見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

北鎌倉散歩:東慶寺、浄智寺

2008-05-09 23:54:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
■東慶寺・松ヶ岡宝蔵 仏像特別展

http://www.tokeiji.com/

 5月5日に鶴岡八幡宮の菖蒲祭を見た帰り、ここに寄ろうと思っていたのだが、閉門時間がなくなってしまった。まあ、いいか、と思って帰ったのだが、やっぱり割り切れなくて、翌日、再び埼玉の奥地から鎌倉まで出てきた。

 縁切り寺として知られる東慶寺の寺宝を集めた宝蔵は、年間を通じて開館しているが、この仏像特別展の期間は、ふだんは予約でしか拝観できない水月観音菩薩半跏像がお出ましになっている。10年くらい前、予約で拝観にも来たし、東京や鎌倉の博物館でお目にかかったこともあるが、久しぶりにお会いできてよかった。展示ケースが低いので、ガラスに寄ると、上から覗き込むような感じになってしまう。ふわりと裾の広がったドレス、いや法衣に身を包んだ水月観音は、小さなフランス人形のようだった。少し下方から見上げると、ガラスの玉眼が涼やかで凛々しい顔立ちをしていらっしゃるのだけど。

 ほかに、東慶寺蒔絵と呼ばれる調度品がまとまって展示されていた。寺内で作っていたわけではなく、たまたま伝わった収蔵品らしい。日用品らしく、飽きの来ないデザインで好ましかった。関東大震災で蔵が倒壊して、かなりの数が失われたというのは惜しい。その中に、IHS(イエズス会)のマーク入りの円筒形の小箱があった。周囲は蒔絵と螺鈿で飾られている。カトリック教会の聖餐式で用いられる聖餅箱だそうだ。試しに「聖餅箱」でGoogle画像検索をかけてみたら、同種のものが、京都国立博物館や神戸市立博物館にもあることが分かった。

■浄智寺

 それから、少し歩いて浄智寺に入った。拝観受付に、さりげなく神奈川近代文学館の『澁澤龍彦回顧展』のポスターが貼られている。そう、今日の私の目的は、澁澤さんのお墓参りをすること。

 ところが、奥に進んでいくと、墓苑に続く道を横倒しにした太い竹が塞いでいる。跨いで通れないことはないのだが、叱られたくもないし。ということで、一度、拝観受付まで戻って「あのう、墓地は入れないんでしょうか。澁澤龍彦さんのお墓参りに来たんですけど」と聞いてみた。そうしたら、受付のおばさんはニッコリ笑って「ああ、いいですよ、どうぞ」と言う。よかった。

 そこで、観光客の列が途切れたところで、そさくさと墓苑の中へ。記憶をたどって、石段の途中で左に折れる。あった。うん、「澁澤家」と彫られた、何の変哲もない、石塔型の墓石である。以前来たときは、種村季弘と巌谷国士と、あともうひとり、誰かが手向けた卒塔婆が並んでいたが、今日は墓石以外、何もない。そういえば種村季弘さんももう故人だ。花活けには、辺りの草むらから誰かが気まぐれに摘み取ったのだろうか、青いシャガの花が刺さっていた。

 澁澤先生、こんにちは。もう20年も経ってしまいましたね。

 そんなふうに、緑陰の墓石にご挨拶をする。年を取るのはあまり嬉しいことではないけれど、澁澤さんの年齢に少しずつ近づいていくのは、なんとなく幸せな気もする。
コメント
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