10-20代初めは漱石や龍之介・鴎外、ロランやシュトルム等所謂名作といわれる小説を読み漁った。期末試験前日に静かな心で漱石を読むと何故か熟睡でき翌日頭が冴えた。私の功利主義的性格は仕事に就くとすぐに現れ、文芸作品から離れ自分の関心・目的にあったNF(ノンフィクション)を選んで読むようになり、その中で波長の合うものに影響を受けた。専門書を除き私が夫々の年代で影響を受けたと記憶する書物10冊余を当時の読書傾向とあわせ紹介する。
20代 昭和史探求時代、どういう時代に生きているのか
昭和憲法史 長谷川正安
昭和史発屈 松本清張
学校の歴史で教わらなかった戦前戦後の日本歴史がこの2冊の本で連続、繋がった。「昭和憲法史」は戦後左翼知識人のマルクス史観を私の思考パターンに焼付けた。戦後経済復興と平行して噴出した社会矛盾に接して、当時の世の中が戦前の軍国主義時代をどう総括し改革されたのか知りたくなり、現代史物を多く読んだ。当時体系的な歴史の評価をしたものはマルクス史観をおいてなく、結果的にその影響から脱するのに長い時間がかかった。清張を読むまで私にとって戦前と戦後の日本は全く別の世界だった。
30代 多読・乱読時代、自分探し
交遊録 アーノルド・トインビー
傍観者の時代 PFドラッカー
両巨人の代表的な著作よりもこの2冊の謂わば「人との巡り会い個人史」が30代の読書で鮮明に記憶に残っている。トインビーの相手の欠点を明らかにしながらの長所を見失わない歴史家の目、ドラッカーの古きよき時代の癖がある人物の根底に確固たる物を見出す眼力を感じた。読んだ当時彼らは何故もこんなに巡り合いに恵まれているのか、自分の才能の無さの言い訳にした。
ベスト&ブライテスト/メディアの権力 デイビット・ハルバーシュタム
大統領の陰謀/最後の日々 Bウッドワード・Kバーンシュタイン
米国最良にして最高の人材が集まったケネディからジョンソン政権がベトナム戦争の泥沼に入っていく様を描かれており、冷戦時代の民主義システムが機能することの難しさを知った。権力が民主主義の弱さをついて堕落した時、メディアが第4の権力として力を得てどういう役割を果たしたか、私には教科書ではない生の現代米国民主主義を知った書物である。その後米国人と仕事をする上で守るべき規範や手順を大枠で理解するのに役に立った。
40代 日本人論的戦略探求、仕事に熱中
坂の上の雲 司馬遼太郎
零戦燃ゆ 柳田邦男
明治時代に日本が極東の小国から世界の大国になっていく様を二人の軍人を通して描いた「坂の上の雲」と、その成功体験が仇となり歪なコンセプトに基づくゼロ戦が最終的に米国に敗れる「零戦燃ゆ」は、私にとって百年に亘る繋がった一つの長編物語である。二つの物語を結びつけるキーワードは日本軍人の精神主義信仰だった。会社幹部になった頃で、この本は物事を戦略的に考える重要性と動機を与えてくれた。
50代 大局観探求、新宇宙船地球号の未来探し
文明の衝突 サミュエル・ハンチントン
ローマ人の物語 塩野七生(読書進行途中)
歴史を見る目を古代から現代まで広い視野を与えてくれた本。グローバリゼーションの世界を解く3部作の中で私は「文明の衝突」を最も普遍性が高いと評価する。「ローマ人の物語」は一昨年以来一旦休憩中だが、塩野さんの著作に共通する感性と冷徹な歴史観は未来にも適用しうる何かを感じる。
これらの本は私の勝手な書評のレベル4(名著です)か、5(人生観が変わった)に当たるものである。4と5は本の価値を表すわけではないので表示しないことにした。ここに紹介しなかった本の中にも名著で動かされたものは沢山あるが、同じ傾向の本は代表的なものを選んだ。
若い頃は昭和史にはまったが、並行して昭和を越えて古代「ガリア戦記」から現代ゲリラ戦「ブラック・ホーク・ダウン」まで沢山の戦記物を実に熱心に読んだ。今回見直した結果“影響を受けた本”として純粋な戦記物は1冊も選ばず司馬遼太郎と柳田邦男を入れたのは、我ながら驚いている。多分年齢が本の評価を変えさせたと思う。
振り返ってみると殆どいつも本を読んできた積りでも、実はほんの一滴で特にもっと古典を読むべきだったという思いがある。その時の流行に流されない読書をしてきたつもりだが、こうやって見るとまるで流行を追っ掛けるような読書歴で今までの言葉がいささか恥かしくなる。■
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