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ウジアラビアで開催されたOPEC首脳会議は原油価格高騰に懸念を示し価格安定化を目指す姿勢を盛り込み「リヤド宣言」を採択したが、具体的な増産には消極的なまま閉幕した。報道によれば現下の原油高騰は世界的な投機資金の流入によるもので、石油は市場に十分あるという認識が大勢を占めた。
先日深夜のNHKニュース解説を見ていると現在の原油価格の50%が実需増、30%がヘッジファンド等の短期資金、20%が(驚きくべき事に)年金資金の流入を反映した構造になっていると説明していた。つまり本来の実需を反映した原油価格の2倍になっているという。
他に原油価格高騰の補足的なファクターとして中東の軍事衝突など地政学的危機と、中国等アジア諸国の石油小売価格に対する補助金が市場の需給調整機能を歪め、原油価格上昇が需要を抑制しない問題がある。
もっとマクロの視点で言い換えると、世界的な過剰流動性(金余り)がサブプライム問題により株式市場から離れ、石油や貴金属から農産物まで所謂商品市場に流れ急激な商品価格の上昇を招いた。石油価格もこの流れの一環である。
OPEC会議の本音は「原油価格の高止まり」であるが、価格の半分を占める投機資金は足が速い。一旦需給が緩むか他に儲けの多い投資領域があると判断した瞬間に他の投資物件に流れ出す。商品市場といえども今後短期間に上げ下げ値幅の大きい動きをする可能性がある。
現在の需給状況を見るには原油在庫の動きを見ればよいが、10月のIEA報告によれば7-9月の原油在庫は減少しておりタイトになりつつある。12月OPECが増産を決定しないと1バレル100ドル突破し、突発的な地政学上の危機が更に押し上げる可能性は十分ある。
原油価格100ドルは価格下落の始まり
専門家の中には来年にも110-120ドルまで高騰する恐れがあるというが、私は100ドル100ドルと騒ぎ立てるよりも、寧ろ100ドルをピークに値下げに向う説のほうが現実的なシナリオになってきたと感じる。
その理由はどうも世界経済が減速に向い始めたと感じるからだ。サブプライム問題で米国経済の減速が確実になってきた。どの程度落ち込むかはサンククスギビングから始まる年末商戦で分かるだろうが、最悪は成長率が1.5-1.75%になりインフレ懸念が広がる中で米国経済が停滞する可能性が高まったからだ。
米国経済のデカップリング(別途議論したい)が進んでいるとはいえ、これに原油価格100ドルがもたらすダブルパンチは欧米経済(依然としてOECD諸国が全世界GDPの58%を占める)の減速をもたらし原油需要を押し下げるのは間違いない。BRICs等新興国だけで需要は牽引できない。
このような状況を踏まえて、ゴールドマンサックスのアナリストは今後需給曲線に基づく価格に戻って行くと予想(10/23)、今年末に原油価格が85ドルまで下がり、来年末までに60ドル半ばまで下がると見ている。値上がりの大半が投機資金ならありえるシナリオだ。
誰もが望まないワーストシナリオとしてOPECが年内に増産せず何らかの突発的な危機が生じ、結果として原油価格が100ドルを大きく上回ることになれば世界経済が減速し、需給の潮の目が変わったと判断され投機筋の資金が逃避する事態となれば、1バレル50ドルになる。
余談
CO2排出低減や代替エネルギーによる気候変動の抑制は現在の全ての活動が計画通り実施されたとしても、石油消費量を押し下げる経済的効果としては期待できない(地球温暖化には意味がある)。効果的な排出削減は炭素集約度の低いエネルギーの生産と消費の減少を実行する。
排出量削減の約 80%は生産効率の向上と効率的なエネルギー消費により実現され、その36%は自動車等の燃費効率改善、29%が効率的電気利用(照明、空調等)、13%がエネルギー生産の効率向上であるが、この程度の効率の向上は新興国の需要増分すらカバーできそうもない。結局のところ世界経済減速より地球温暖化に良い薬はないだろう。■