)を読んだ。

作家で、臨床の現場にも立ち続ける精神科医でもある著者が、森田療法の素晴らしさを15のポイントから説明している。

20世紀の初頭、フロイト流の精神分析が主流の時代に、薬を用いず、自らを見つめて自助する「森田療法」が日本で旗揚げした。森田療法は、頭で考え、悩み、解決しない精神の問題を、あるがままを肯定し無理なく生きることにより解決していくことを説く。複雑化する現代の人間関係のなかで、ますます注目すべき療法だ。その独特の治療法と先進性を、森田正馬の15の言葉から著者が読み解き、解説する。

【外相整えば内相自(おの)ずから熟す】。
心の深層がどうのこうのと悩むより、生活を規則的にしたり、外相を整えることから始めるべきだ。

はじめに 森田正馬の人生
森田正馬(しょうま)(1874-1938)の生涯と、1週間から10日の3期(絶対臥褥(がじょく)、軽作業、重作業)と社会復帰期からなる彼の具体的療法が概説される。

1 一瞬一生
種々の悩みはある。しかしそれはさておいて、生きている現時点の瞬間瞬間に、自分の一生をつぎ込んで進んでいく。

2 見つめる
正馬不眠を訴える患者にも、悩まず、不眠を「見つめよ」と言います。悶々とするかわり、不眠そのものを見つめているうち、いつの間にか眠りについている自分がいます。

3 休息は仕事の転換にあり
悩みと無用な心配は、身体を休めてじっとしている間に、背後からとりつきます。・・・悩みや心配は、五分以上頭のなかでひねりまわしてはいけません。五分たったら、身体を動かし、何でもいいですから、手を出すのが一番です。

4外相整えば内相自ずから熟す
外相まで悲しくしていて、いつの日か内相が自ずと悲しくなくなるなど、考えられません。逆に外相を明るく振る舞い続けておれば、内なる相もいつの間にか明るさを帯びてくるのが道理ではないでしょうか。

5 いいわけ

6 目的本位
この「目的本位」の日々の生き方のほうが、千変変化する気分や感情に基づいて生きる「気分本位」の日常より、よほど利点があります。・・・気分が乗らない、不安がある、・・・、そうした気分はそのままに、心配する気力と体力をとりあえず行動のほうに向けてみる。そのうち、嫌な気分を持ちながら、物事に取り組む技術が見につきます。

7無所住心 /8 即

9 なりきる
子規は『病牀六尺』で言う。
「悟りという事は如何なる場合にも平気で死ぬる事かと思って居たのは間違いで、悟りという事は如何なる場合にも平気で生きる事であった」・・・こうなってしまうと、痛みは痛みのままであり、それ以外の影響力はもたなくなります。痛いのは痛いけれど、目の前の藤の花は美しいと思い、歌を詠みます、・・・痛みになりきったうえで、目の前の一瞬一瞬を子規は懸命に生きたのでした。

10 自然服従 /11 生の欲望 /12 不安常住 /13 事実唯真 /14 あるがまま /15 生きつくす

おわりに  私(著者)と森田療法の出会い
・・・いたずらに人為的な「悪智」の努力で症状を克服せず、「自然服従」で眼前の急がれる仕事に打ち込むという治療法・・・



私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)

森田療法そのものの紹介というより、その考え方の根本を、帚木さんがどうとらえたかが書かれている。著者のいうように、神経症の患者だけでなく、一般の人に有効な療法であるらしい。しかし、新書版の〇〇な力シリーズにしては、複雑でわかりにくい。ハウツー本ならもっとストレートに書いた方が良いし、森田療法の紹介なら直接関係ない話はカットした方がよい。

森田は、東大医学部卒だが、病弱で24歳で入学するなど、典型的エリートではなく、自らも神経症であった。また、慈恵医大で講義していたが、学会での活躍はなく、自宅で患者を治療するなど在野の医者だった。これらの環境にあったことが、ヨーロッパで主流の療法とまったく異なる療法を編み出すことができた原因なのだろう。
それにしても、インチキ療法と思われやすい森田療法が、多くの臨床精神科医に支持されているのは、東洋的文化が背景にあると思われる。



帚木蓬生(ははきぎ・ほうせい)
1947年1月福岡県小郡市生まれ。日本の小説家、精神科医。
東京大学文学部仏文科卒後、TBS勤務。2年後退職し九州大学医学部へ。
ペンネームは、『源氏物語』の巻名「帚木(ははきぎ)」と「蓬生(よもぎう)」から。
1992年『三たびの海峡』で吉川英治文学新人賞
1995年『閉鎖病棟』で山本周五郎賞
1997年『逃亡』で柴田錬三郎賞
2010年『水神』で新田次郎文学賞



森田療法について、
北西憲二著「中年期うつと森田療法」pub.ne.jp/hiyamizu/?daily_id=20090403
森田療法研究所 www.neomorita.com/

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