藤原正彦著『管見妄語(かんけんもうご) 始末に困る人』(2011年10月新潮社発行)を読んだ。
2013年11月に新潮文庫になっている。
安倍さんに次ぐネット右翼の人気者、『国家の品格』で売った藤原正彦氏のエッセイ。週刊新潮のコラムの1年分。
内容は、「保守的価値観に基づく憂国の主張」がほとんどで、「家族、特に奥さんにやられる話」が挟まる。
保守的価値観に基づく憂国の主張
少子化を食い止めるには、
西郷南洲はこう言った。「命もいらず、名もいらず、官位も金もいらぬ人は始末に困るものなり。この始末に困る人ならでは、艱難を共にして国家の大業は成し得られぬなり」。出でよ、「始末に困る人」。
タイトルはここからとった。
公共投資をバンバンやれとの主張もある。
家族、特に奥さんにやられる話
奥さん、次男、ガイドと4人で八ヶ岳の登ったとき、15mほど前を熊が横ぎった。
これを愚妻が「妻子をおいて慌てふためいて逃げ出した、男の風上にも置けぬ腰抜け」と、会う人ごと、電話先の人ごと、・・・面白おかしく誇張吹聴喧伝したのである。周章狼狽顔面蒼白へっぴり腰とかの尾鰭までつけた。真相は、沈着冷静理路整然定石通りに私が後ずさりしただけ、というか激しく後ずさりしただけなのだ。そして反射神経かつ運動神経の鈍い愚妻と次男が私に抜かれただけなのだ。
初出:「週刊新潮」2010年6月~2011年6月
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
保守的価値観に基づく憂国の主張には、私はまったく同意できないが、正反対の意見もたまに聞かないと、と思い読んだ。少なくとも経済の面では世界が一体にならざるを得ない現状で、昔の日本は良かったといっても老人の繰言に過ぎない。
米国嫌いの英国好きもなんだかピンとこない。
家庭での奥様とのやりとりは、ユーモアたっぷりで愉快だ。しかし、これも、奥様の立場から見た著書の方が面白い。(藤原美子著『夫の悪夢』)
父、新田次郎への尊敬の念がにじみ出る記述がところどころに出てくる。微笑ましい。
藤原正彦(ふじわら・まさひこ)
1943(昭和18)年、旧満州新京生れ。東京大学理学部数学科大学院修士課程修了。お茶の水女子大学名誉教授。1978年、『若き数学者のアメリカ』で日本エッセイスト・クラブ賞を受賞
その他、『遥かなるケンブリッジ―一数学者のイギリス―』『父の威厳 数学者の意地』『心は孤独な数学者』『国家の品格』『この国のけじめ』『名著講義』『ヒコベエ』『日本人の誇り』新田次郎との共著『孤愁 サウダーデ』()。新田次郎と藤原ていの次男。