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国5大証券会社の一角「ベア・スターンズ」の株価が、先週月曜日一株2ドルまで暴落したニュースを聞いた時、この世界では何でもありと思っていた私もさすがに驚いた。1年ちょっと前は170ドル、今月初めでも80ドル近くあったのだから。
ところがその前の週末に資金繰り不安説が浮上して会長が噂を否定、明けて14日NY連銀が支援策を発表したあたりからつるべ落としで株価急落、JPモルガンの救済合併発表後はついに2ドルまで下がり、株券はハンバーガーすら買えない紙屑になってしまった。
ベア・スターンズの救済は他の米金融各社を守るため妥当な処置であった。金融各社は借り手や貸し手として互いに緊密に結びついており、ベア・スターンズに多額の資金を貸し付けていた各社は、同社が債務返済不能になれば自らも債務を支払えなくなるドミノ倒しが起こったであろう。
17日から始めた証券会社への新貸出制度には19日時点で計288億ドル(約2兆8800億円)もの借り入れが殺到し資金繰り不安を後退させた(朝日新聞)。適切な判断であったことが証明された形になった。
しかし、何故こんなに急激にベア・スターンズの株券が紙屑みたいになってしまったのだろうか。日本に比べ米国は情報公開が進んでいるはずなのに、重要な情報が株主に隠されていたのではないのか、というのが私の第一印象だ。これで株主の利益が守られていえると言えるのだろうか。
それが私にはどうもよくわからない。今までの報道を整理してみると以下のようになる。
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年前、ベア・スターンズ傘下のヘッジファンド2社がサブプライム投資損害で破綻し巨額の損失を報告、サブプライム問題悪化のきっかけを作った。私も論評したが、その時はこれほど酷くなるとは思わなかった。同社の株価は下がったものの今月初めでも80ドル弱を付けていた。
同社は昨年第4四半期を創業以来初の赤字を計上したが、今年の第1四半期は黒字転換すると予測していた。ところが経営不安の噂が流れると短期間のうちに投資家やトレーダーの信用を失い資金を引き上げられ、一気に経営破綻の道を辿った。所謂「取り付け騒ぎ」が起こったのだ。
同社会長は市場不安の下で風評が現実になる可能性を恐れて投資家が資金引き揚げに走ったと語ったと報じられている。昔からある「黒字倒産」ということか。直前の株価が、保有していた資産(多くは例の証券化された金融資産)が帳簿上で高い格付けを反映していたのは疑問が残る。
サブプライム問題が深化するにつれ、格付け会社が顧客の金融会社に都合のいい甘い格付けをする傾向があることが明らかになった。仮に最初は妥当な評価だったとしても、信用不安が起こると取引されず値段もつかない、そんな状況が紙屑に高い値段を付けたままにさせた。
この状況を「証券化商品などの帳簿上の市場価格が誤った格付けに基づいている」と山一破綻で発覚した「隠れ負債」に似た例が、米金融機関にもある可能性を厳しく指摘(朝日新聞)している。一旦投資家の信頼を失うとたった1週間で資金を引き揚げられ破綻し歴史に名を留めた。
直前までベア・スターンズの問題が具体性はないものの経営危機の噂がストリートを渦巻いていたところで、欧米中銀行やNY連銀から支援策が発表されるとその度に噂の真実性が裏付けられた格好になり、株価が止めどなく下がっていった1週間というのが真実だろうと私は思う。
それにしても唐突な経営破綻は結局のところ同社の経営指標、特に資産評価が不透明であったことに帰着される。少なくとも株暴落で大損害を被った大株主のジョー・ルイス氏や投資信託会社などは、今後不透明性を問題提起し訴訟に持ち込む可能性は極めて高いと予想される。
経営者や投資家、他の金融機関、中央銀行や政府当局者の心理状態がこの1週間で劇的に変わっていったと思う。ノンフィクション作家にとっては最高の材料だろう。そう遠くない時期にこの1週間のドラマの内幕を明かした小説が出るはず、是非読んでみたいものだ。■