今日の母は昔に戻ったみたいだった。1週間ぶりに石手川の堤防沿いに車を走らせると、河川敷のサクラがまだ満開だった。施設の2階に向かうと、いつもはベッドに横になっている母が食堂兼用の広場にいるのに気付いた。手前の詰め所に馴染みの若い介護士が居たので挨拶した。
2週間前に訪問した時、母が風船バレーボールを楽しんでいるところを見学した。彼女が一緒の写真を撮ってメールで送ってくれたのを思い出した。礼を言うともっと良いのがあると言い、指先の方向に職員の子供と母が一緒の写真が壁に貼ってあった。自然な感じで良い写真だった。
今日は母を風呂に入れたばかりだという。いつもよりすっきりした顔で、私の顔を見たときに見せるいつもの拒否感が無かった。バセドウ病の治療が上手くいって血糖値が安定している事は母も認識していた。その医者の名前を聞くと返事が無かったが、少なくとも自分がどうなっているか理解していた。良いサインだ。
続いてお墓掃除をしたことを報告し、境界の生垣をどうすれば良いかと聞いた。即決ではみ出した分は遠慮なく切れば良いと明快な返事が返ってきた。孫娘が昇進したようだと報告すると、珍しく表情に出して喜こび目が少し潤んでいるように感じた。曾孫が大きくなった、見たいか、と聞くと大きくうなずいた。予定は無いのだが、夏には顔見せに来るからねと思わず言ってしまった。
再来週は家内が義母に見舞いに田舎に来る、XX病院で治療中の義母の様子を報告した。母は誰かが病気だとか難儀をしているとかの話は聞きたくないようだ。だが、声を荒げて拒否するのではなく平静に「そういう話はもういい」と言った。「わかった」と言って私は話題を変えた。いつもなら母は爆発して、そこで会話は終わり追い返されたはずだ。
母を施設に入れて以来こんなに普通に話せたのは久しぶりだ。その直前にケアマネージャから3ヶ月ごとに見直すサービス計画書(ケアプラン)の説明を聞き、少しずつ母が施設の環境に慣れ落ち着いてきたと報告を受けていた。私は半信半疑だったが、少なくとも今日はそう感じた。
施設の報告書には体温・脈・血圧・血糖値などの健康指標は安定しており、「全身状態安定」と書かれていた。レクレーションに積極的に参加、最初は拒否した風呂にも自らの意思で入り、新しい入居者を思いやる場面もあったと聞いた。
食欲を我慢できないのは直っていないが、対策をしたので介護上それほど問題ではなくなったようだ。以前、食堂内の花がベランダに出されているのは、母が花を食べたからだと聞いた。話を聞いて迷惑を掛けますと言った後、私は笑ってしまった。いずれにしろ対策済みだ。
唯一の問題は失禁が酷くなってきたことだ。ケアプランでは母がナースコールを使うようになったので、それを利用して辛抱強く排泄補助をしていく積りだという。余り期待はして無いが、施設は色々工夫してくれていると理解できた。もし下着や普段着が余分に必要になったら、費用など了解を取る必要は無いので施設で立て替えて買って欲しい旨ケアマネージャに念押しした。■