前方を見ると、浴衣姿の女流棋士が二人、エスカレーターを昇っていた。私はフラフラとその後についていく。女流棋士は2階で控室?に戻ったが、私はそのまま階上に向かった。
4階に着くと、駒師と思しき人が談笑していた。私はホールに入る。
おお! 左手では、甲斐智美女流五段と香川愛生女流三段の特選対局が行われていた。解説は阿久津主税八段、聞き手は貞升南女流初段である。そうかそうか、このフェスティバルの「目玉」が今一つ分からなかったのだが、これが目玉だったのだ。私は見落としていた。
右手では、例のサマー将棋大会が行われていた。けっこうな人数が参戦している。女流棋士の対局も拝見したいが、今は将棋を指したい思いが勝っている。それで、将棋大会に臨んだ。
受付をすると、99番の手合いカードがもらえた。早速対局がつく。相手は若者で、振ってもらって私の先手となった。
▲2六歩△3四歩▲7六歩△4二飛。ここで私は▲6六歩と指したが、これが一公流だ。
あわよくば▲6五歩と突くネライで、先月の社団戦でこの構想がバカにうまくいったので、二匹目のドジョウを狙っている。
しかし後手氏は△7二玉形のまま△6四歩、さらに△7四歩と突いた。さすがにこの形の急所を熟知している。
私は▲6八銀上と中央を厚くしたが、進展に困って▲8六歩~▲8七玉~▲7八金と組む。しかしこれでは形がいびつで、全然自信はなかった。
私は4筋から動くが、堅実に受けられて無効。▲2八飛にも△2二飛と受けられて、先手に手がないように見えるが…。
第1図以下の指し手。▲6五歩△8八角成▲同玉△6五桂▲6六銀△4六歩▲5五歩△4三銀▲1一角△3二飛▲2四歩△同歩▲同飛△4七歩成▲2一飛成△4四歩▲4五歩△5八と▲4四歩△6八と
▲同金引△4八角▲6七歩(第2図)
公開対局のほうは、勝者予想クイズがあったらしい。ただし投函は午後6時までだった。どうも今日の私はことごとくタイミングが悪い。
私は▲6五歩と突いた。模様は先手が悪いが、後手の1一の地点に弱点を見たのである。
△4六歩の突き出しに▲5五歩を利かし、▲1一角。△1二香形の弱点を衝いた。
▲2一飛成として、次のネライは▲4四歩。それを受けた△4四歩には、▲4五歩とこじあけにいった。
後手氏もと金を活用し、△6八と。これに▲同金寄ならハナレ駒はなくなるが、玉が孤立する。よって、▲同金引と取った。
△4八角に▲6七歩と受ける。ここで後手氏の次の手が意外だった。
第2図以下の指し手。――
まで、一公の勝ち。
何と、後手氏は投了してしまった。私は△5七銀を読んでいて、▲同銀△同桂成▲同金△同角成▲4三歩成△6九銀…とこうはならないが、まあ△5七銀には手抜きで▲4三歩成か、などと考えていた。…それにしても投了とは。
「投了は早いでしょう」
「でも▲4三歩成が早いですから。この局面はもうダメです」
「……」
何だか早投げのお株を奪われた感じで、全然勝った気がしなかった。
初戦を負けたら熊倉紫野女流初段のトークショーを聴きに行くことも候補にあったのだが、勝てばもう一局指したくなる。私は景品がほしいのだ。
2局目も青年と。振り駒で後手になった。
横歩取り模様に進んだが、先手氏は飛車先の歩を交換せずに、▲2二角成ときた。先手番の利を放棄し、ネライが分からない。
▲1五歩と突き越した。なるほど、先手番で右玉をやろうとしているな、とピンときた。
しかしそれを止める手段はなく、先手氏は果たして右玉に構えた。
私は先月の対植山悦行七段戦を思い出して駒組を進めるが、そううまくはいかない。
第1図以下の指し手。▲8三歩△同飛▲3五歩△同歩▲3四歩△4二銀▲1四歩△同歩▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△8八歩▲7七桂△8九歩成▲5五銀△同銀▲同歩△3六歩▲2五桂△9九と
▲3三銀△同桂▲同歩成△同銀▲同桂成△同金▲3四歩△同金▲6一角(第2図)
先手氏は▲8三歩。△同飛に▲3五歩~▲3四歩とした。取れば▲6一角の両取りで、これが先手氏のネライだったか。
もちろんこの歩は取れず、△4二銀。先手氏は飛車先の歩を交換し、私は8筋にと金を作った。
△3六歩は、▲同銀と取れば△5六角だが、こういうミエミエの手はよくないものだ。幸便に▲2五桂と跳ばれ、私は△3五香の狙いで△9九とと香を補充したが、もっと自陣をよく見るべきだった。
▲3三銀! が強烈な打ち込みで、後手が相当まずい形勢になっているのに愕然とした。
▲6一角と、結局この手が実現した。ただ何となく、この手はありがたい気がした。もう飛車を取っている状況ではないからである。
(つづく)
4階に着くと、駒師と思しき人が談笑していた。私はホールに入る。
おお! 左手では、甲斐智美女流五段と香川愛生女流三段の特選対局が行われていた。解説は阿久津主税八段、聞き手は貞升南女流初段である。そうかそうか、このフェスティバルの「目玉」が今一つ分からなかったのだが、これが目玉だったのだ。私は見落としていた。
右手では、例のサマー将棋大会が行われていた。けっこうな人数が参戦している。女流棋士の対局も拝見したいが、今は将棋を指したい思いが勝っている。それで、将棋大会に臨んだ。
受付をすると、99番の手合いカードがもらえた。早速対局がつく。相手は若者で、振ってもらって私の先手となった。
▲2六歩△3四歩▲7六歩△4二飛。ここで私は▲6六歩と指したが、これが一公流だ。
あわよくば▲6五歩と突くネライで、先月の社団戦でこの構想がバカにうまくいったので、二匹目のドジョウを狙っている。
しかし後手氏は△7二玉形のまま△6四歩、さらに△7四歩と突いた。さすがにこの形の急所を熟知している。
私は▲6八銀上と中央を厚くしたが、進展に困って▲8六歩~▲8七玉~▲7八金と組む。しかしこれでは形がいびつで、全然自信はなかった。
私は4筋から動くが、堅実に受けられて無効。▲2八飛にも△2二飛と受けられて、先手に手がないように見えるが…。
第1図以下の指し手。▲6五歩△8八角成▲同玉△6五桂▲6六銀△4六歩▲5五歩△4三銀▲1一角△3二飛▲2四歩△同歩▲同飛△4七歩成▲2一飛成△4四歩▲4五歩△5八と▲4四歩△6八と
▲同金引△4八角▲6七歩(第2図)
公開対局のほうは、勝者予想クイズがあったらしい。ただし投函は午後6時までだった。どうも今日の私はことごとくタイミングが悪い。
私は▲6五歩と突いた。模様は先手が悪いが、後手の1一の地点に弱点を見たのである。
△4六歩の突き出しに▲5五歩を利かし、▲1一角。△1二香形の弱点を衝いた。
▲2一飛成として、次のネライは▲4四歩。それを受けた△4四歩には、▲4五歩とこじあけにいった。
後手氏もと金を活用し、△6八と。これに▲同金寄ならハナレ駒はなくなるが、玉が孤立する。よって、▲同金引と取った。
△4八角に▲6七歩と受ける。ここで後手氏の次の手が意外だった。
第2図以下の指し手。――
まで、一公の勝ち。
何と、後手氏は投了してしまった。私は△5七銀を読んでいて、▲同銀△同桂成▲同金△同角成▲4三歩成△6九銀…とこうはならないが、まあ△5七銀には手抜きで▲4三歩成か、などと考えていた。…それにしても投了とは。
「投了は早いでしょう」
「でも▲4三歩成が早いですから。この局面はもうダメです」
「……」
何だか早投げのお株を奪われた感じで、全然勝った気がしなかった。
初戦を負けたら熊倉紫野女流初段のトークショーを聴きに行くことも候補にあったのだが、勝てばもう一局指したくなる。私は景品がほしいのだ。
2局目も青年と。振り駒で後手になった。
横歩取り模様に進んだが、先手氏は飛車先の歩を交換せずに、▲2二角成ときた。先手番の利を放棄し、ネライが分からない。
▲1五歩と突き越した。なるほど、先手番で右玉をやろうとしているな、とピンときた。
しかしそれを止める手段はなく、先手氏は果たして右玉に構えた。
私は先月の対植山悦行七段戦を思い出して駒組を進めるが、そううまくはいかない。
第1図以下の指し手。▲8三歩△同飛▲3五歩△同歩▲3四歩△4二銀▲1四歩△同歩▲2四歩△同歩▲同飛△2三歩▲2九飛△8八歩▲7七桂△8九歩成▲5五銀△同銀▲同歩△3六歩▲2五桂△9九と
▲3三銀△同桂▲同歩成△同銀▲同桂成△同金▲3四歩△同金▲6一角(第2図)
先手氏は▲8三歩。△同飛に▲3五歩~▲3四歩とした。取れば▲6一角の両取りで、これが先手氏のネライだったか。
もちろんこの歩は取れず、△4二銀。先手氏は飛車先の歩を交換し、私は8筋にと金を作った。
△3六歩は、▲同銀と取れば△5六角だが、こういうミエミエの手はよくないものだ。幸便に▲2五桂と跳ばれ、私は△3五香の狙いで△9九とと香を補充したが、もっと自陣をよく見るべきだった。
▲3三銀! が強烈な打ち込みで、後手が相当まずい形勢になっているのに愕然とした。
▲6一角と、結局この手が実現した。ただ何となく、この手はありがたい気がした。もう飛車を取っている状況ではないからである。
(つづく)