かぶれの世界(新)

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西海岸の偽寅さん(追加)

2014-05-12 22:19:24 | 日記・エッセイ・コラム

 1週間前に私の助平でドジな体験談を紹介した。突然自虐的な暴露をした訳ではない。私の恥ずかしい部分も記録しておいたら、いつか子供達が読んで私のことを知って貰えると思ったからだ。寅さんとの決定的な違いは、私は結婚して3人の子持ちだということ。その癖スケベで女好きオヤジで、どうにもならないのにアプローチしいざとなると腰砕けになってフラれる。前回の記事を投稿した後、その数年前にもう一つ同じような経験があったことを思い出した。何しろ20年以上前のことなので記憶に残っている断片をそれらしく筋道の通るように繫げて紹介したい。

 それは90年代初め私が勤める会社で、ハイテック商品に使う部品を技術的に認定する部門の責任者になった時のこと。多分、その頃日本で一番購買額が大きい部門の技術責任者だったと思う。お蔭で色々と経験させて貰った。半導体から光ディスク・電源・バッテリーや機構部品まで幅広くカバーし取引先とのお付き合いは大変だった。その中に、工業デザイン(ID)も含まれていた。

 ある時、ハイテック機器のイメージを一新するため世界的なデザイン会社に意匠設計を依頼する方針が決まった。サンフランシスコに関係者一同が集結して1週間かけてデザイン・コンセプトを議論して作ることになり、本社のデザイナーや事業部門の機構設計技師と一緒に私も参加することになった。私はエレクトロニクス技術者上がりのど素人だが、開発費を支払う部門責任者の立場で参加した。どうせ分からない素人という立場で、言いたい放題の気楽な出張だった。

 その時、現地のID会社との間に立って通訳をしてくれたのが”L”だった。確か彼女はスタンフォード大出身のID専門家で、日本語と英語の専門用語が飛び交う会話を上手く取り持ってくれ、米人と日本人参加者の両方から信頼され人気があった。私より10cm以上背が高いイタリア系の美人で話をするときやたら手を振るので、いかにもイタリアン・スタイルだと皆にからかわれていた。

 合宿は順調に進み最後の夜全員揃って食事をした。仕事が終わり小高い丘の上の事務所を出て皆が三三五五うち連れて緩やかな坂を下り港(有名なフィッシャーマンズワーフ)まで歩いた。私はデザイン会社の社長と一緒だった。彼は会議を仕切り方向付けし、私は何もしなかった。思いつき発言を連発して皆を笑わせ、良くて潤滑油になっただけだった。彼は私を嫌ってはいなかったと思う。単に私が財布の紐を握っているというだけだったかもしれないが。港でクルーザーみたいな小さな船に乗り対岸のサウサリートの洒落たレストランでディナーを頂いた。

 だが、実は私は何を食べたか、何を話したか、殆ど記憶してない。記憶は港に行く途中社長と交わした会話の後不鮮明だ。彼は「”L”がお前に子供が何人いるか聞いただろう?」と聞いたので、「うん、3人いる」と答えた。彼は「質問の意味は、お前が結婚しているかという意味だ、Lはお前に惚れてるよ」と言ったような記憶がある。それまでリラックスして快活だった私は急に固まって動きがぎこちなくなったような気がする。それ以降の記憶が曖昧だ。

 それまで彼女は感じ良いとは思っていたが、ちんけな私等には高嶺の花だと思いそれ以上特に意識することもなく自然に仕事の話をしていた。その前の昼食後サンフランシスコの街並みが見える屋上に上がり皆で記念写真を撮った時、彼女は私だけと別に写真を撮りたいと言ったが私は何も感じなかった。後ろに手を回すと凄く柔らかく指がめり込む感触で、見かけより腰の肉付きがいいという印象だけが残った。日本にいた時に二三度口をきいたことがあるだけで何もなかった。

 私の推測ではサンフランシスコの合宿で自由奔放に発言する私を見て、この自由なオジサンは彼女が知っているステレオタイプの日本人じゃない、と予想外の展開が新鮮で彼女の気が触れたのじゃないかと思う。理由は何にしろ、社長の話を聞いてからの私は彼女に普通に接することが出来なくなった。全く情けない。しかもその時点ではもう何も無くなったというのに。彼女は私が結婚していると分かって、それでもう十分だったはずだ。帰国してからも彼女に会うと、私は無駄にギクシャクをしていた。その年の暮れカードをくれた後互いに会う機会もなく音信不通になった。

 それから数年後に私がシアトルで仕事をしている時、当時合宿に参加したデザイナーが訪ねてきてくれたことがある。その後正式取引が決まったデザイン会社と共同作業をするためサンフランシスコにいるという。彼によると”L”は金持ちと結婚してサンフランシスコの豪邸にいるという。私は彼女に相応しいと、無表情で頷いたと思う。彼女のことは社長しか知らないはずだ。彼は大した用もなくただ懐かしがって訪ねてくれたのか、何故彼女の消息を教えたのか未だに分からない。社長がバラしたのかもしれない。■

コメント
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