見もの・読みもの日記

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少年の日々/ハックルベリー・フィンの冒険

2005-03-19 22:27:46 | 読んだもの(書籍)
○マーク・トウェイン作、西田実訳『ハックルベリー・フィンの冒険』上・下(岩波文庫) 岩波書店 1977

 子供の頃からよく本を読んできたほうだと思うが、実は読んでいない名作というのがいくつかある。たとえば「メアリー・ポピンズ」「クマのプーさん」などがそうだ。

 この「ハックルベリー・フィンの冒険」も今回初めて読んだ。「トム・ソーヤーの冒険」は大好きだったから、「ハック」を手に取らなかったはずはないと思うのだけど、たぶん、途中で飽きて投げ出したのだと思う。

 本書の訳者は言う、「『トム』はだいたい子供が読んで面白い物語であるが。『ハック』は子供が読んでも大人が読んでも面白いし、学者が研究しても面白いという広さと深さを持っている」と。

 確かに、「トム」の物語は(といっても私は子供向けのリライト版しか読んでいないが)トムにすっかり感情移入することで楽しめるが、「ハック」は、この感受性の鋭い、したたかだが純粋な少年のモノローグに、読者自身の視線をクロスさせることで、はじめて物語の奥行きを味わうことができる。

 たとえば、ハックは、一緒に旅をすることになった逃亡奴隷のジムの存在を密告すべきかどうかを悩む。黒んぼの逃亡を助けるなんて、まっとうな人間のすることじゃないと”信じる”ハックは、良心の呵責に真剣に悩む。しかし、土壇場でハックの行動は、なぜか彼の良心を裏切ってしまう。このアイロニーを理解するのは子供では無理だ。やっぱり、これは大人が懐かしむ少年時代の物語なのだと思う。

 それにしても、昨今、日本では、子供を標的にした凶悪事件が多発していて、安心して学校にも通えない状況らしい。やれやれ、いまの子供はたいへんだなあと思っていたが、「ハック」を読むと、当時のアメリカ南部の子供たちのまわりには、ごろつき、殺人、詐欺、決闘、酒乱、なんでもありだ。それでも彼らは、すばしっこく危険を回避し、楽しみを見つけてたくましく生きている。とはいえ、自分の子供にハックのような冒険をさせたいと思う日本の親はいないだろうなあ。

 信心深くだまされやすい善人から、恐れしらずの悪党まで、ハックの眼に映る人々は多彩だが、最近すっかり評判を落とした「アメリカ的精神」の原点を、さまざまな角度から見ているような気がした。
コメント
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