見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

新緑の京都・奈良(3): キトラ古墳壁画十二支

2008-05-13 23:53:18 | 行ったもの(美術館・見仏)
■飛鳥資料館 平成20年度春期特別展『キトラ古墳壁画十二支-子・丑・寅-』
http://www.asukanet.gr.jp/

 雨の残る日曜の朝(5/11)、京都を発って飛鳥に向かう。キトラ古墳壁画(子・丑・寅)の特別公開を見るためである。うれしい。もともと私の専門は万葉集である。最近でこそ江戸絵画とか桃山美術のウンチクを語っているが、京都→奈良→飛鳥と遡行するほどに、古代史好きの血がさわぎ出す。

 橿原神宮前からバスに乗って、飛鳥資料館に着いたのは10時少し前だったと思う。「キトラ古墳壁画は15分待ち」の表示を横目で見て館内に入ったが、常設展の順路に誘導されてしまう。え、まず特別展でしょう。しかし、その特別展をどこでやっているのか、よく分からない。「キトラ古墳壁画展(階下)」という立て看板を見つけて、地階に下りてみたら、写真パネル展示しかなくて慌てた。「本物の壁画はどちらにあるんですか?」と聞いたら「上の階です」という。慌てて戻って、常設展示室の奥にできていた短い列に並んだ。

 10~15分ほどで、特別室に入った。6、7人で囲めばいっぱいになってしまう、小さなテーブルに並んだ3枚の壁画の剥離片。キトラ古墳の十二支像って、こんなに小さかったのか。しかも子・丑・寅といっているけど、きちんと顔が分かるのはトラのみ。ネズミの顔は輪郭だけがようやく分かる。ウシはどう頑張っても見えない。それでも、実物資料と対面すると、感激ひとしおである!

 展示室入口のモニターでは、壁画の剥ぎ取り工程をダイジェスト・ビデオで見せていた。ふぅーん、こんなふうにするのか。失敗の許されない、息の詰まるような作業は、医療現場のようだ。手先が器用で、神経が細やかで、根気がなければできない。従事者は女性が多いように思った。

 東アジアの十二支像に関する展示も面白かった。「最古の十二支」として知られるのは、山西省にある婁睿墓壁画(570年=北斉)。ただし、リアルな動物を並べたもの。隋代に入ると、長江流域に獣面人身「坐像」の十二支像が生まれる。同時期に広まった薬師&十二神将信仰ともかかわりがあるらしい。唐の高宗~武后時代、北方(北京~遼寧地方)に獣面人身「立像」が登場するが、これが唐の都城(中原)に入るのはさらに遅れる。なお、キトラ古墳式=「武器を持つ獣面人身立像」の十二支は、中国では確認されていないそうだ。新羅にはこの例があるが、盛行するのは8世紀で、キトラ古墳(7世紀末~8世紀初め?)と年代が合わない。こんな調子で、考えれば考えるほど、面白い問題がたくさんあるようだ。

 資料館を出たのはお昼近くで、既に列は「45分待ち」に伸びていた。早めのお出かけがおすすめである。最後に、近鉄沿線のあちこちで見かけた『キトラ古墳壁画展』のポスター。まったく関西人って、本気なのか、ふざけているのか…。


コメント
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