一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

飛車を切る(第35期竜王戦第3局)

2022-11-07 22:44:43 | 男性棋戦
10月28日・29日に第35期竜王戦第3局が行われた。ここまで藤井聡太竜王、広瀬章人八段とも1勝。藤井竜王には余裕があるが、広瀬八段は大天才相手に負けを先行させるわけにはいかず、本局はカド番に近かった。
第3局は相掛かりになった。ただ、角換わりが相掛かりに変わっただけの話で、私にとっては難解なことに変わりはない。
将棋は広瀬八段がうまく指し、封じ手の時点では有利だったらしい。ただこれもAI上の話であって、私には形勢の良し悪しはまったく分からなかった。
しかしそこから広瀬八段が優位を拡げ、相当に有望な局面もあったようだ。
91手目、広瀬八段は飛車取りに角を打つ。それに藤井竜王がその飛車を、銀のほうで取ってくれ! と、銀にぶつけたのが好手だったらしい。
あれは久保利明九段だったか、飛車を切るときのタイミングは、飛車取りと当てられたときがベスト、と語っていた。その心は、飛車取りと打った駒が一瞬スカタンになるからで、半手得をしたイメージになる。
そして振り飛車党は飛車を切るのが好きだ。久保九段はもちろんだが、中田功八段も、「飛車は切るためにある」と語っている。鈴木大介九段もそうである。
そして藤井竜王にもその癖がある。本局のこの手は飛車を切るというより押し売りだが、藤井竜王にには飛車を捨てるイメージがあるのだ。
ちなみに「飛車を切る」は、第61期王位戦第4局・木村一基王位戦の「△8七同飛成」、「飛車を捨てる」は、第31期竜王戦5組決勝・石田直裕五段戦の「△7七同飛成」が浮かぶ。藤井竜王は純粋な居飛車党だが、振り飛車の魂も持ち合わせているのでは、とも思うのだ。
実戦はこの手を境に藤井竜王が有利になり、以降は藤井竜王が快調に攻め、結果的には快勝となった。
あー、これで広瀬八段の1勝2敗である。藤井竜王相手になかなか有利な局面は築けないから、そうなった将棋は絶対に取らないといけない。それを1勝2敗ではあべこべである。
実はこの感覚、私も大野教室の指導対局などでさんざん経験してきた。弱者が強者に優位に立っても、「勝ち切れない」のとよく似ている。広瀬八段もさぞもどかしかったに違いない(広瀬八段が弱者というわけではもちろんない。念のため)。
いっぽうの藤井竜王としては、3連敗してもおかしくなかったところ(と本人は本気で思っているはず)を、2勝1敗は望外の成績である。そして今後は藤井竜王も体勢を立て直してくるだろうから、相当に勝利が期待できる。すなわち、防衛濃厚である。
かつての大山康晴名人、中原誠名人、羽生善治四冠がそうだったが、苦戦のシリーズがあっても、最終的に防衛してしまうのが時の第一人者だ。
広瀬八段には意地を見せてほしいが、どうなるか。第4局はあす8日から。
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