かぶれの世界(新)

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周回遅れの読書録07秋

2007-11-29 11:17:46 | 本と雑誌

今回は小泉時代の構造改革を振り返り、当事者だった人達の考え方と背景にあるグローバリゼーションについて異なった立場に立つ書物を読んだ。先立って多摩界隈の古本屋を探し回っただけで多くの書物を手に入れることが出来た。これはというものを先に読んだ積りだが半数は未読、残りは次回紹介したい。

その中でスティグリッツの「世界を不幸にしたグローバリズムの正体」は最も引用される頻度の多い反グローバリズムの著作と思われるが、グローバリゼーション自体は避けられない現実として否定していない。ケインズ主義をミックスした漸進主義、つまり取り残された人達に配慮しながらゆっくりやろうという主張であり、政策選択の指針となるものである。

小泉時代の構造改革を語る上で時代認識がどうだったかが、その評価に決定的な影響を与えている。デフレを一時的な異常現象と見るか構造的な捉え方をするか、国内経済視点かより世界経済インプリケーションを重視するかで、改革は必要としながらも政策の手順は全く逆となる。私は「資産デフレで読み解く日本経済」と「100年デフレ」(水野和夫2003日本経済新聞 次回紹介)をその代表として勧めたい。

「外交を喧嘩にした男」はWポスト紙のBウッドワード風の推測を排し綿密に取材を積み上げ外交政策決定プロセスを描いたもので、内容は不十分ながら他に見られない試みとして一読を進めたい。他に興味深いのが道路と医師会の既得権益と構造改革のせめぎ合いだったが、本としての仕上がりはイマイチだった。

2.0-)質問する力 大前研一 2003 文芸春秋 私は著者と同じ発想をするので何時もの事ながら納得する内容だ。例えば日本人には文句を言うのに外国人の前に出ると押し黙るという状況を私も何度も目撃した。個人資産の活用などユニークな提案は面白い。しかし、氏特有の歯切れの良い言い切りに時々論理の飛躍を感じる。

2.0日はまた昇る ビル・エモット 2005 草思社 バブル崩壊を予測した著者が小泉氏の改革に触発された書であり、過剰に楽観的でも悲観的でもないバランスの取れた内容。政治経済ともに私の考え方と同じ線上にある。それでも海外の読者から見ると日本贔屓と思われるだろう。

1.5なぜイタリア人は幸せなのか 山下史路 2003 毎日新聞 無邪気な手放しイタリア礼賛、そしてちょっとスノッブ。我慢して素直に読めばイタリアの短所も実は長所だと思えなくも無い。多少経験のある物書きなら光と影を描くと内容に奥行きがでて、一流とは行かなくともそこそこの評価を得られる本を書けるはずなのだが惜しい。

2.0日本の戦争力 小川和久 2005 アスコム Q&A形式で自衛隊誕生の経緯から憲法上の位置づけ、日米安保条約と自衛隊戦力の性格、対テロ・北朝鮮について、著者の事実と数値データをベースにした分析と主張が展開されている。情緒的な議論にウンザリしている方に一読を勧めたい。

1.5凡宰伝 佐野眞一 2000 文芸春秋 「凡人」とか「冷えたピザ」と言われた元首相小渕恵三の人物論。群馬県の養蚕家で衆院議員の二男として生まれ、才能の限界を知りながら早稲田を卒業、実力者の狭間で政界を生き抜き首相にまでなった人間像を哀感をもって描いている。

(2.5-)外交を喧嘩にした男 読売新聞政治部 2006 副題「小泉外交2000日の真実」が中身を良く表している。Bウッドワードの「ブッシュの戦争」のように、政権の中枢にいた人を丹念に取材して、北朝鮮・米国・中国との外交の展開を詳述している。根本的に政治家と日本メディアの信頼関係がない為突っ込み不足で、小泉外交が従来とどう違うのか明確で無く上滑りの印象がある。しかし、意欲的な試みは評価できる。

1.0無情の宰相小泉純一郎 松田賢弥 2004 講談社 所謂暴露本だが、まだ記憶の新しい今読むと当時のことが思い出されて一気に読める。政治的に非情な側面を、私的生活を暴いて非難する手法は卑劣で後味が悪い。しかし私の奥底の興味本意の心が一気に読ませた。

1.5+)ドキュメント日本医師会 水巻中正 2003 中央公論 小泉構造改革で抵抗勢力となった日医が、55年体制における医官政の政策決定プロセスを機能させることが出来ず、既得権益を失って行く経緯が描かれている。全編を通じて金の配分を巡る争いが彼等の主要テーマであったことが浮き彫りになっている。

2.0+道路の決着 猪瀬直樹 2006 小学館 当時疑問に思っていた民営化委のメンバーの対立の背景が興味深い。小泉政権下での官邸主導の政策決定プロセスが生々しく描かれている。猪瀬氏がテレビをうまく使って道路族と官僚と対決した一方で、政局を追いかけるメディアに悩んだ姿が印象的だ。 

2.0+暴走する市場原理主義 福島清彦 2000 ダイヤモンド社 題名から際物と思ったが、内容は至極真面目なもの。市場原理一辺倒ではなく、米国は危機に陥ると徹底的な政府介入した歴史の解説は説得力がある。しかしアジア危機から始まった一連の危機の処方箋は、原理主義を非難し陳腐な解決策を繰り返すだけで、世界金融システムのあるべき姿を提案してない。

2.5+世界を不幸にしたグローバリズムの正体 Jスティグリッツ 2002 徳間書店 題名から想起されるグローバリゼーション非難の書ではない。金融界の意を受けた財務省とIMFが、途上国の市場経済の制度上の基盤が無いままに自国では受け入れられない身勝手で性急な自由化や民営化を押し付けアジア危機等が発生した経緯を詳しく述べ、国情に合わせケインズと市場主義を混合した漸進的アプローチを説いた問題の書。

1.0+市場には心がない 都留重人 2006 岩波書店 大先生には申し訳ないが私には何が言いたいか分からない。最後にもう成長しなくてもいいじゃないかという達観は肯けなくもない。

2.0日本経済への最後の警告 JKガルブレイス 2002 徳間書店 ケインジアンの大御所が小さい政府を目指す小泉構造改革への警告という形で、経済学の変遷とニューディールからケインズ主義に基づいた大戦後日欧の復興を実体験を交えて紹介したもの。米国における経済学の位置付けの変化が面白い。日本経済への具体的な提案はない。

2.0+資産デフレで読み解く日本経済 第一生命経済研究所 2003 日本経済新聞 バブル崩壊後の過度な金融引き締めが資産デフレを生み不良債権を増やした、公共投資などで需要を増やし景気回復し「デフレ脱却」が先と具体的データを示しての主張には説得力がある。しかし、世界大競争下で日本の低効率・高コスト体質が生き残れるかという視点がないのは残念。

(1.5+)デフレ生活革命 榊原英資 2003 中央公論社 上記の第一生命と逆にデフレは技術革新と中印の世界経済参入による長期・構造的なものという前提で、小泉首相の構造改革は小手先の対応と見做し理論展開していく。直感的には同意するが根拠が明確でなく引用しにくい。

1.5フリーター亡国論 丸山俊 2004 ダイヤモンド社 マスコミは中高年のリストラをより取り上げるが、若年のフリー他こそ問題だということが良く分かる。フリーターはマクロ経済で13.5兆円の損失を与え、GDP成長率を最大で2.6%押し下げている。衝撃的だが、対策案は明快でない。

1.5刺客 藤沢周平 1983 新潮社 ボランティアの待ち時間に近くの図書館で読み始めて止まらず、借りて帰り一気に読んだ。この本では著者独自の人生観は見られないが楽しめる一冊。

1.5暮らしのバリアフリーリフォーム 安楽玲子 2004 岩波書店 来月実家に戻ったとき家の中を介護の視点で見直す積りで読んだ。参考になる。

1.5動かないコンピュータ 日経コンピュータ 2002 日経BP 日経コンピュータ誌が掲載した人気シリーズの80年代末から2000年初めまでの50例を整理分類したもの。中小企業から高度な金融システムまで失敗例が網羅されている。日本中小企業のIT人材難は実に惜しい。■

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