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ーマンショックから早いもので今日でまる1年経った。世界大恐慌になるか恐れおののいたものの、世界経済は意外に力強く回復の道を辿っている。1面から経済ニュース欄に移ったものの、9.11の8周年は何気にやり過ごした新聞及びテレビメディアも、リーマンショックについては特集を組んでこの1年を振り返っている。
私にとっても会社勤めを辞めて以来最も刺激的な1年だった。ここで振り返ってみたい。
5-6年前頃から米国内の報道を見て住宅バブルを私は注目していた。不動産業界の知人は自分のところは大丈夫と楽観的だった。日本列島全体がバブルに浮かれた時代と異なり、当時の米国の不動産バブルは州によって状況が全く異なり、今から思えば全体像が見えてなかった。
その頃は私もそれが世界に波及する大問題だとは思わず、やがて自分の身に降りかかる世界的危機に発展するとは予想もしなかった。当時は退職金を元手に、高リスク資産でも投資の種類と国や通貨の組合せで分散させて運用すれば、全体としてリスク管理して高いリターンを得られると考えていた。だが、あちこちに地雷が埋められていた。
しかし、1年前のリーマン・ブラザーズの経営破綻が全てを吹き飛ばした。住宅価格の暴落により焦げ付いたサブプライム・ローンが世界有数の投資銀行を破綻させ、世界の金融システムを揺るがした。半年前ベアスターンズを救済したのに何故という思いは今でもある。
1年前のブログの記事を読み返すと、私自身予期せぬ出来事に動揺し、米政府は何という決断をしたのか、必ず高いツケを払うことになると嘆いている。言ってもせん無きこと、パンドラの箱は開けられた。しかし、その後世界中がひっくり返る展開になるとはまだ予想してなかった。
何故そんなことになったかというと、金融技術によって細分化されたサブプライム住宅ローンが証券化され「優良マーク」格付けをつけて世界中に売られていたからだ。これが、米国内に限定できたはずのローカルな問題を世界に伝播する媒体となり、グローバル金融システムを信用不安に陥れた。発端は米国だが、世界の金余り現象もこのドラマの重要な役割を果たしたと言える。
更には、インターネットが信用不安の伝播速度を瞬時に加速させ、「世界同時信用不安」と呼ばれ世界を震撼させることになった。企業は直ちに設備投資を抑制、労働者は職を失い消費は失速、新興国への資金の流れが絶たれた。企業の引き締めもコンピュータ化され、史上かつて無い速さで実施され、世界経済縮小の速度が恐怖を呼んだ。
私の僅かな金融資産も例外なく暴落したが、振り返ると比較的早く正気に戻り対応をしたと思う。
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は分散投資したといっても、全ての資産が影響を受け暴落の影響は甚大だった。高リスク資産であっただけ下げがきつかった。暴落した金融商品の損を確定する資産売却をする気にはならなかった。根拠無く塩漬けにした訳ではないが、萎縮して動けなかった側面もあったのが正直なところだ。最初は恐怖で的確な判断が出来るか自信がなかった。
しかしパニックにはならなかった。この世界同時不況は「恐慌」にはならないという(希望的だが確信的)読みがあった。1929年は各国政府は考えうる最悪の施策を打ったという知識があり、今回は世界中の政府が恐慌を防ぐ為に史上かつて無い規模の救済を連携して実行したからだ。又、新興国は度重なる危機で学びショックを和らげる準備が十分ではなくともある程度できていた。
加えて私自身、市場で一体何が起こっているのか情報収集に努め、個々の物件情報だけでなく世界で何が起こっているか注目し大局観を失わない様努めた。運良く最大の投資物件について詳細な報道が続き、情報不足で不安に押し潰されるような事態にはならず、心の平静を保てた。日本での報道はネットを通じて殆ど事前に知っており、専門家の過剰反応もやり過ごせた。
今年に入り3月になると、シティバンクが業績改善の社内向け情報が伝わって以来、市場は急ピッチで上昇に向かった。その後は新興国に引っ張られる形で、先進国の実体経済も底を打って回復の道を辿るようになり、今日では株式市場は若干過熱気味となり調整段階にあるようだ。
今年初め頃だったがNYタイムズの経済欄にあった簡易ツールを使って、損を取り返すために何年必要かシミュレーションをやった。楽観的な条件でも10年弱かかる見積もりが出てがっかりしたものだ。しかし、実際のところ私は何とか個人資産の危機を脱したように感じる。
今朝のCNBC放送によれば、リーマンショック前に比べダウ平均は86%だという。実際のところ私の現在の金融資産はピーク時からマイナス15%程度だから、大体世間並みの水準に回復していると思っている。因みに「金」はプラス34%だというから、人間の心理は昔も今も同じようだ。
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、世界経済が回復途上にあるといっても、回復後の世界や日本経済が元に戻るわけではない、雇用なき回復が今後かなり長く続き先進国の消費スタイルが変わると予測される。その結果として中期的には先進国と新興国の商品が徐々に似てくるのではないだろうか。「ローエンド破壊」が世界規模で起こるというのが私の予測だ。
日本市場特有の高付加価値商品は、経済的効率からいうと徐々に姿を消す運命にある。商品開発のリソースには限りがあり、巨大な需要がある新興国のニーズにあった商品開発を優先させるしか生き残りの道はなさそうだ。日本の消費者もまたそれを受け入れ定着すると私は思う。もちろん国内限定のニッチ商品も生き残るだろうが、日本全体がそうなるのは避けるべきだ。
さてこの先の見通しだが、政府の景気刺激策が切れる頃の冬から来春にかけて二番底が来る予測をする専門家は多く、景気刺激策の第二弾も議論されている。私の予測は、内外の企業はスローな回復を織り込み済みで企業業績はそれ程悪化しないと見る。
その分雇用回復が更に遅れ消費が低迷するのは避けられない。雇用なき回復だ。それは従来発想に基づく見方で、決して一時的なものではないと私は予想する。それが常態になるのではないだろうか。上記の新しい(合理的)消費スタイルは特に縮小均衡に向かう日本、そして多分欧州も、良く当てはまる気がする。
一方、金融不安を起した取引慣行の規制については少しタイミングを失しつつあるように感じる。金融業界の記憶時間の短さは殆ど病気だ。政府の支援策のお陰で収益性が回復した瞬間から彼等は記憶喪失にかかったようだ。これを厳しく非難するオバマ大統領を今朝のニュースは伝えており、結果的により厳しい規制を提案する欧州に歩み寄る可能性を示唆したように感じた。
個人的な話に戻ると、私の高リスク資産は下げがきつかった分、回復も早かったのかもしれない。回復が早いもう一つの理由は、リーマンショック後茫然自失の日々から暫らくして正気に戻り、早いところでは10月から新しい状況に合わせポートフォリオの見直しを継続してきた為と思う。
危険は冒せないが、初めは残りの資金で底値を狙う一方で、徐々に低リスクの債権に切替えて行き、最近は市場の落ち着きを見て再度リスク許容度を高めた。しかし、この年齢で毎日株価を追うのはもう無理、信託投資を除き株券は全て売却した。結局、それは私の世界観の表れと言える。
言い換えると状況認識と私自身のかかわりだ。それは経済回復後の世界や日本経済が元に戻るわけではない、雇用なき回復がかなり長く続き先進国の生活スタイルが変わる、その中で日本は縮小均衡の道を辿り、私は徐々に高齢者の領域に入るというようなことだ。
あまり魅力的な世界とは言えない。如何にも夢の無い老人の考えだが、これが現実であることを認め、此処にボトムラインを引いて失望することなく上を目指すというのも悪くない気がする。少なくとも私のスタイルには合っている。総括すると何ともお粗末、しかし刺激的な1年だった。■