新大統領の最初の一手
25日の大統領選で圧勝したポロシェンコ新ウクライナ大統領はそう言って、ウクライナ空軍の戦闘機とヘリコプターがウクライナ東部のドネツク空港を占拠した親ロ派を空爆した。ロシアの強硬姿勢にウクライナ暫定政権は手をこまねいて対応できなかったが、新大統領の第一手は親ロ派への痛撃だった。虎の威を借りてやりたい放題だった親ロ派にとって、テロリストと決めつけられるのは予想外だったと思う。ロシアが介入するそぶりを見せないのはショックだったと思う。
ロシアは今迄の強硬姿勢とは打って変わって軍事介入しそうもない。ここに来てロシアが大人しいのは欧米の制裁の効き目が出てきており、これ以上追加制裁がエスカレートすると経済的打撃が受け入れ難くなるという。新大統領はロシアが強く反発できないと読んでドネツク空港奪還を強行したのだろう。素早く断固とした決断がポロシェンコが強い大統領であると各国に印象付けた。
魔法の言葉
それにしても「テロリストは交渉しない」とは、チェチェンの独立派を制圧したロシアにとってきつい皮肉だ。ポロシェンコにロシア外交の一貫性をどうやって説明するのか窮するのではないだろうか。新大統領選は事前から計画し、選挙に勝った瞬間に親ロ派を空爆したと思われる。その一方でロシアと対話する用意があると言い、ロシアが返事に困る、この大統領はやるなと私は思った。
「テロリストとは交渉しない」が魔法の言葉になった事件を思い出す。77年に日本赤軍がパキスタンのダッカでハイジャック事件を起こした時、犯人は日本で服役中の赤軍派の釈放を要求した。当時の福田首相は「一人の生命は地球より重い」と言って獄中メンバーを引き渡した。この直後に西ドイツがテロリストの要求を受け入れず、ハイジャックされたルフトハンザ機に特殊部隊を突入させ人質を救出した。この一連の事件を機会に「テロリストとは交渉しない」という流れに変わった。
ウクライナ危機の教訓
私はポロシェンコ大統領の誕生とこの第一手が、今後のウクライナ情勢の流れを変えると期待を込めて予測する。今まで欧米の対ロ制裁はひいき目に見ても生ぬるいものだった。ウクライナ暫定政権が何もしない、国を守る為に血を流さない、のに何で外国が我々が助けてやらなければならないのだという気持ちがあったのだと思う。だが、流れが変わったと私は思う。
だが、ウクライナ危機にどう対処すべきかはウクライナ以上の意味がある。
独フランクフルター・アルゲマイネの興味ある記事(5/15)を今日の日本経済新聞が紹介していた。ドイツ政治経済の中枢にある人達は「表向きはロシアを非難するが、実際にはプーチン政権に取り入ろうとする」、「ロシアのガス供給を止められる不安がドイツ社会にある」というのだ。メルケル首相の優柔不断の背景だ。英仏にも同様の事情があることは以前にも書いた。
同紙は続けてEUの対中貿易が今や対ロ貿易の2倍になった。ベトナムと中国が武力衝突したら欧米はどう対応すべきか、ロシアのガスは代替可能だが中国とはそうはいかない。中国には一枚岩の態度で抗議し世界秩序が乱れる事態を避けよ、その為には今から中国の依存度を減らせ、それがウクライナ危機の教訓だと指摘している。グルジアがウクライナ危機を生んだように、ウクライナ危機が新たな危機を生む。欧米政治家の洞察力と決断力は教訓を生かせるだろうか。■