○東浩紀、北田暁大編『思想地図』Vol.1:特集・日本(NHKブックス別巻) 日本放送出版協会 2008.4
読書生活を振り返ってみると、「今、この新書(選書)が熱い!」と思うことがある。逆に「一時期の勢いがなくなったなあ」と思うものもある。2008年の今、いちばん熱いのはNHKブックスではないだろうか。私個人は、この1年余りの間に、山田俊治著『大衆新聞がつくる明治の「日本」』、松本典昭著『パトロンたちのルネッサンス』、斎藤希史著『漢文脈と近代日本』、東浩紀&北田暁大著『東京から考える』の4冊を読んだ。読んでいないけど、アントニオ・ネグリの『未来派左翼』をはじめ、読みたいなあ~と思って、書店で手に取る確率が、最近、非常に高い。
そんなNHKブックスが、不思議な試みを始めた。Webに上がっている「『思想地図』(仮題)論文公募のお知らせ」というファイルに言う。「NHK出版では、批評家の東浩紀氏と社会学者の北田暁大氏の共編で、若手論客の論文・批評を収載する思想誌『思想地図』(仮題)を、NHKブックスの別巻として2008年春に創刊いたします」。つまり、NHKブックス(図書)の別巻であって、同時に思想誌(雑誌)なのだという。創刊号(Vol.1)を見ると、版型や造本はNHKブックスと同型、分量はやや厚め。カバーデザインはガラリと異なる。
冒頭には、2008年1月22日に東京工業大学で行われた創刊記念シンポジウム(参加者:東浩紀、萱野稔人、北田暁大、白井聡、中島岳志)が抄録(たぶん)されている。これを補うようなかたちで、後日(2008年2月13日)行われた鼎談(東浩紀、萱野稔人、北田暁大)が併載されているのも興味深い。このほか、ナショナリズム、右翼、宗教、戦後民主主義、共和制、サブカルチャー(アニメ、マンガ、ライトノベル)などにかかわる論考十数本を掲載する。今、「硬軟とりまぜた」と書こうかと思ったが、そもそも「硬・軟」という見立て自体が、旧世代カルチャー的な気がしてやめた。
一見して気づくことは、執筆者の年齢が非常に若いことだ。今号参加者の平均年齢は35、6歳だという。しかし「編集後記」は「そもそも30代後半の論客が若いと見なされること、それそのものがまちがっている」「若い才能は存在しないのではない。それを発見しない出版界が怠惰なだけなのだ」と挑発する。同時に、筆者(A=東浩紀氏さん)は、本誌が「世代的」であることを自覚しつつ、「そのうえで筆者が期待しているのは、そのような『世代』感覚が、掲載論文によって内側から食い破られることである」と語る。いいな。その意気やよし。あと、特集は「日本」だが、東アジア(韓国、中国、台湾)への関心が高いことにも注目である。
気になるのは、創刊号をひっくり返してみても、刊行(予定)頻度がよく分からないこと。まあ、いいか。近年、インターネットの普及と進歩によって、「雑誌」というメディアの価値は、大きく変貌してしまった。速報性を重視する科学技術分野では、印刷媒体の「雑誌」を作らない、という選択をした出版社・学会も多いように思う。かつては、洋の東西、分野(人文/自然科学)を問わず、雑誌は、学術・思想コミュニティの構築に、必須のメディアであった。本誌には、明治・大正期の雑誌創刊者の意気と志に通ずるものがあるように思われて興味深い。もっとも、歴史に名を残した雑誌でも、意外と短期間で終刊しているのだけど。
印刷出版を介した人文知コミュニティの創造という点では、長谷川一さんの著書『出版と知のメディア論』(みすず書房、2003)を思い出したりもした。ともかく、今後を見守りたい雑誌である。
読書生活を振り返ってみると、「今、この新書(選書)が熱い!」と思うことがある。逆に「一時期の勢いがなくなったなあ」と思うものもある。2008年の今、いちばん熱いのはNHKブックスではないだろうか。私個人は、この1年余りの間に、山田俊治著『大衆新聞がつくる明治の「日本」』、松本典昭著『パトロンたちのルネッサンス』、斎藤希史著『漢文脈と近代日本』、東浩紀&北田暁大著『東京から考える』の4冊を読んだ。読んでいないけど、アントニオ・ネグリの『未来派左翼』をはじめ、読みたいなあ~と思って、書店で手に取る確率が、最近、非常に高い。
そんなNHKブックスが、不思議な試みを始めた。Webに上がっている「『思想地図』(仮題)論文公募のお知らせ」というファイルに言う。「NHK出版では、批評家の東浩紀氏と社会学者の北田暁大氏の共編で、若手論客の論文・批評を収載する思想誌『思想地図』(仮題)を、NHKブックスの別巻として2008年春に創刊いたします」。つまり、NHKブックス(図書)の別巻であって、同時に思想誌(雑誌)なのだという。創刊号(Vol.1)を見ると、版型や造本はNHKブックスと同型、分量はやや厚め。カバーデザインはガラリと異なる。
冒頭には、2008年1月22日に東京工業大学で行われた創刊記念シンポジウム(参加者:東浩紀、萱野稔人、北田暁大、白井聡、中島岳志)が抄録(たぶん)されている。これを補うようなかたちで、後日(2008年2月13日)行われた鼎談(東浩紀、萱野稔人、北田暁大)が併載されているのも興味深い。このほか、ナショナリズム、右翼、宗教、戦後民主主義、共和制、サブカルチャー(アニメ、マンガ、ライトノベル)などにかかわる論考十数本を掲載する。今、「硬軟とりまぜた」と書こうかと思ったが、そもそも「硬・軟」という見立て自体が、旧世代カルチャー的な気がしてやめた。
一見して気づくことは、執筆者の年齢が非常に若いことだ。今号参加者の平均年齢は35、6歳だという。しかし「編集後記」は「そもそも30代後半の論客が若いと見なされること、それそのものがまちがっている」「若い才能は存在しないのではない。それを発見しない出版界が怠惰なだけなのだ」と挑発する。同時に、筆者(A=東浩紀氏さん)は、本誌が「世代的」であることを自覚しつつ、「そのうえで筆者が期待しているのは、そのような『世代』感覚が、掲載論文によって内側から食い破られることである」と語る。いいな。その意気やよし。あと、特集は「日本」だが、東アジア(韓国、中国、台湾)への関心が高いことにも注目である。
気になるのは、創刊号をひっくり返してみても、刊行(予定)頻度がよく分からないこと。まあ、いいか。近年、インターネットの普及と進歩によって、「雑誌」というメディアの価値は、大きく変貌してしまった。速報性を重視する科学技術分野では、印刷媒体の「雑誌」を作らない、という選択をした出版社・学会も多いように思う。かつては、洋の東西、分野(人文/自然科学)を問わず、雑誌は、学術・思想コミュニティの構築に、必須のメディアであった。本誌には、明治・大正期の雑誌創刊者の意気と志に通ずるものがあるように思われて興味深い。もっとも、歴史に名を残した雑誌でも、意外と短期間で終刊しているのだけど。
印刷出版を介した人文知コミュニティの創造という点では、長谷川一さんの著書『出版と知のメディア論』(みすず書房、2003)を思い出したりもした。ともかく、今後を見守りたい雑誌である。