かぶれの世界(新)

写真付きで日記や趣味を書くならgooブログ

周回遅れの読書録10-11冬

2011-03-01 12:56:07 | 本と雑誌

米国のサブプライムの焦げ付きがリーマンショックを引き起こし、世界を震撼させることになった。100年に一度といわれる大恐慌の淵に世界を追詰めたリーマンショック舞台の主演・脇役・監督や舞台裏・観客の人達の記録が昨年頃から出版され始めた。

リーマンショックが世界に信用不安を伝播させ世界同時不況に陥れた経緯と、現場・金融機関・政府が夫々の立場でその時どう振る舞ったのかずっと興味を持ち、関係者達の記録が出版されるのを待ち望んでいた。私はリーマンショック前後に経営者や政府当局がどういう意思決定をしたのか、その舞台裏の葛藤など是非読みたいと思っていた。

だが、近くの古本屋ではこの種の本はまだ見つからなかった。遂に待ちきれず今回は本ブログのメインテーマである「周回遅れ」を返上し、主に市の中央図書館で借りた本の読後感を紹介する。紹介する本の多くは、仮に古本屋で見つけてもまだ安価ではないはずなのでご了解頂きたい。

リーマンショックを理解するには1冊読めば全貌が理解できるというものではなかった。以下に紹介する本は読書の目的によって一概に優劣を決められるものではない。個々では私の好みに合うか、読み物として面白いかどうかという視点で紹介する。

1) 取っ掛かりとして「金融大狂乱」を読んでリーマン・ブラザーズ社内で何が起こっていたか理解するのがいい。普通の読み物としても面白いので、予備知識を得る入門書の役割として勧めたい。
2) サブプライム・ローンのメチャクチャな販売実態を知るためには、前回(2010/12/2)紹介した「サブプライムを売った男」を併せて読むとより理解が進む。
3) 次に「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」で世界同時金融危機に取り組んだ財務長官主役他オールスターキャストの悪戦苦闘ぶりで、金融市場の混乱と人間関係の全貌が見えてくる。
4) 「バーナンキは正しかったか」はもう一方の政府当事者だった連銀が初期に問題の本質を把握できず、一方で政治的圧力を受けながら徐々に学習して対応していく姿が描かれている。
5) リーマンショックの生々しい現場から少し引いて金融危機と金融商品の問題の全体像を論理的に把握するには「世界はカーブ化している」が見識ある視点を与えてくれる。
6
) 「ソブリン・クライシス」は、リーマンショックが世界に波及した時、何故欧州が最も打撃を受けたか構造問題の理解を助けてくれる。
7
) 「サブプライム金融危機」は、日本の金融機関がその1年前にどう見ていたか垣間見ることが出来、それは大多数の日本人の危機意識の欠如を逆説的に認識させてくれる。

それではこの3ヶ月読んだ本について、多少重複するが私の評価も含めもう少し詳しく紹介する。馴染みが無いと難読なものもは、読めば直ぐ分かるのでスキップされるといいでしょう。

2.5+世界はカーブ化している Dスミック 2009 徳間書店 ベアスターンズ救済後とリーマンショック直前のグローバル化した金融システムのあるべき姿を描いたもの。金融関係の政府民間のトップとの交流を通じて、グロバリゼーションと起業家精神を信奉する著者のぶれない視点でサブプライム・金融技術・日本の失われた10年などの本質に迫っている。

2.0-グローバル・インバランス Bアイケングリーン 2010 東洋経済新報 現在を中心国(米国)、リターン重視の資本勘定地域(欧加豪)、輸出による成長重視の貿易勘定地域(新興国)からなる新ブレトンウッズ体制との見方を批判する書。原文か翻訳のせいで難解な文章、若しくは私の専門知識が不足しているため、内容の評価は的確にできない。

3.0-リーマン・ショック・コンフィデンシャル(上下) ARソーキン 2010 早川書房 サブプライム焦げ付きか米国政府の救済法(TARP)成立までポールソン財務長官やガイトナーNY連銀総裁、銀行トップ、弁護士等の全ての当事者が発言や行動を追跡し全貌を描いたもの。ハイライトはリーマンショック勃発から2週間の危機が時間刻みで描かれ迫真の臨場感がある。丹念な取材と裏付に基づくBウッドワード風のNF。真理追究より破綻間際の人間劇として非常に面白い。

2.5+バーナンキは正しかったか Dウェッセル 2010 朝日新聞出版 グリースパン時代を経てサブプライム焦げ付きから住宅バブル崩壊、ベアスターンズ・AIG救済頃までのFRBと政府の金融と政治対応を、バーナンキFRB議長にフォーカスして描いている。金融技術進歩と危機の認識に欠け対応が後追いになりながらも、「必要なら何でもやる」決意で世界大恐慌を防いだ、試行錯誤の危機管理と中央銀行の増大して行く役割を生き生きと描いている。

1.5ウォール街の崩壊の裏で何が起こっていたのか? Rゴールドバーグ 2009 一灯舎 金融業界をバイサイド(証券を買って運用するヘッジファンドや機関投資家)とセルサイド(商業銀行や投資銀行)に分けて、金融取引手法の視点から金融危機までを描いたもの。専門的過ぎる内容とは感じないのに、何故か本書の趣旨が殆ど理解できなかった。

3.0-金融大狂乱 Lマクドナルド 2009 徳間書店 叩上げのトレーダーから見たリーマン・ブラザーズ崩壊の内部告発の記録。何度も踏み止まる機会があったのに、無能な会長と社長の暴走を止められずやがて破綻していく様を、プロの作家の手が加わって生々しく描いた佳作。大元の原因をグラス・スティーガル法廃止と商品先物取引現代化法にあるとし、サブプライム販売と証券化のリスクに目を瞑るトップ、破綻間際の会長とポールソン財務長官との確執など、興味深い。

2.0-サブプライム金融危機 みずほ総研 2007 日本経済新聞社 リーマンショック前年に日本の金融機関がサブプライム問題をどう捉えていたかが判る。公式発表やデータを使って総花的な解説で、肉声が聞こえない。世界の金融システム危機が迫っているという切迫感はない。私もその一人だったことを思い出させてくれる。

2.0+ソブリン・クライシス みずほ総研 2010 日本経済新聞社 米国発の世界同時金融危機から中々立ち直れない欧州の財政危機を、仕組みの問題・南欧と中東欧の財政悪化・それを支援する独仏の足並みの乱れなどを解説したもの。新味はないが、最後に更に状況が悪い日本の財政問題が、何故今すぐ危機にならないのか解き明かし示唆する対応策は興味深い。

2.0デリバティブ入門 森平爽一郎 2007 日本経済新聞 大阪堂島の先物取引を詳しく紹介するなど題名通り書き出しは入門だが、後半のオプション取引やブラック・ショウーズ・モデル数式の解説となると、易しい文体でも畑違いの私には難解な内容だった。

(2.0金融アンバンドリング戦略 大田尚司 2005 日本経済新聞社 金融業を3つの機能に分業化して強みに徹した仕組を提案する。金融業では護送船団で守られ進化しなかったが、製造業が30年以上前から進化させてきた水平・垂直分業から類推できる部分がある。提案のベースになるのが証券化等による商品のブラックボックス化で、後に世界同時金融危機勃発を著者は予感してないが、今読むとその理由が少しわかったような気になれる。

2.5+イヴの七人の娘たち Bサイクス 2001 ソニー・マガジンズ 細胞の核の外側に母親から受け継ぐミトコンドリアのDNAに、突然変異の痕跡が残っている。これを遡れば欧州人は殆どが4.51.5万年前の7人の娘に辿り着くというNF。素人の私でも理解できるロマンに満ちた科学読み物で、学会の通説を覆すくだりは小説を読むように面白い。

3.0-ジャーナリズムの思想 原寿雄 1997 岩波新書 豊富な経験を生かし色々な視点から日本型ジャーナリズムの問題を提起し、あるべき姿を説いた佳作。出版後13年経つが指摘された問題は改善されず、今日でも新鮮な内容。私が素人ブログ記事を書く上でも参考になった。個人的には欧米ジャーナリズムとの比較や交流に触れて欲しかった。

最後に「ジャーナリズムの思想」は今日の日本型ジャーナリズムの問題に切り込んだもので、是非読書を勧めたい。新聞テレビ報道を批判的に見て自分で考える視点を与えてくれる。これに関連して「リーマン・ショック・コンフィデンシャル」の最後に、救済措置で大批判を受けたポールソン財務長官にJダイモンが送った手紙の抜粋を紹介したい。

「重要なのは批評家ではない ――  力ある者がどうつまずいたか、偉業を成し遂げた人間がどこでもっとうまくやれたかを指摘する人間ではない。名声は、現に競技場に立つ男のものだ。果敢に戦い、判断を誤って、何度も何度もあと一歩という結末に終り -― なぜなら、間違いも欠点も無い努力など存在しないから ―― 顔は誇りと汗と血にまみれている。しかしその男は、真の熱意、真の献身を知っており、価値ある理念のために全力を尽くす。結果、うまくいけばすぐれた功績という勝利を得る。しかし万一失敗に終っても、それは少なくとも雄雄しく挑戦した上での失敗である。だから彼の立場が、薄情で臆病な、勝利も敗北も知らないものたちと同じになることはありえない。」(セオドール・ルーズベルト大統領が19104月ソルボンヌ大学で行った演説「共和国における市民権について」からの孫引き)■

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする