一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

湯川夫妻の金婚式パーティーに出席する・B面(中編)

2023-07-10 23:47:51 | 将棋ペンクラブ
なぜか、ということもないが、関西方面から来京とは、大変なことである。それだけ湯川夫妻をお祝いしたかったのだろうし、またそうさせる人望が、湯川夫妻にはある。
「きょうご祝儀持ってきたんだよね」
私がA氏に言うと、A氏は「湯川さん、ご祝儀はもらわないんじゃないかな」。
私は不満に思いつつも再び受付に向かう。その途中で恵子さんに会ったが、あまり反応はなかった。やはり私がハガキを出さなかったのがマズかったか。
受付を見ると、まだ地元のおじちゃんおばちゃんらがいる。確かに私が余計なことをすると、かえって湯川夫妻に気を遣わせてしまう。もう、今回のご祝儀は保留とした。
開演の前にしばし談笑である。A氏と茂山氏は前日から乗り込んでいたという。というのも、湯川氏と詰将棋のスペシャリスト・若島正氏の対談があり、ふたりはそれに同席していたという。
と同時に、茂山氏は今回のレポートを湯川氏から依頼されたそうだ。もとは私が依頼されていたから私はショックを隠せないが、そもそも私は出席の意思を示していない。あれほど湯川氏に懇願されたのに、私はそれを無視した形になった。責任者としては、ほかに執筆を依頼するのが当然である。私は改めて、大変な不義理をしてしまったわけだ。
Kan氏とは、次回社団戦の出欠確認。私は自身の意思が通せず、無念の欠席となる。こんな、週末も自由にならない環境とは、早くオサラバしたい。だけどまたプータローになる覚悟もせねばならず、なかなかその決断ができない。私の人生、毎年毎年狂いすぎて、正常の針が真反対に行ってしまった。
その後も、将棋ペンクラブ幹事のM氏、元アマ竜王の金子タカシ氏が見えた。先ほどは美馬和夫氏の姿もあったし、来るべく人が来ていると思う。
ちなみにプロ棋士の姿はないが、湯川氏は招待状を送らなかったそうだ。それをやっちゃうとキリがないからだ。
さて私も一応、やることはやろうと思う。今回のやりとりを、すべて録音しておくのだ。それをレポート執筆の際の参考にする。いつもメモを取っていたが、誌面に活字になることを考えると、いい加減なことは書けない。
……あ、いや、今回はレポート執筆の任を解かれていたのだった。
だが、そのレコーダーが我がスマホにあるかどうか、分からない。それをA氏に言うと、「今どきのスマホなら常備しているはず」と太鼓判を押す。
それで探してみると、それらしきものがあった。ほどなく品のいい女性が登場したので、私はレコーダーのボタンをタッチした。ちゃんと動き、これで録音は大丈夫だ。
そしてその女性が、なんと湯川夫妻の娘さんだった。私は夫妻に娘さんがいたことすら知らなかった。
しかし、あの鬼瓦から、あんな品のいい女性が生まれるだろうか。こりゃ、オフクロさん似だなと思った。
いよいよ「第1回 金婚寄席」の始まりである。湯川夫妻が登場し、正面に座る。主役の登場に、盛大な拍手が沸き起こる。
長照寺住職・寺本俊篤氏が袖から登場し、般若心経の読経となる。プログラムには般若心経が添付されており、これを私たちも読むらしかった。
「かんじ~ざいぼ~さつ、ぎょ~じんはんにゃ~は~ら~み~た~じ~……」
私は参加しなかったが、強制されたら「ウ~ウ~ウ~」とでも読み上げるしかないか。
読経を終えると、俊篤氏が
「読経をするときは、正面にご本尊を配するのですが、本日は湯川夫妻をご本尊に見立てて……」
と、みなを笑わせる。お寺には法要のイメージがあるが、江戸時代までは芸事の向上に使われていた実績もあるという。その意味で、お寺で落語や詩吟をやるのは理に適っているのだという。
今回は湯川氏以下3名が落語、恵子さん以下3名が詩吟を披露し、その後宴会に移る。
まずは湯川氏の落語である。演目は「厩家事」。
出囃子の三味線はすずめさん、太鼓はA氏が務める。湯川氏、トリのような貫禄で登場である。
「このたび、金婚寄席をやることになりまして……第1回」
私たちはドッと笑う。「当初は30人くらいのお客様を想定していたんですが、皆さんが知り合いをお連れになって、70人くらいになっちゃった」
そのうちのひとりが私なわけだ。
湯川氏はマクラでさんざん笑わせ、噺に入る。おなじみの展開で、おなじみの下げ。湯川氏レベルでは軽すぎたのではないだろうか。
2番手は参遊亭遊鈴。噺は「子別れ」で、これも遊鈴の十八番だ。
「湯川さんご夫婦の金婚式をお祝い申し上げます。むかしは人生五十年といって、金婚式を挙げられる夫婦は稀だったんですよね……」
そして遊鈴は、金婚式を迎える偉大さを述べる。聞いていて私は、複雑な思いだった。なぜならこのくだりを、私はレポートの冒頭に書きたかったからだ。
この落語を聞いた客が私のレポートを読んだら、「大沢のやつ、遊鈴さんのマクラをパクリやがった」と思うだろう。絶対数は少ないとしても、一定数の人にそう思われるのが癪に障るのである。何より、当の湯川夫妻にそう思われるのがつらい。
まあよい、どうせ私のレポートは2番手である。しらばっくれて書いちゃおう。
(つづく)
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