一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

半年ぶりの愛(3)

2019-10-25 00:08:47 | 女流棋士の指導対局会

第8図以下の指し手。△――
まで、95手で一公の勝ち。

ここで飯野愛女流初段が投了した。以下△5七歩成としても▲3八玉で詰みはないし、上手玉も受けなしに見える。それでも△5七歩成くらいは指すと思った。
すぐ感想戦に入る。
「あぁー、我慢比べの将棋でしたよね」
と飯野女流初段。確かに、お互い金銀がほとんど駒台に乗らず、私の駒台に唯一乗った銀は、▲3二~▲4三と動いただけだった。「9筋の歩は私が取ってしまって……。
序盤の私の対応がおかしかったかな? どこか間違いました?」
飯野女流初段は晩学ということもあるが、将棋に対して謙虚で、アマに対しても分からない時は分からないと教えを請う。これを私は支持する。
「いえいえ、さすがに完璧でした。こっちは角銀交換している時点でもうダメですよね」
「でも銀を取る手を楽しみにしていたのに逃げられてしまって……」
私たちは急所の局面を作る。手すきの大野八一雄七段が、感想戦に加わってくれた。
第3図からの▲3四歩には△5五歩とする一手だったという。以下▲3三歩成△5三飛▲4四銀(参考A図)。これは私の予定だ。

「角を打ったら?」
「△2六角ですか?」
「うん。△2六角▲5三銀成△3五角▲6三成銀。△同銀▲8三桂に△6二玉で」
「でもそこで▲4三と(参考C図)とやったら……」

「……あれ? そうかこれはダメだね。……じゃ▲4四銀には△5四飛としましょう」
「▲5五銀」
「△同飛」
「エッ!? まあ指導対局だからいいスか。▲同歩」
「△8五歩(参考D図)」

「あ、そうか……」
「▲8五同歩なら△8六歩▲同玉△8八角ですね」
と、これは飯野女流初段。
「うん、これは上手勝ちでしょう。3三のと金もボケてるしね。だから△5五同飛は指導対局じゃなくても指すよ」
やはり私の角切りは無理筋だったのだ。
これで感想戦は終わり。私は夕方の食事会には出席するが、それまで和光市に行かねばならない。
部屋を出ると、飯野女流初段が6月のパーティーの御礼を言いに来てくれた。
「会場でお話ししようと思ったんですけど、見つからなくて……」
と飯野女流初段。
「いえいえ、私は別にいいんです。飯野先生こそ人気者だし、どこ行っても人が集まって大変だったでしょう」
私は飯野女流初段の気遣いに恐縮した。我ながら、ファンランキングの1位に挙げるだけのことはある。

川口から南浦和に行き、武蔵野線に乗り換える。車中ではRadikoでミスDJを聴こうと思ったが、ついついさっきの将棋を考えてしまう。
あれ? 投了の局面で、△8一玉なら詰みがない? 私は桂や香の受けばかり考え、玉を逃げる手をうっかりしていた。下手は次に明快な詰めろがなく、私は考え込んでしまう。
しかも、投了のその前に△5七歩成とくれば、私は▲3八玉と逃げる予定だった。すなわち、「△5七歩成▲3八玉△8一玉(参考E図)」なら、むしろ上手持ちに思える。

参考E図からA▲8二と左△同角▲同と△同玉は上手陣がサッパリして、これは下手が戦意喪失だ。
B▲8二歩△7一玉▲9二と左は詰めろでも何でもないので、△5八とで上手勝勢だ。いや△8三銀とと金を取られても負けだ。
C▲7二と△同玉▲8四歩△8二歩も、下手にもう一押しがない。
あれ? あれれれ?
飯野女流初段には以前も、上手に受けがある局面で投げられたことがあるが、今回も上手が生き延びていたんじゃないか?

和光市の長照寺に着いて、仏家シャベルや木村家べんご志の落語を聞いていても、私はこの局面が脳裏から離れない。噺は面白いのに私は真剣な顔をして、寄席にいるのに寄せを考えている。
(30日につづく)
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半年ぶりの愛(2)

2019-10-24 00:06:22 | 女流棋士の指導対局会

第3図以下の指し手。▲3四歩△3二歩▲3三歩成△同歩▲3二銀△5三飛▲4四銀△5一飛▲3三飛成△6五歩(第4図)

私は飯野愛女流初段を鑑賞しながら指し手を進めたいのだが、とてもその余裕はない。
第3図では黙ってA▲6六銀、強攻でB▲4四銀△同飛▲3三飛成、さらにC▲3四歩がある。
たぶん▲6六銀が正着なのだろうが、ここで一段落しては、下手の駒損がクローズアップされてしまう。
といって▲4四銀は駒損が拡大してしまう。そこで▲3四歩とした。対して△5五歩なら▲3三歩成△5三飛▲4四銀(参考A図)でどうか。この順もパッとしないが、ほかにやりようがない。

飯野女流初段は△3二歩だった。これは▲3三歩成で一応二枚換えである。ただ△3三同歩にA▲6六銀は、上手も△4六歩と捌いてくる。
そこで甚だダサイが、B▲3二銀と打った。以下△5三飛に▲4四銀で、銀を脱出しつつ飛車取り。
さらに▲3三飛成と1歩を取りつつ侵入し、悪いながらも希望が持てる展開になった。

第4図以下の指し手。▲3七桂△8五歩▲4五桂△8六歩▲8八玉△6四角▲8四歩△6二金上▲8三桂△8二玉▲9一桂成△同玉▲8五香(第5図)

第4図の△6五歩は味わい深い。いま強烈な狙いはないが、後に△6四角と据え、△8五歩の攻めを見ている。いかにもプロの手だと感心した。
私は▲5三桂と打ちたいが、これはダサすぎてダメであろう。そこで▲3七桂と跳んだ。これは遊び駒を活用して、落ち着いた手だったと思う。
飯野女流初段は△8六歩と取り込んだ。右銀のない天守閣美濃はこれに弱い。これに▲8六同玉は△8八角がある。私は▲8八玉と引いたが、上手の持駒は頭の丸い角だけなので、まだ大きな脅威ではない。
△6四角に▲8四歩。上手の玉頭攻めを逆用して、これは上手も気味が悪かろう。
次に▲8三歩成△同銀▲6三竜があるから、飯野女流初段は△6二金上。私は▲8三桂と打つ。これは△8二玉で意外に大したことはないが、上手も気持ち悪いところであろう。
私は▲9一桂成から▲8五香。これで決まったようだが……。

第5図以下の指し手。△8七歩成▲同銀△8二歩▲9五歩△7三桂打▲7七桂(第6図)

某B氏の将棋が終わった。さすがに早指しで飛ばしたようだ。
当然感想戦に入るが、ここで5分前後取られる。全体の指導対局は1時間半だから、実は上手も下手もかなりの早指しでないと、全局結着がつかないのだ。
△8七歩成は玉頭の拠点を捨ててもったいないが、▲同銀に△8二歩で受かっている。簡易穴熊で、これはこれで固い。私は▲9五歩と突いたが、持駒が歩だけでは、どのくらいの威力なのか。
そこで飯野女流初段の△7三桂打がさすがで、やはりこの香を取りにきた。
私の▲7七桂は端が薄くなるので指したくないが、黙って△8五桂と跳ばれたら負けだ。
とはいえここでは下手が若干切れ気味。このまま負かされそうな気がした。

第6図以下の指し手。△3一歩▲4三銀成△9五歩▲9三歩△同桂▲9四歩△8五桂▲9三歩成△7七桂成▲同玉△8五桂▲6八玉△7七角▲5七玉(第7図)

第6図で飯野女流初段は△3一歩。咄嗟には意味が分からなかった。
ここで右のTag戦が終了。Tag氏が会心の攻めで、飯野女流初段を投了に追い込んだ。
さらにその右の某A氏の将棋も終わった。意外に私の将棋が長引いている。
局面、私はありがたく▲4三銀成とした。
さて問題は9筋で、この歩はどちらも取りたくない。しかし飯野女流初段は△9五歩。堂々と取られてみると私のほうに手がない。
▲9三歩は手順に△同桂と取られるのでバカバカしいが、次の▲9四歩に期待した。
そして△8五桂に▲9三歩成としたが、その前に▲4二成銀を利かすことも考えた。△6一飛なら明らかに下手の得だが、この成銀は5三に利かしておきたい意味もある。
そこで黙って▲9三歩成とした。いかにも大きなと金だが、私の駒台にはもう何もない。
飯野女流初段は△8五桂から殺到する。しかし私は▲5七玉と逃げて一安心。戻って△7七桂成では、じっと△9六歩(参考B図)がイヤだった。

対してA▲9六同香は△9七桂成▲7八玉△9六成桂▲同銀△9七角成。またB▲9六同銀は△9二歩だ。
ただ△9六歩に黙って▲5三桂成も相当で、上手も自玉頭にと金がいる状態だから、そんな無理もできないのだ。

第7図以下の指し手。△5五歩▲8三桂△同歩▲同歩成△5六歩▲4八玉(第8図)

「ロスタイムに入ります」
とW氏の非情な声。お昼休みもあるから打ち切りはないだろうが、時間が経つのは本当に早い。
ここで上手の指し手がまったく分からなかった。飯野女流初段は△5五歩と突いたが、ありがたい気がした。じゃあ最善手は何かと問われても分からないが。
奥の常連氏も終わったようだ。飯野女流初段の勝ち。
「愛ちゃんにメチャクチャにやられた」
と常連氏がボヤく。しかしその顔は笑っている。私たち将棋ファンは、女流棋士に将棋を教えていただくことが、何よりのよろこびなのだ。
それはいいが、Kur氏も2局目を終えたようなので、私が最後になってしまった。
私は▲8三桂。△8一玉なら▲5五銀がピッタリだ。ただその前に▲4二成銀△6一飛を利かしていたら、下手はいつでも▲6三竜があるから、より明快だった。
あ、そうか! 先の△3一歩▲4三銀成の交換は、この質駒をなくすためだったのだ。
本譜に戻り、飯野女流初段は△8三同歩としたが、私は▲同歩成と2枚目のと金を作り、これはこれで勝てるんじゃないかと思った。
△5六歩に▲4八玉。次に△5七歩成なら▲同金で詰みはないと思うが、かなり王手が続く。それより▲3八玉で、上手に手がないと思った。

(つづく)
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半年ぶりの愛(1)

2019-10-23 12:26:17 | 女流棋士の指導対局会
22日は「即位礼正殿の儀」があり、私は1日家で拝見するつもりだった。しかし大野教室で飯野愛女流初段の指導対局会もあり、迷った末、11時の回に申し込んだ。
また午後からは和光市で「第3回大いちょう寄席」もあり、こちらにも顔を出したい。結局、いつもと変わらぬ休日になりそうだった。
朝、京浜東北線に乗る。昼間に乗ると山手線から京浜東北線に乗り換えねばならないが、朝はそれがないからラクだ。
大野教室に入る。前回お邪魔したのは8月10日の加藤桃子女流三段の回で、その間、誰とも指していない。これでは、趣味が将棋とは言い難い。
飯野女流初段は所定の席につき、記念写真を撮ったりしていた。いまは棋士と写真を撮るのもお金が要る時代だが、大野教室にはこのサービスがあり、うれしい。もっとも私は、それを利用したことは一度もない。女流棋士とツーショットで撮るほど、私は自分に自信がないからだ。
私は参加費を払い、飯野女流初段の色紙を受け取る(2,000円)。「愛」としたためてあり、この文字は私が事前にリクエストしたもの。細身の筆で書かれたそれは流麗で、字の美しい女性は、それだけで評価が3割アップする。
私は空いている席に座ったが、知り合いの常連氏が怪訝な顔をする。どうも彼の席に座ってしまったようだ。
奥の席が空いており、そこに移動する。まだツーショット撮影は続いている。飯野女流初段はいつもの美形で、小顔だ。先日のNHK杯では髪型を変えたぽかったが、実際はどうなのだろう。
撮影が一段落したが、大野七段が私にもツーショットを促した。固辞すると、飯野女流初段がじきじきに私の隣に来てくれた。大野七段がスマホで撮ったが、それは大野七段のものなので、私はあまり関係なかった。ともあれ、飯野女流初段のお気遣いに感謝した。
さて、対局である。飯野女流初段に対局をお願いするのは4月27日以来。6月16日の女流棋士発足45年記念パーティーでもお話はしなかったので、丸々半年ぶりだ。一将棋ファンが特定の女流棋士と接することは、それだけ難しいということだ。
今回も6面指しで対局開始となった。

初手からの指し手。▲7六歩△3四歩▲9六歩△9四歩▲2六歩△4四歩▲4八銀△4二飛▲5六歩△6二玉▲6八玉△7二銀▲7八玉△7一玉▲5八金右△3二銀▲5七銀△3二銀(第1図)

▲7六歩△3四歩に、▲9六歩。1%くらい△8四歩を期待したが、それなら私は飛車を振るつもりだった。本譜は△9四歩だったので、居飛車を明示した。
各自の手合いは私から右にTag氏・角、某A氏・飛香、Kur氏・金桂、某B氏・不明、常連氏・香だった。Kur氏は相変わらず変則的な手合いで、以前は「銀桂」もあった。「でも銀桂の手合い期間は短かったよねえ」とW氏がまぜっ返し、マニアックな会話に私はついていけない。
某B氏はこれから出張で、12時10分にはここを出なければならないという。それでも寸暇を割いて女流棋士に会いにくる。将棋ファンはありがたきかな。
さて私の将棋は、1手指すごとに飯野女流初段は隣に移ってしまうので、何となく進行が遅くなっている。まあ、やがてほかのみんなに追い付くだろう。
▲5七銀が趣向の一手。いつもは急戦を狙うのだが、今日は別の作戦を考えていた。

第1図以下の指し手。▲8六歩△4三銀▲8七玉△6四歩▲7八銀△7四歩▲2五歩△3三角▲3六歩△8四歩▲4六銀△3二飛▲3八飛(第2図)

私は▲8六歩。天守閣美濃の狙いで、温故知新で指してみたくなった。
と、Kur氏の将棋で異変が起こった。この手合いに指し慣れない飯野女流初段がポカをやったらしく、しばらく唸っていた飯野女流初段が、投了してしまったのだ。
時に11時14分。「もう1回お願いします!」と、2局目の開始となった。
和やかな雰囲気なので、おしゃべりが入る。坂東香菜子女流初段の話題が出る。坂東女流初段は飯野健二八段門下だったそう。飯野門下は美形揃いではないか。
ただし飯野女流初段がプロになった時は、板東女流初段はもう休場していたので、交流はなかったようだ。坂東女流初段が現役を続けていればイベントに引っ張りだこだったのに、引退は惜しいことだった。
大野七段が
「○○はああして、××はこうして、△5三銀と上がるのがいいと思います」
と、飯野女流初段にアドバイスする。大野七段はこの時間指導対局がなく、手スキだったのだ。プロがプロに肩入れしたんじゃアマの立場がないが、確かに金桂落ちは指し方が分からない。
私は▲3六歩と突く。四枚美濃にはせず、右銀は攻めに繰り出す予定だ。
飯野女流初段は△3二飛。△7一玉形での待機もそうだが、飯野女流初段の術中に陥っている気がした。

第2図以下の指し手。△4五歩▲3三角成△同桂▲5五銀△6三金▲2四歩△同歩▲3五歩△同歩▲2一角△4二飛▲4三角成△同飛▲3五飛△5四歩(第3図)

飯野女流初段は△4五歩と反発した。私が逆を持ったら指せない手で、これが振り飛車党の手といえる。
私は▲3三角成△同桂に▲5五銀。こう出られるのがミソで、この銀が生きているうちに一仕事したい。
とはいえここで下手の攻め方が分からなかった。▲2八飛と寄り、△5四歩なら▲6四銀△同金▲5三角を考えたが、これは独善であろう。ああ、時間があればいくらでも考えたい。
飯野女流初段がこちらを向いたので▲2四歩と突いた。が、これは微妙。上手に1歩を渡すし、△2五桂も生じたからだ。
そしてこうなった以上、私は攻めるしかない。若干無理と思ったが、駒損の攻めを敢行した。
△5四歩にはどうするか。

(つづく)
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詰まして勝つ

2019-10-20 00:05:33 | 女流棋士の指導対局会
2016年11月23日、大野教室の特別企画で、「女流棋士の指導対局会」が始まった。同企画は毎月続き、私は翌2017年3月11日に初めて指導を受けた。相手は渡部愛女流初段だった。以後、7名の女流棋士から指導を受けたが、女流棋士はおしなべて緩めるのがうまく、私も何度か勝たせてもらっている。
ことに、上手が下手に詰めろを掛けて来たところで上手玉を詰ますのが心地よい。今日はその場面を再掲しよう。

まずは2017年6月10日の渡部女流初段戦。A図は渡部女流初段が△6八竜と香を取った局面。下手の持駒は豊富なので、これは詰まさなければならない。

A図以下の指し手。▲8四桂△8二玉▲7二飛△同金▲同桂成△同玉▲8四桂△同歩▲8三銀△同玉▲8四馬△同玉▲7五金△8三玉▲8四香(A投了図)
まで、一公の勝ち。

桂馬はあると便利な駒で、どんなに持駒があっても、A図で桂馬がなければ全然詰まない。
本譜は意外と簡単な詰み。

B図は2017年12月9日の中村真梨花女流三段戦。▲7四桂の王手に△9二玉と逃げた局面である。

この前に「▲7三桂成△同銀上▲7四桂△9二玉」の4手が入っているのだが、この時点では上手玉に詰みがあるとは思わなかった。
どうも自陣に思わしい受けがなく、仕方なく詰ますことを考えたら、奇跡的な詰みが見えたのである。

B図以下の指し手。▲8三銀△同玉▲7二銀△同玉▲8二金△6一玉▲5一香成△同玉▲5二歩△同玉▲4二飛△5一玉▲5二歩(B投了図)
まで、一公の勝ち。

終局後、中村女流三段が「詰みがあったんですね」と放心したのが印象に残っている。大野教室の女流棋士指導対局会で、最も印象に残っている将棋である。

C図は2018年3月31日、飯野愛女流1級との一戦。まずは詰み手順をご覧いただく。

C図以下の指し手。△7二同玉▲6二香成△同玉▲6三銀△5三玉▲5四銀上(C投了図)
まで、一公の勝ち。

▲7二金は詰ましにいったのではない。△5二玉なら詰まなかったのだが、飯野女流1級はヒョイと△7二同玉と取ってしまった。以下は▲6五銀が働いて、詰みである。
指導対局では時間の関係で上手がほとんど考えないので、こういう事態はまま起こる。
なお飯野女流1級はこの翌日、女流初段に昇段した。

D図は2018年9月30日、山根ことみ女流初段との一戦。

D図以下の指し手。▲8三香成△同銀▲同馬△同玉▲7五桂△7二玉▲6三銀△同金▲8三銀△6二玉▲6三桂成△5一玉▲3一飛△4一香▲3三角(D投了図)
まで、一公の勝ち。

山根女流初段は先日の白瀧あゆみ杯で、加藤桃子女流三段を破って優勝した。YAMADA女流チャレンジ杯に続いての優勝である。
自分が勝たせていただいた先生が活躍するのは嬉しいものである。

E図は2019年4月27日、飯野女流初段との一戦。

E図以下の指し手。▲7一角△同金▲同銀不成△同玉▲6二金△8二玉▲7二金(E投了図)
まで、一公の勝ち。

これは平易な詰みだった。

F図は2019年8月10日、加藤女流三段との香落ち戦。元奨励会初段には、とても平手で太刀打ちできないと判断し、異例の駒落ち戦となった。
将棋は私がつねに非勢だったが、加藤女流三段の見落としもあって逆転した。

F図以下の指し手。▲7一銀△同玉▲6二竜△同玉▲5一角△7一玉▲6二金△8二玉▲7二金△同玉▲6四桂△同歩▲6二角成(F投了図)
まで、一公の勝ち。

別の詰まし方もあったが、本譜は加藤女流三段が「綺麗な詰みですね」とつぶやいてくれた。

やはり即詰みは気分がいい。その意味で、大きな後悔があるのが次の一局である。
2017年11月23日、憧れの室谷由紀女流二段に教えていただいた一局。終盤で私が優勢になったのだが決め手を欠き紛れた。しかし私が残していたようで、最後は私の玉に詰みがなく、室谷女流二段が投げてくれた。
しかし私は途中で大野八一雄七段から、「詰みがあるときは詰まさなきゃ」とつぶやかれていた。

G図で私は▲5二桂成△同玉▲2五角(王手竜)と指したが、緩手。ここは▲5四桂(G参考図)が好手で、綺麗に詰んでいた。

この手順で終わっていたら、室谷女流二段の私を見る目が変わったと思う。
ところが室谷女流二段はこの4ヶ月後電撃結婚し、名字も変えてしまった。谷口女流二段は私のファンランキングから消え、この将棋も意味がなくなってしまった。

以上、ここまで12局指して、私の8勝4敗(●○●●●○○○○○○○)である。求職中に白星が集まるとは、何の因果か。
現在も女流棋士の指導対局会は毎月続いており、素晴らしい。
そして22日(火・祝)は、大野教室で飯野女流初段の指導対局会がある。当日は家で即位の礼を拝見するつもりだったが、飯野女流初段の魅力のほうが優った。つまり参加させていただく。
当日はいい将棋を指したいと思う。
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カトモモに教えていただく(後編)

2019-08-23 00:31:40 | 女流棋士の指導対局会

第7図以下の指し手。△6二同金▲4二竜△6六桂▲8八玉(第8図)

加藤桃子女流三段がこちらに向き直り、すぐに△6二同金。私は▲4二竜と指す。
「そんな手がありましたか」
と加藤女流三段が絶句した。やはり見落としていたのだ。まあ▲6二銀成のところで気づいても、▲7二成銀が王手になるから、△6二同金▲4二竜は実現する。
ただこうなったらこうなったで、加藤女流三段は突撃してくるだろう。△5二桂なら被害は最少に抑えられるが、加藤女流三段がそんな愚手を指すはずがない。果たして加藤女流三段は、△6六桂ときた。
これには▲8八玉が読み筋だったが、▲6六同銀もあるか。だが△6六同馬▲6二竜△9九馬は下手が負けだろう。また▲6七玉は、△5八銀以下、相当怖い思いをする。
このわずかな逡巡に、加藤女流三段はあちらを向いた。3局目が終わり、Tok氏が勝ったようだ。
「だいぶ緩めてもらいましたか? なんか途中から、ずいぶん指し手がやさしくなった気がしたんですが……」
と謙遜している。加藤女流三段は笑って答えない。相当「天使モード」が入ったようだ。
W氏が、「残り時間5分です」と散文的に告げる。規定では、5分前に全対局終了だが、次はお昼休みということもあり、多少のアディショナルタイムは作ってくれるだろう。
私は予定通り▲8八玉と寄った。

第8図以下の指し手。△7八銀▲同金上△同桂成▲同玉△7七馬▲同玉(第9図)

まだ加藤女流三段の感想戦は続いている。私は前のめりになって考える。背後に大野八一雄七段の気配があったが、よく分からない。局面、ここで△5八銀がイヤなのだ。▲6二竜は△6九銀成で上手勝ち。下手は金を何枚持とうが、銀がなければ詰めろがかからない。
よって△5八銀には▲7九金と寄るが、△5九銀不成(参考A図)と突っ込まれてどうか。これは下手に勝ちがないように思われた。

加藤女流三段の指し手は△7八銀。これでも寄るのか?
▲同金上△同桂成▲同玉に、間髪入れず△7七馬! ここは△5八金(参考B図)もあるから意外だった。ああ、これは指導対局特有のやつだと思った。成算はないが時間もないので、結着をつけにきたのだ。ただしこれは下手にも勝機があり、正しく指せば下手が勝つ。実際私は渡部愛女流三段戦で、このパターンで緩めてもらったことがある。

私は▲7七同玉と取った。

第9図以下の指し手。△8七香成▲同玉△6八竜(第10図=仮想図)

ここで4局目の指導対局が終わり、やはり下手勝ち。それにしても、手練れの加藤女流三段に、こんなに下手が勝つものなのか? 何か忖度が入っているのだろうか。
局面、ここで△8七香成▲同玉△6八竜を仮想図として考える。ここで上手玉に即詰みがあれば話は早い。そして▲7一銀△同玉▲6二竜△同玉▲7四桂△同歩▲5一角△7一玉▲6二金△8二玉▲7二金△同玉▲6三馬△同玉▲6四香△5四玉▲4五銀打△4三玉▲3三金△5二玉▲4二金(参考C図)で詰め上げた。

だがよく見ると、▲7四桂捨てはいらない。それと、あまり綺麗な詰まし方に見えない。もう少しスッキリ詰む手順はないか?
加藤女流三段は向き直って、△8七香成。ここ△6一金打とする手は、指導対局ではない。
加藤女流三段は▲6七玉を読んでいたのか、▲同玉に一瞬手を止め、△6八竜と金を取った。

第10図以下の指し手。▲7一銀△同玉▲6二竜△同玉▲5一角△7一玉▲6二金△8二玉▲7二金△同玉▲6四桂△同歩▲6二角成(投了図)
まで、100手で一公の勝ち。

私は▲7一銀から、別手順で詰ました。▲6二角成に加藤女流三段が投了。
「綺麗な詰みですね」
「銀が入れば詰むと思ったんですが」
実際は角までいただいたのが大きかった。そして端歩の突きあいがなかったことが、私に幸いした。

「久しぶりに香落ちを指したから懐かしかった……。中盤までうまくいったと思ったんですけど……。△3六歩がよくなかった。▲3五飛で△3八竜が釘付けにされてしまって」
と加藤女流三段。
「まあ指導対局ですから」
「(序盤の)△7六銀のところ、角を上げるのかと思いました」
「? 角を(6六に)上がりましたが」
「イエ、角を差し上げる定跡があるんです」
「?」

第3図で私は▲6六角と上がったが、▲8六歩があるという。上手は△8七香だが、▲7七歩△8八香成▲同銀(参考D図)で、この後7六の銀を取れるという寸法だ。

「だからこの定跡をご存知なのかなと思って」
「イエイエ知りません。だけどこの香、こちらがくれてやった香ですよね。これを取り返したところで、角銀交換の駒損ですよね。これで下手がいいんでしょうか?」
調べてみると、以下の順は上手十分だった。
むろん本譜の順も下手が負けのはずで、一案で、第8図での△5八銀を聞いてみた。
「それは▲7九金で」
「私もそれは指すつもりでしたが、△5九銀不成とされて、指す手が分かりませんでした」
「ああ……」
もう時間も過ぎているので、感想戦はこれで終わりとなった。
無職はもう帰るのみ。大野七段に結果を聞かれ、「緩めてもらいました」と報告した。「でも香落ちでしたから」
「それでも大したもんですよ」
W氏とも軽く話をした。
「職業訓練所とか通ったらどう?」
「ありがとう。もう自分がアホすぎて、将棋を指す気力もないよ」
加藤女流三段はさすがに強く、羽生善治九段ではないが、私が勝ちと思ったのは、終盤加藤女流三段が△6八竜と指したときだった。いつも書いていることだが、上手は駒落ちの6面指しで、ほぼノータイム指し。それで下手を掌の上で転がすのだからさすがである。
今回は時間オーバーまで付き合ってくださった、加藤女流三段に感謝いたします。

帰宅後、参考A図を考える。△5九銀不成以下、▲6九金打△6八銀成▲同金直(参考E図)でどうか。ここで△5八金なら▲6二竜として、今度は持駒に銀があるから下手勝ち。

また参考B図の△5八金には、▲同金△同竜▲6八金で受かっているようだが、△8八金(参考F図)の鬼手があり、以下即詰み。▲6八金を▲6八銀打や▲6八桂に代えても、やはり△8八金から詰む。

ゆえに下手は△5八金のとき▲4四竜と馬を取り、これで逃げ切っていると思うが、精密な読みを要求される。私の棋力では勝てたかどうか。
あらためて、この将棋をよく勝ったと思った。
(おわり)
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