桐野夏生著『だから荒野』(2013年9月25日毎日新聞社発行)を読んだ。
森村朋美は専業主婦で、ハウジングメーカーに勤める夫・浩光と、実がなく要領が良い大学生の健太、ゲーム三昧の高1の優太の4人家族。
朋美の46才の誕生日の夜、レストランに食事に行くので、多少派手だが服装もメイクも決めた彼女を、夫は「ツーマッチにミスマッチ」、健太は「センス悪いよ」とえげつなく批評する。クルマの運転も押しつけられ、プレゼントもない。レストランでの彼らのあまりの身勝手さもあって、ついに堪忍袋の緒が切れた朋美は、突然、ひとり店を飛び出し、そのまま車に乗って家出をする。
以下、各章、朋美と浩光が交互に語る。
九州・長崎へ向かう朋美はトラックの運転手に迫られたり、得体の知れない女性を同乗させてひどい目に遭ったりして、本の約半分に至る。
ここで、93歳の原爆被害の語り部の老人と出会って、長崎にたどり着く。
浩光は朋美の不在などで痛い目にあうのだが、相変わらず身勝手なままで反省は皆無。
そして、朋美は結局、このまま“荒野”を突き進んで行くのだろうか・・・。
初出:毎日新聞朝刊連載 2012年1月1日~2012年9月15日、大幅に加筆修正
私の評価としては、★★★(三つ星:お好みで)(最大は五つ星)
夫の思いやり0の身勝手ぶりに、朋美がイライラする前半を読んで、なぜ我が妻が「絶対読んで!」と言ったのかが分かるような、そうでないような。
あまりの自己中ぶりにあきれて、「これはいくら何でもひどいでしょう」と言いたかったが、自分でも天に唾してるような気になってきて、言葉を飲み込んだ。これって言論統制?
読んだ後で、妻に一応「反省しております」と言うと、「それで?」と返され、思わず「今後の私を見てください」と言ってしまったのだが・・・。桐野さん、お恨み申し上げます。
思い切って家出した朋美が痛快だと思うが、でも大きな声では言えないが、朋美だって・・・との気持ちも生じる。
後半の朋美が長崎でやったことは、これがやりたかったことなの?と疑問がある。
そして、ラストがこれで良いの??と思う。まあ、朋美が家出前とは変わっているので、今後は荒野を決然と進んでいくのだろうとは思うのだが。夫や、息子たちのかすかな反省は本物なのか?
桐野夏生(きりの・なつお)
1951年金沢市生れ。成蹊大学卒。
1993年『顔に降りかかる雨』で江戸川乱歩賞
1998年『OUT』で日本推理作家協会賞
1999年『柔らかな頬』で直木賞
2003年『グロテスク』で泉鏡花文学賞
2004年『残虐記』で柴田錬三郎賞
2005年『魂萌え!』で婦人公論文芸賞
2008年『東京島』で谷崎潤一郎賞
2009年『女神記』で紫式部文学賞
2010年『ナニカアル』で島清恋愛文学賞、2011年同作で読売文学賞 を受賞。
その他、『ハピネス』、『夜また夜の深い夜』、『奴隷小説』、本書『だから荒野』、『抱く女』