一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

カトモモに教えていただく(中編)

2019-08-22 00:09:48 | 女流棋士の指導対局会

第2図以下の指し手。▲1四飛△4三銀▲4六歩△5四銀▲4七銀△6五銀▲5六銀△7六銀(第3図)

大野八一雄七段は、奥の和室で指導対局中だ。
第2図から▲1四飛。これも定跡の手だが、よく分からない。△2五桂ハネの際、あらかじめ桂の裏側に潜っておこうの意だろうか。△4三銀に▲4六歩。定跡通りだとは思うが、微妙に局面が違う気がする。
でもよく考えたら、加藤桃子女流三段は奨励会で、香落ちをいっぱい指してきたのだ。経験値は私よりはるかにあるわけで、もうこちらは上手の術中に陥っているのかもしれない。
△6五銀と進出され、銀の出足の速さに驚いた。大昔、知人との駒落ち戦で、上手の私が素早く銀を繰りだしたら、「なんで銀がそこにいる? 銀って、そんなに速かった!?」と驚かれたことがあったが、まさにそれを実感した。
▲5六銀に上手が交換に応じるはずもなく、加藤女流三段は△7六銀。あの銀が4連続着手で、自玉頭まで来てしまった。

第3図以下の指し手。▲6六角△4五歩▲8八銀△6六角▲同歩△3六飛▲7七歩(第4図)

第3図で上手の狙いは△8四香だ。この香は下手がくれたもので、なんでこの香に苦しめられなければならないのかと思う。
私は▲6六角と先逃げしたが、いかにも気が利かない。
加藤女流三段は△4五歩。上手はこれで角を捌けば言うことなしだ。
ここで▲3三角成△同飛▲4五銀は、△8七銀成▲同玉△3二角の王手飛車がある。
まあこうはならないが、8七の地点をケアするに越したことはなく、▲8八銀と上がった。
加藤女流三段は△6六角▲同歩△3六飛。ここで私は▲7七歩。以下△8五銀▲2四飛で下手も指せる……つもりが、加藤女流三段はそんな甘い手は指さなかった。

第4図以下の指し手。△3九飛成▲7六歩△2九竜▲1五飛△3八竜(第5図)

加藤女流三段は△7六銀に目もくれず、ノータイムで△3九飛成! これが鍛えの入った手で、本局一、驚いた。もう加藤女流三段レベルまで来ると、たんに逃げるだけの手は指さないのだ。これは先月の社団戦の△5五同飛~△5六桂に雰囲気は似ているが、△3九飛成のほうがはるかに洗練されている。
私は銀を取ったが、△2九竜で銀桂交換。しかも竜を作られ、何より▲2四飛を阻止されたのが痛い。加藤女流三段が飛車成を優先させたのも、これが目的だったのだ。とするならば、私の▲7六歩では、▲2四飛を先にすべきだった。
▲1五飛は、せめて飛車を働かせようという手。ここで意地悪く△2五歩と指されたら私は指し手に窮したが、加藤女流三段はじっと△3八竜。これはこれで、不気味な手である。

第5図以下の指し手。▲2三角△4六歩▲4八歩△3六歩▲3五飛△3七歩成▲4一角成△4七歩成▲同歩△4九角▲6八金寄△7六角成▲3一飛成△6二金寄(第6図)

このあたりでKur氏の将棋が終わった。この時間帯なので、上手の勝ち。まあそうであろう。
しばし感想戦をやったが、引き続き2局目となった。途中終了となる可能性大だが、客は1時間半みっちり指せるのである。ただこのシステムは個人的に反対で、これではいつまで経っても6面指しだから、進行がスピードアップしない。
ほかの進行は、まあまあ中盤から終盤にかかっているが、私のところがいちばん遅い。私も加藤女流三段が局面を見たら指すようにしているのだが、1回ごとの指し手が少ないのだ。もちろん私の責任である。
第5図でまったく指し手が分からなかった。▲4一角と迷ったが、何となく自陣に利かそうと▲2三角。これは▲4五角成や、▲1二角成~▲1三飛成も狙っている。ちょっと大山康晴十五世名人が指しそうな手にも見えるが、もちろん似て非なるものだ。
△4六歩に私は▲4五飛と回ったが、指を離した瞬間、△3六角があることに気付いた。加藤女流三段はあちらを向いていたので、私はこっそり待ったをする。ああもう、こんな有様なら投げちゃいたい。
▲4八歩の辛抱に△3六歩。今度はこの筋からと金作りか。こうなれば、上手は考える手間が要らない。これはマジで、投了しようかと思った。
まあ、▲3五飛。上手が△3七歩成~△4八とと来たとき、▲3八飛△同とで、一時的にと金をソッポにやれる。先月の社団戦の将棋の森戦で、相手が△3五飛と打ったのと同じ手筋だ。
だが、これで形勢が挽回できたとは露ほども感じない。
加藤女流三段は△4七歩成から△7六角成。今度は玉頭に馬がきてしまった。
私は▲3一飛成。もはや敗勢だが、大駒を2枚成って、多少なりとも見られる局面にはなった。

第6図以下の指し手。▲7七銀△4三馬▲7六歩△8二玉▲5一銀△8四香▲6五歩△4四馬▲6二銀成(第7図)

ここらあたりで、2人目の対局も終わった。今度は下手が勝ったようだ。
私は第6図で▲5一銀と掛けたいのだ。だが銀を渡すのは怖いし、現状でも△7六馬の存在は脅威だ。それで▲7七銀と壁銀を立て直した。飯野愛ちゃん戦でも指した手だ。
だがこちらを向いた加藤女流三段にヒョイと△4三馬と引かれ、またも私はクサッタ。馬の守りが鉄壁で、上手玉に寄り着けなくなってしまったからだ。なかんずく次は、△7四香がある。以下△7七香成▲同桂△7六桂となれば寄り筋だ。
それで▲7六歩と泣きの涙で辛抱をしたのだが、加藤女流三段は落ち着いて△8二玉。とうとう安全地帯に逃げ込まれてしまった。
せめて端歩の交換があれば▲9五歩と突くのだが、本局はダメだ。もうどうにでもせいと▲5一銀と掛けたが、いかにも証文の出し遅れだ。
そして△8四香にまたシビれた。次は△7五桂が必殺である。それを受けても△9五桂があるが、とりあえず▲6五歩と突いた。しかしこれも6六に空間ができ、すこぶる味が悪い。
加藤女流三段は△4四馬と指すだろう。あれっ? だがそれは、こちらにもチャンスがある?
果たして加藤女流三段は△4四馬と指した。ここで▲6二銀成△同金▲4二竜となれば、馬金両取りではないか。
私は▲6二銀成。加藤女流三段は再び感想戦を続けている。こっちを見たら、何も考えず△6二同金と取ってくれよ、と祈った。

(つづく)
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カトモモに教えていただく(前編)

2019-08-21 00:07:00 | 女流棋士の指導対局会
将棋界には2人の「桃子」がいる。ひとりは言わずとしれた中村桃子女流初段。そしてもうひとりは、本年4月に女流棋士デビューした、加藤桃子女流三段である。
その加藤女流三段の指導対局が川口市の大野教室であり、私は申し込んだ。10日(土)の第1部・午前11時の回である。
朝は余裕があったのにのんびりし過ぎて、教室には8分くらい前に入った。加藤女流三段は談笑中で、私は生の彼女を見るのは初めて。当然緊張感も高まった。
大野八一雄七段には先月の社団戦でお会いしたが、W氏とは久しぶりである。どうも、4月27日に飯野愛ちゃんに教えてもらったとき以来となる。以前は毎週のように会っていたが、すっかり縁遠くなってしまった。
さっき「加藤女流三段は今年デビュー」と書いたが、加藤女流三段は奨励会在籍時から女流棋戦で大活躍しており、2011年、16歳で第1期女流王座を獲得したのを皮切りに、マイナビ女子オープン(女王)4期、女流王座戦4期と、実績十分である。奨励会員が参加できる女流棋戦はこの2つだけだから、いかに加藤女流三段の実力が抜きんでていたかが分かる。
ちなみに、加藤女流三段がタイトル戦で敗れた相手は、里見香奈女流五冠と西山朋佳女王(奨励会三段)。つまり、女流棋士は里見女流五冠以外まったく歯が立たなかったわけで、これは女流棋士側が猛省しなければならない。
奨励会初段である加藤女流三段の女流棋士転向にあたり、日本将棋連盟は「女流三段」を授与した。規定では奨励会の段級と女流棋士のそれはリンクするが、加藤女流三段はすでにタイトル8期である。これだけ見れば女流五段に相当するので、その中間を取ったものだろう。
だが個人的には、女流五段を差し上げてもよかったと思う。だって、女流四段への昇段は、タイトル3期である。加藤女流三段が昇段するには、またタイトルを3期獲らなければならないのだろうか?

対局場の洋室では、教室名物のツーショット写真が撮られている。ひととおり終わったあと、対局の用意である。私はいちばん右に座った。現在5面指しで、残る1人、Kur氏の話題になる。彼は角桂落ちや銀落ちなど変則的な手合いが好きで、その筋では有名である。加藤女流三段も興味津々のようだ。
私の対局場所は大盤の近くで、加藤女流三段がこちらに来ると、「9九」側の角が当たりそうだ。将棋盤を少しずらし、危険度はやや緩和された。
さて、手合いである。ふつうの女流棋士なら平手でいいのだが、元奨励会初段、タイトル8期の強豪ときては、ちょっと指しづらい。よって駒を落としてもらいたいが、角では下手が図々しすぎる。では香、となるがこれも微妙である。下手の指し方によっては、香無しが上手の有利に働くことにもなるからだ。
だが加藤女流三段は居飛車党である。不慣れな振り飛車を強要することで、香以上のハンデになると思われた。私は「香」を希望し、対局開始となった。

初手からの指し手。△3四歩▲7六歩△4四歩▲2六歩△3二飛▲2五歩△3三角▲4八銀△4二銀▲6八玉△6二玉▲7八玉△7二銀▲5八金右△7一玉▲1六歩△3五歩▲1五歩△5二金左(第1図)

加藤女流三段は白のワンピースにブルーのフレアスカートで、涼しげである。
香落ちは端を攻める定跡のほかに、相振り飛車という手もある。上手に端攻めをされにくいからだ。だが中央の戦いに持ち込まれたら香落ちのアドバンテージがなくなるし、香落ち定跡も頼りにならなくなる。私は予定通り居飛車で臨んだ。
なお、5人の手合いは私から左に、香、角、飛、飛、角。4人目のTok氏は、私との対局では私の飛車香落ちだったので、よく分からない。ああ、Tok氏が上達して、手合いが上がったのかもしれない。
「指し手はやさしめでお願いします。加藤先生の指し手は厳しいとお聞きしたので」
「そうですよ」
Tok氏の懇願に加藤女流三段が散文的に応え、室内が苦笑の渦に包まれた。
いやしかし、これは大変な上手だ。私は手合いを間違えたようだ。
加藤女流三段は三間飛車に振った。まあそうであろう。私も▲2五歩と応じ、△7一玉までは私相手のみで一気に進んだ。ただその前の△7二銀は、少し考えた。これがさすがの工夫で、3手で玉を納めることで、離れ駒をなくしている。

第1図以下の指し手。▲1四歩△同歩▲同香△3六歩▲2四歩△同歩▲3六歩△1三歩▲同香成△同桂▲1八飛△1二歩(第2図)

このあたりでKur氏がきた。「この前、山根さん(ことみ女流初段)に六枚落ちで負けた」と、早くも怪しいコメントである。加藤女流三段との手合いは「ノーマルに角桂落ちで」と言うから、「どこがノーマルなんだよ」と私がツッコミを入れた。
私は▲1四歩。香落ちならこの手は指さなければならない。なおここで▲9六歩△9四歩の交換を入れるかどうかだが、下手は7七から逃げ道があるので、早急には必要ない。ただし端攻めの味がなくなるので一長一短である。上手は端攻めをされるのもするのもないが、玉の逃げ道が少なくなる。よって、私が勝つとすれば、上手の逃げ道がない「端歩を突かない形」しかないと判断した。
本譜に戻り、▲1四同香に△3六歩。これに▲2四歩が習いある手だ。今回の香落ち希望に際し、私もネット上で定跡を調べたのだが、やはり情報の絶対数が少ない。そんな中、△3六歩に▲2四歩の記述があった。
これを省いて▲3六同歩だと、のちに△1五角のノゾキが嫌らしいらしい。
だがこの辺りの情報は未整理で、やや覚束ない。以前「将棋世界」誌で、プロ対プロの香落ち戦が行われたことがあったが、あの時にしっかり勉強していればよかったと思ったものだ。
加藤女流三段は△2四同歩と穏やかに応じ、△1三歩に▲同香成。この香損も下手としてはよく分からないが、定跡だから仕方がない。
▲1八飛に△1二歩と受けさせたが……。

(つづく)
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4月27日のオプション・大野七段との指導対局(後編)

2019-05-12 00:12:31 | 女流棋士の指導対局会

第7図以下の指し手。▲3九銀△2九飛▲4九金△2八桂成(第8図)

第7図では当然▲8二飛が考えられる。次に▲5三金を見てかなりの迫力だ。だが△4八桂成で駒を剥がされるのも気になり、私は▲3九銀と引いた。
だが△2九飛と追撃され、事の重大さに気付いた。ここで▲8二飛は△3九飛成で、▲5三金に△5七歩が痛打となる。
よって私は▲4九金と寄ったが、その局面を眺めると、△2八桂成がある。対して▲同銀はやはり△5七歩や△6九銀がある。
大野八一雄七段がこちらを向き、△2八桂成。
やはりそう来たか。……この将棋は負けたと思った。

第8図以下の指し手。▲3八金打△同成桂▲同銀△1九飛成▲3六桂△5四金▲8二飛(第9図)

▲3八金打と貴重な金を手放すようではつらい。△同成桂から△1九飛成で一段落。この局面を見ると、銀桂交換の駒損を拒んだがために、却って大損になってしまった。
私は▲3六桂から▲8二飛だが、あまりにも遅かった飛車である。ホントにイヤになった。

第9図以下の指し手。△3五香▲6五桂△3六香▲2九歩△3八香成▲同金△2九竜▲3九歩△3三玉▲8八角△4四桂▲2八香△6五金▲5二飛成△7六桂▲4三桂成△同銀▲4四角△同玉(投了図)
まで、109手で大野七段の勝ち。

平手氏がこのあたりで投了した。さすがに大野七段の勝ち。私も投了したいところだが、さっきまでいい勝負だっただけに投げきれない。
大野七段は△3五香。攻め駒を責めてきた。こちらはもう指す手がなく、以下は考慮もまとまらないまま、意味不明の手を指しただけ。最後はしまらない投了となった。
感想戦。第7図ではやはり、▲8二飛だった。以下△3一銀左▲5三金は、次に▲4二金△同銀▲3三歩△同玉▲2二銀△3二玉▲3三歩(参考図)がある。

しかし上手にも、どこかで△4八桂成▲同金△3九銀などの反撃があり難しい。
また▲8二飛△3八桂成▲同金に△5五金▲同歩△5六桂もある。以下▲2五桂は△4八桂成▲5七玉に△4七成桂(私の発見)の押し売りで上手勝ち。
いずれにしても第7図では▲8二飛の一手で、それで「まだまだ大変な局面」(大野七段)だった。
感想戦を終え、私はうなだれる。W氏が見かねて「飯野さんに勝ったからいいじゃないか」と言ったが、私は勝った将棋は、あまり執着しないのである。

飯野愛女流初段、大野七段の指導対局が終わり、ここから食事会である。参加者は10人で、近くの定食屋へ行った。
テーブルは横に長いが、私は外れのテーブルに座ったので、ほかにあぶれた2人と離島状態になってしまった。ただ、飯野女流初段にはあとで席を替えてもらうことになっている。これで満遍なくファンと話をするのである。
私の向かいの2人は、大野教室・女流棋士対局会の常連となった。
私はカキフライ定食を頼んでいた。ほいかはステーキ丼が多かったようである。
食後に前の2人に話を聞くと、彼らはほかの同様のイベントにも顔を出すという。彼らによると大野教室の料金システムは良心的で、たとえば対局前のツーショット写真は、大野教室は無料だが、有料のところもあるという。その他、なんだかんだで料金を上乗せしていくらしい。
こういう話を聞くと私は、そこまでしてツーショット写真なんか撮りたくないと、ますますヘソを曲げてしまうのである。
一段落して、飯野女流初段が席を移動してきた。私とは無理なく話せる距離になったが、とくに話すこともない。
NHK杯将棋トーナメントは4月から、中村桃子女流初段が司会に加わったが、飯野女流初段にはオファーがなかったのか。それを聞くと、まったくなかったという。もとより飯野女流初段は記譜読み上げのレギュラーだった。本来の仕事の場に戻ったということである。
帰り際、「女流棋士発足45周年記念パーティー」のチケットを購入することにした。だが、飯野女流初段の態度がハッキリしない。積極的に販売するつもりはないようなのだ。でも私も、いつかは購入しなければならなかったことで、この出費は仕方ない。
当日は思いっきり楽しもうと思う。
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4月27日のオプション・大野七段との指導対局(前編)

2019-05-11 00:07:45 | 女流棋士の指導対局会
川口のブックオフには、大山本はなかった。というより、将棋本そのものが少なかった。やはり大山本は、町の古書店で見つけるべきものだろう。
大野教室での飯野愛女流初段との指導対局のあと、大野八一雄七段との指導対局にも申し込んでいた。16時の回からで、4面指しだった。
「大沢さんとはずいぶん久しぶりだねえ。半年くらい経った?」
「1年以上経っていると思います」
前述の通り、指導対局にはすっかりご無沙汰しており、合わせる顔がない。
「飯野さんとの将棋はどうだった?」
「はい、緩めていただきました」
「……」
そこに「大野先生、カタキを取ってください!」
と、彼方の飯野女流初段から懇願が入った。
「よおし!」
と気合を入れる大野七段。アマチュア相手に気合を入れるとは、何だかあべこべである。
手合いは左から、平手、飛車落ち、角落ち(私)、二枚落ちだった。左の平手氏は飯野女流初段に平手を所望した人で、腕に覚えがあるのだろう。
飛車落ち氏は、14時の回で私の右にいた人だ。やはり本局も溜息をつきまくるのだろう。

△七段 大野八一雄(角落ち)
▲一公

初手からの指し手。△6二銀▲7六歩△5四歩▲5六歩△5三銀▲2六歩△4二玉▲2五歩△3二玉▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2五飛(第1図)

私は居飛車で行くとして、作戦はかなり迷った。持久戦で手厚く行くか、浮き飛車で軽快に行くかである。でも持久戦だとジリジリ圧迫されそうなので、ここは急戦で行くことにした。
第1図の▲2五飛が、一公流である。

第1図以下の指し手。△8四歩▲7八金△4二金▲4八銀△4四歩▲3六歩△3四歩▲3七桂△4三金▲6九玉△3三桂▲2六飛△8五歩(第2図)

私の▲4八銀に、大野七段は△4四歩と突いた。この▲2五飛戦法は上手の飛車との交換を目論むものだが、実は右桂をポンポン跳ねて、△4四銀と釘づけにする狙いもある。
今ではコンピューターが早い桂跳ねをやるが、私は前からその手を有力視していた。が、大野七段には私の作戦を見透かされており、△4四歩にその一端が現れていた。
戻って私の▲5六歩、▲4八銀が不急で、代えて▲3六歩なら、2手早く攻撃態勢が敷けた。「角落ちは位負けせず」の格言は、▲2五飛戦法には不要なのだ。この辺の私は、指し手に一貫性がなかった。
△3三桂で、▲2五飛の移動も余儀なくされてしまった。

第2図以下の指し手。▲6八銀△8六歩▲同歩△同飛▲9六歩△8二飛▲8七歩△9四歩▲5九金△5二金▲7七銀(第3図)

△8五歩に▲7七角はやはり一貫性がないのだろう。大野七段にも、あっちこっち欲張らないほうがいい、とアドバイスを受けたことがある。
△8六歩▲同歩△同飛。このあたりが、下手が動くチャンスなのだが、せいぜい▲9六歩くらいしかない。△8二飛には▲8七歩と収め、これでは上手が1歩を持って満足してしまった。
私の▲5九金はこんなものだろう。しかしこのあとどう動いていいものか、まったく構想が立てられなかった。
▲7七銀は次に▲7九角で、あわよくば1筋攻めをするつもりだったが……。

第3図以下の指し手。△2二銀▲6六銀△6四歩▲5五歩△同歩▲同銀△6三金▲6六銀△5四歩▲7九角△7四金(第4図)

△2二銀と備えられ、端攻めに行く気が失せた。私は▲6六銀とし、中央に比重を移す。
▲5五歩から1歩を駒台に乗せ、これはこれでまずまずだと思った。
△7四金は、次に△8五金の狙いだろうか。

第4図以下の指し手。▲7七桂△6二飛▲3五歩△同歩▲同角△3四歩▲5七角△8二飛▲7五銀△5五歩(第5図)

平手氏の将棋は角換わり。平手はこの戦法が全盛だ。
私は▲7七桂と跳ねた。若干形は悪いが、これで上手金の動きをだいぶ制約することができた。
△6二飛にはよほど▲7五歩か▲7五銀としたかったが、これは下手の切り札だ。私は▲3五歩とし、もう1歩を駒台に乗せると同時に、飛車の横利きも通した。この辺り、結構うまく指したんじゃないかと思った。
ただ▲5七角が、結果的にどうだったか。大人しく7九に引く手はあったかもしれない。
△8二飛には、ついに▲7五銀とぶつけた。

第5図以下の指し手。▲5二歩△4二銀▲7九角△5二飛▲5七歩△4五桂▲同桂△同歩▲9七角△7五金▲同歩(第6図)

第5図で▲7四銀△同歩▲7五歩△同歩▲8六飛が利けばうまいが、冷静に△8四歩と応じられると、7六のキズが大きすぎる(そこで▲7五角は、対局中は視野に入っていなかった)。▲7五銀と△7四金は、お互い取ってもらいたいのだ。
私は手筋風に▲5二歩と垂らした。いったん△8二に回った飛車で取れないだろうから、と金は確約と思いきや、△4二銀と引かれて参った。今度は△5二飛から△5六歩の突き出しが厳しい。それで▲7九角と引いたが、これではさっきの▲5七角が途中下車になってしまった。
△5二飛に▲5七歩。こんな歩を打つくらいなら自爆して負けたほうがマシだが、そうも行かない。
△4五桂に▲同桂もシャクに障るが、△3七桂成▲同銀の形も自陣が弱体化する。
ここで▲8三桂を考えたが、9一に成桂を作ってもダメ、が鈴木大介九段の教えである。
よって▲9七角と出た。これは次に▲7四銀△同歩▲6四角があるので△7五金の一手だが、これの取り方が難しい。▲7五同角と取りたいのはヤマヤマだが、飛車が8六に転回できない。そこで▲7五同歩と取り、次の▲8六飛を目指したのだが……。

第6図以下の指し手。△5六歩▲同飛△同飛▲同歩△5八歩▲同玉△3六桂▲5五桂△4四金(第7図)

大野七段の△5六歩をうっかりした。まさか上手から飛車交換を挑んでくるとは思わなかった。
確かに上手の守りは金銀3枚。こちらは駒損はしていないが、▲9七角がまったく働いていない。その一瞬を衝き、上手が強気に来たわけだ。
飛車交換後の△5八歩。中原囲いを崩す手筋で、▲5二歩よりはるかに利いている。やむない▲同玉に△3六桂。気が付けば、下手が大変な将棋になってしまった。
私は▲5五桂を利かしたが、△4四金に怯む。

(つづく)
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3度目の愛(後編)

2019-05-10 00:18:57 | 女流棋士の指導対局会

第5図以下の指し手。▲5六金打△6六角▲7七銀△4六歩▲同金寄△3九銀▲6六銀△2八銀成▲6五銀△3八成銀▲1一馬△4九飛(第6図)

飯野愛女流初段は「私は指導対局の指し手が遅い」と自嘲しているが、どうしてどうして、一手をほぼノータイムで指している。それで瑕疵のない手を続けるのだから、やはりプロは凄いと思う。
私は▲5六金打と受けた。金が重なって気が利かないが、守りを固めておけば後顧の憂いがない。
飯野女流初段は、角を取れ、となおも差し出してきたが、私は壁銀を解消して▲7七銀。
自分では落ち着いた手に思ったが、△3九銀が生じているので、ふつうに▲6六同金と取るべきだったか。ただこれも△6六同歩▲6八歩に△5五桂が嫌味ではあった。
飯野女流初段は△4六歩と叩き、私は本局一の長考で▲同金寄。もちろん「上」もあったが、駒を上擦らせたくなかった。
△3九銀。やはりこの手が来てしまった。結果飛車角交換になったが、モノは考えようで、働きの悪かった飛車が捌けたと考えれば、腹も立たない。
△3八成銀には▲1一馬が待望の手。これは香得よりも、馬が自陣に利いた得のほうがはるかに大きい。
△4九飛に次の手は当然である。

第6図以下の指し手。▲6六馬△1九飛成▲5九香△4八成銀▲同金△7四桂▲同銀△同歩▲5三歩成△同飛▲同香成△7三桂▲6二銀△6四香(第7図)

▲6六馬と引けてだいぶ安堵した。守っては4八に利かし、攻めては端を睨んでいる。
そして△1九飛成には、竜の遮断も兼ねて▲5九香と受けたが、ちょっと震えたか。ここは香を温存し、▲4五桂と活用するべきだった。いずれ上手玉を詰ますことになる時、持駒に香があればだいぶ違うからだ。
2時51分、ここで飛車落ちの実年男性が投了した。上手の手練手管に騙され、思うように攻められなかったようである。感想戦をやった後、2局目が始まった。
△7四桂には▲同銀と取り、△同歩に▲5三歩成。対穴熊ではないので、このと金はすこぶる大きい。
飯野女流初段は△同飛と捨て、△7三桂。最後のうっちゃりを狙っている。
ここで受ける手もあったが、私は攻め合っての一手勝ちと判断し、▲6二銀と打った。
受けても一手一手と見た飯野女流初段は、△6四香と半ば形を作った。

第7図以下の指し手。▲7一角△同金▲同銀不成△同玉▲6二金△8二玉▲7二金(投了図)
まで、97手で一公の勝ち。

右の男性も投了し、感想戦が終わると、2局目に入った。しかし私見だが、この2局目はないほうがいいと思う。これがあるといつまでも6面指しが続いて、他の将棋が捌けない。
第7図から▲7一角。以下は平易な詰みで、▲7二金まで飯野女流初段が投了した。

早速感想戦に入り、焦点は第3図からの▲4四歩に絞られた。ここ、飯野女流初段も当然▲8八角を読んでおり、そこに▲4四歩ときたから混乱したようだ。
ちなみに△4四同金の変化もやったが、▲8八角△5五歩は私の読み。飯野女流初段は△5四金▲3三角成△同桂を示し、これは上手が捌け形、という結論になった。
時刻は3時15分ごろ。ほっとくと感想戦がいつまでも続きそうだから、W氏が制した。私は感想戦はあっさりめなのだが、つい熱が入ってしまった。
いずれにしても、私は初めて納得の行く内容になって、大満足だった。
そして私は再び、ブックオフを探しに行った。
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