半期に一度の企画「2024年度上半期・私が勝手に選ぶ驚愕の一手」を、今月上旬に発表するのを忘れていた。それで、約1ヶ月遅れで発表する。
今回選んだのは、上半期最終日の9月30日に京都市で指された、第72期王座戦第3局(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)・▲永瀬拓矢九段VS△藤井聡太王座戦である。
ここまで藤井王座の2連勝。後がない永瀬九段は角換わりを志向し、いつもの形になった。
そこから永瀬九段がうまく指し、大優勢になった。思えば前期の第4局もここで行われ、永瀬王座(当時)が必勝形になりながら、終盤の落手で歴史的逆転負けを食らったのだった。
ちなみに、この将棋が指されたのが昨年10月11日だったので、私は永瀬王座のこの落手を、「2023年度下半期・驚愕の一手」に選んだのだった。
さて本局、この局面まで来たらもう永瀬九段は負けられないが、藤井王座の受けも見ものである。藤井王座といえばAIばりの終盤が代名詞だが、実は大山康晴十五世名人ばりの受けにも目を見張るものがある。勝率8割を実現するには負け将棋も勝たねばならず、それには強靭な受けと、強烈な勝負手が必須となるのだ。
藤井王座はふらふらと玉を逃げ、一手すいたところで、渾身の香を打った。
△9六香! ふつう、香は下段から打つものだが、ここではあえて近づけて打った。そこで永瀬九段が1分将棋の中、▲9七歩と打ったのがマズかった。
その前まで後手玉は簡単な詰めろだったが、それは9筋に歩を打つ手があったからである。利き数の少ない端は、歩の叩きが銀に近い働きをすることがある。▲9七歩を打つ前、永瀬九段の持駒は「金銀歩5」だったが、実戦的には「金銀銀歩4」の感じだった。
だが9筋に歩を打ってしまっては、持駒は「金銀」のみとなる。これでも後手玉は詰みそうだが、ギリギリ逃れている。これが△9六香の効果で、玉が9五まで逃げられるのだ!
本譜はそこで△7八銀。これに▲8八金打の変化がよく分からないが、それでは先手負けなのだろう。
よって永瀬九段は詰ましにかったがもちろん詰まず、無念の投了となった。
戻って図では、▲9七桂と跳ねて先手が勝ちだったらしい。だがこの手は△同香成と取られて王手が続きそうだし、8九の地点も開く。人間的には、歩でガードしたくなるところである。大山十五世名人は、「人間は間違える」の信念のもと指し手を進めたが、藤井王座にもそれが垣間見えることがある。それが△9六香だった。
藤井王座が掘った、恐るべき落とし穴であった。
今回選んだのは、上半期最終日の9月30日に京都市で指された、第72期王座戦第3局(主催:日本経済新聞社、日本将棋連盟)・▲永瀬拓矢九段VS△藤井聡太王座戦である。
ここまで藤井王座の2連勝。後がない永瀬九段は角換わりを志向し、いつもの形になった。
そこから永瀬九段がうまく指し、大優勢になった。思えば前期の第4局もここで行われ、永瀬王座(当時)が必勝形になりながら、終盤の落手で歴史的逆転負けを食らったのだった。
ちなみに、この将棋が指されたのが昨年10月11日だったので、私は永瀬王座のこの落手を、「2023年度下半期・驚愕の一手」に選んだのだった。
さて本局、この局面まで来たらもう永瀬九段は負けられないが、藤井王座の受けも見ものである。藤井王座といえばAIばりの終盤が代名詞だが、実は大山康晴十五世名人ばりの受けにも目を見張るものがある。勝率8割を実現するには負け将棋も勝たねばならず、それには強靭な受けと、強烈な勝負手が必須となるのだ。
藤井王座はふらふらと玉を逃げ、一手すいたところで、渾身の香を打った。
△9六香! ふつう、香は下段から打つものだが、ここではあえて近づけて打った。そこで永瀬九段が1分将棋の中、▲9七歩と打ったのがマズかった。
その前まで後手玉は簡単な詰めろだったが、それは9筋に歩を打つ手があったからである。利き数の少ない端は、歩の叩きが銀に近い働きをすることがある。▲9七歩を打つ前、永瀬九段の持駒は「金銀歩5」だったが、実戦的には「金銀銀歩4」の感じだった。
だが9筋に歩を打ってしまっては、持駒は「金銀」のみとなる。これでも後手玉は詰みそうだが、ギリギリ逃れている。これが△9六香の効果で、玉が9五まで逃げられるのだ!
本譜はそこで△7八銀。これに▲8八金打の変化がよく分からないが、それでは先手負けなのだろう。
よって永瀬九段は詰ましにかったがもちろん詰まず、無念の投了となった。
戻って図では、▲9七桂と跳ねて先手が勝ちだったらしい。だがこの手は△同香成と取られて王手が続きそうだし、8九の地点も開く。人間的には、歩でガードしたくなるところである。大山十五世名人は、「人間は間違える」の信念のもと指し手を進めたが、藤井王座にもそれが垣間見えることがある。それが△9六香だった。
藤井王座が掘った、恐るべき落とし穴であった。
将棋は全くわかりませんが、AIと解説から、「あ〜、もう藤井先生が負けるー」と思って観ていたら、藤井先生が9六香と打ったところ、AIが先手9七桂以外は大逆転の評価値を示して、解説者が「え、え、えーっ!!これは9七歩でしょう。9七歩以外指したことない。なんで、9七歩がダメなの?」と慌てふためいている所に、永瀬先生が9七歩を打って85%の勝率が一気に10%以下になって、ドラマティックで面白すぎました。(中村大地先生、本田先生の解説が、面白さを倍増してくれました。)
9六香自体も、AIでは、最善手ではなくて、3〜4番手で評価値も4%ぐらい下がるものでしたが、藤井先生の渾身の勝負手だったんですかね。
そうそう、竜王戦第3局も、とても面白かったです。勇気先生の先手番の第4局が、またまた楽しみです。
あ、一公さん、増田裕司先生に極似なんですか?濃い顔のイケメンなんですね。
△9六香の局面、ブログにも書きましたが、その場面、見ていなかったんですよ。ちょっと見たかったですね。
△9六香に正着が▲9七桂、というのは、藤井先生は読んでいたと思います。それで負けだから第3候補だったんですね。
でも藤井先生は、▲9七歩と打つ方に賭けた。
そしてそれに勝った、ということですね。実に素晴らしい勝負手でした。
増田先生の件、いまは私のほうがだいぶ老けちゃって、ちょっとイメージが変わっていますかね。
確実に言えることは、私はイケメンではありません。
>この一手に賭ける... への返信増田先生の件、今、少しイメージが変わってしまっていても、元が増田先生なら(たとえ、たとえ、、、頭髪が薄くなっていたとしても)渋いイケメンのお顔ですよ〜。
あ、王座戦第3局の終盤、Youtubeで無料で見られると思います。(私は、ABEMAに課金しちゃってるので、そちらでも見られますが)https://www.youtube.com/watch?v=Kn4dxHrBGKQ
深浦先生の解説もいい味出ています。
余談ですが、観戦記担当の若島先生が、最後ずっと記録君の隣に座っていらしたのですが、Xで、「あの対局を見た後なので眠れない」と呟いていらっしゃいました。
正しいのはこちらです。https://www.youtube.com/watch?v=ozOGOxZ9lEs&t=5s
も〜、いつもおっちょこちょいなんです、私。ごめんなさい。
YouTubeの情報、ありがとうございます。拝見しました。
これだけを見ても、藤井先生とほかの棋士との読みがまったく違うことが分かりました。
とにかく藤井先生は強い、その一言です。
若島先生は、昨年も王座戦第3局の観戦記を書き、将棋ペンクラブ大賞を受賞されました。
今年も名局を間近で見て、腕が鳴っているのではないでしょうか。