一公の将棋雑記

将棋に関する雑記です。

いま、佐藤天彦九段の将棋が面白い

2024-11-20 23:24:53 | 男性棋士
いま、佐藤天彦九段の将棋が面白い。
佐藤九段はデビューから一貫して居飛車党で、2016年度から3年期連続で名人を獲得したときも、居飛車の最新形で会心の指し回しを見せた。
その佐藤九段が突如として振り飛車党に転身したのは、昨年度からである。それまでは居飛車でもそこそこ勝っていたから、戦い方を変える必要もなかったのだが、ここまで居飛車、とくに角換わりの将棋が研究され尽くしてしまうと、居飛車を指すのに抵抗を覚えたとしても不思議ではない。
そんな佐藤九段の振り飛車は、角道を止めない昨今の風潮とは一線を画し、ちゃんと角道を止める。囲いも美濃囲いが主流だ。
佐藤九段のあだ名は「貴族」。個性的な部屋の造りやファッションセンスからきたものだが、その佐藤九段のイメージとは対極にある、昭和の正調振り飛車である。なお、同じ佐藤九段でも、康光九段のそれは力戦調で、振り飛車なのに居飛車の趣がある。
戻って、天彦九段の師匠は中田功八段。中田八段の振り飛車は三間飛車から軽い捌きを得意としているが、佐藤九段は受け主体で、手厚さも垣間見える。このあたり、居飛車党の振り飛車だからだろう。
受けの振り飛車だから居飛車に攻め込まれるのだが、佐藤九段は頑強な受けを繰り出し、なんやかやとやって、勝負形に持ち込んでしまう。そして勝ち切るのである。
中田八段の師匠は大山康晴十五世名人だが、その将棋にそっくりである。佐藤九段が大山十五世名人の将棋を相当に研究しているのが分かる。大師匠の将棋だから取り入れるのは当然に思えるが、佐藤九段なら現代の振り飛車を研究しそうなところだから、意外である。
そういえば、橋本崇載氏も、破天荒な言動とは裏腹に、その振り飛車は古風な趣があった。ライフスタイルと棋風は関係ないのである。
昨年度は21勝16敗、今年度はきのうまで15勝7敗。とくに今年度は、名人を失冠した2019年度以降最高の成績で、モデルチェンジは成功したといえる。
そんな佐藤九段がきょう、第18回朝日杯将棋オープン二次予選を戦った。
1回戦の相手は井出隼平五段。先手になった佐藤九段は▲2六歩。井出五段は振り飛車党だが、佐藤九段は相振り飛車は指さない。よろこんで居飛車にするのである。このあたりも、大山十五世名人のようだ。
佐藤九段は居飛車穴熊に組み、攻められながらも一手凌ぎ、反撃を決めて勝ち切った。
そして枠抜け戦の相手は、青嶋未来六段。佐藤九段は後手で四間飛車に振り、美濃囲いに組んだ。
青嶋六段は右銀を出て、急戦の構え。ここで佐藤九段が左銀を引いて飛車筋を通した。すると青嶋六段は右桂を跳ねる。すると佐藤九段は、再び銀を上がった。これも大山十五世名人独特の急戦対策だった。
この将棋は以下、青嶋六段が好調に攻めて、優勢。佐藤九段も勝負手を繰りだし竜を作るが、青嶋六段は金を引いてその竜に当てる。
勝負はもう一ヤマあると思いきや、何と将棋はこれで終わりとなった。実戦は佐藤九段が竜を逃げたのだが、着手ボタンを押し忘れ、負けとなったのだ!
先日、女流王位戦のYouTubeを見たとき、対局者が着手後みずから、ボタンを押していた。記録係の不足はだいぶ前から言われていたが、いまの女流棋界はこれが主流なのか?
朝日杯は対局時計を使っていたのか、着手用ボタンを使っていたのかは分からぬが、一部男性棋戦でも、自身がボタンを押すルールになっていたことに驚いた。
佐藤九段には後味の悪い結果になったが、A級順位戦では、永瀬拓矢九段、佐々木勇気八段と並んで4勝1敗、十分に挑戦者の可能性がある。タイトル戦だろうとなんだろうと、中盤の難所までノータイムでひとっ飛びの、角換わりの将棋に興味はない。古くて新しい、佐藤九段の将棋に注目したい。
コメント    この記事についてブログを書く
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする
« 最近見た夢(2024-11-06、08... | トップ | 1000勝に近い棋士・3 »

コメントを投稿