オバマ大統領について最後に書いたのは田舎生活を始めた6月始めの頃だった。その前月、高い支持率を維持したまま就任後100日を迎え、最大の懸案事項だった自動車産業救済のソフトランディングの目途がついた頃だった。市場はこれを歓迎しその後から株高が進行、新政権は前途洋々の船出をしたはずだった。
草の根の感覚と反発
それから3ヶ月経ち、市場の活況に反して米国民の中にはオバマ政治を反資本主義的行為と見做す人達が増え始めている、オバマ政権の水平線に不吉な雲が見え始めたと投稿した。ことの善悪より政策と米国人のメンタリティとの微妙なズレ、直感的に何か違うぞ、というものを感じた。
http://blog.goo.ne.jp/ikedaathome/d/20090611
その後、オバマ政権の目玉であり民主党の長年の懸案だった医療保険改革に着手し難航が伝えられる頃から、オバマ大統領の支持率低下報道が目立つようになった。直近の主要世論調査機関の調査結果では支持率50%前半若しくは50%を切るまでに低下してしまった。
まるで私の田舎暮しとシンクロしたように支持率が低下したが、もちろん関係ない。医療保険改革を強行しようとしたのが原因と伝える記事を見かけるが、私はそれ程単純ではないように思う。今回は支持率急降下の原因について議論してみたい。
金持ちと貧乏に流れる税金
医療保険システムを国営化して4700万人いるといわれる無保険者を救済しようというのが改革の概要だ。これに対して米国の草の根である中流階級が結果的に増税になると反発した。オバマ政権は理解を得るため全米でタウンミーティングを開始したが、共和党はこの機を利用して党員を動員して反対者を送り込み、タウンミーティングは上手くいってない証明をした形になった。
ここからは関連する記事を読んでの私の推測である・・・
先ず議論のベースとして、全ては不況下で起こっていることを認識する必要がある。巨額の税金が投入されて金融システムの安定化が進み、自動車産業が救済された。公金を使って民間企業を救済するのは、経済の根幹になる金融システムを守ることでさえその是非が議論された。
草の根にとって許せないのは、救済を受けた大手金融機関は4-6月決算で黒字回復し、数百億円もの巨額のボーナスが支払われ、一方で自分達の仲間の雇用悪化が止まらないことだ。目線を下に向けると、やり切れないことが起こっているではないか。
不景気で収入減にもかかわらず中流階級が絞り出した血税が、医療保険の国営化によって保険金を払っていない人達に使われる、というやり場の無い強い怒りだ。草の根にとって見れば税金が、大金持ちと保険金も払わない(無責任な)人達に使われ、自分達に何ら役に立っていない。
苛立ちを隠さない草の根
今まで見逃されてきた問題も一々引っ掛かるようになった。些細なことに過剰に反応する。黒人大学教授が鍵をなくして自宅に入ろうとして逮捕されると、大統領は不用意な発言で人種問題化する。更にはアフガン大統領選で治安が悪化し、ベトナム戦争の泥沼化を恐れる声が出てきた。
オバマを選択した無党派の中流階級は、自分たちのお金(税金)が自分達の為に使われない政策に、かなり苛立ち始めているように感じる。元々米国人は日本人よりも税金の使われ方に極めてシビアだ。日本官僚の無駄遣いが米国で起こり政治が対応しなければ暴動が起こりかねない。
ブッシュ大統領が2期目の大統領選に勝利した頃、宗教的要因などで米国の保守人口が年々増加している構図を解説する記事を見た。傾向は変わっていないようだ。オバマが接戦から抜け出したのはリーマンショック以降、1929年世界大恐慌に匹敵する経済危機だった。ブッシュ前大統領の悪評がそれを後押しした(ブッシュを麻生と置き換えると今回の総選挙と同じ構図になる)。
私には、このところのオバマ大統領の支持率低下は、オバマを支持した保守層の熱が冷め始め、草の根本来の保守体質が表に出始めたように感じる。日本でも民主党が総選挙を勝利したが、政策には必ずしも賛成しないとの声が聞かれる。この民意とのギャップをよく認識して政権運営に取り組んで欲しい。オバマ大統領が医療保険をどう処理するか他山の石となろう。■