■薬師寺
http://www.nara-yakushiji.com/
飛鳥を出て奈良に向かう途中、少し時間に余裕があったので、西ノ京駅で下りた。現在、東京国立博物館では、日光・月光両菩薩と聖観音がお出ましになって『国宝 薬師寺展』を開催中である。その間、「薬師寺はどうなっているのか」に、ちょっと興味があったもので。
拝観券(大人800円)を買って境内に入る。順路に従って東院堂前に進むと、「東院堂(国宝)/聖観世音菩薩(国宝)」の立て看板。いや、お堂はともかく、聖観音はいないはずだろ、と思って堂内を覗くと、お厨子の中に、見覚えのある聖観音のお姿が。えええ~!!「本物」は東京においでのはずだが…。近寄って見ると、正面に小さな文字で「御分身(複製)」の札。しかし、札を気にする拝観客はあまりいなかった。塑像や木彫像とちがって、金銅仏というのは、原本と複製にあまり差がない。東京国立博物館・本館の1階と2階にも、2体の聖観音の複製像が飾られているが、これも実に見分けがつきにくい。
では、金堂はどうなっているか。遠目に恐る恐る覗き込むと、ここにもいないはずの日光・月光菩薩のお姿がある。「御分身(複製)」か?と思ったが、巨大な写真パネルだった。薬師寺イリュージョンにはびっくりである。もっとも、信仰の立場からは、人間のつくった仏像は、全て真実の仏菩薩の「御分身(複製)」であろう。白鳳の金銅仏も、近代の模造も、その点で変わりはない。だから、「国宝が見られないのなら金返せ」という非難は当たらないと、私は思っている。なお、出口付近の立て看板では「聖観世音菩薩」の下の「国宝」の文字が隠してあったことを付け加えておこう。
■奈良国立博物館 特別展『天馬-シルクロードを翔ける夢の馬-』
http://www.narahaku.go.jp/
ギリシア・ローマから西アジアを経て、中国・日本まで、馬、とりわけ有翼馬(天馬)の造型に関する考古遺品・美術品を集めた展覧会。一目見てそれと分かるものもあるが、小さな食器や装身具の意匠など、こんなところに馬がいるのを、よく見つけたなーというのもあって、面白かった。興味深かったのは、20世紀、大谷探検隊がアスターナ古墳から持ち帰った布の断片と、法隆寺献納宝物の『四騎獅子狩文錦』の文様(有翼馬にまたがる武人の図)が酷似しており、「同一工房で織られた可能性が高い」という推論。当時、どれだけの織物工房があったのか知らないが、そんなことって、あるものなのかぁ。
■興福寺薪御能
http://narashikanko.jp/j/ivnt/ivnt_data/ivnt1/
ホテルにチェックインの後、再び外出。前日、近鉄駅で見つけたチラシで、5/11~12の2日間、興福寺の薪御能(たきぎおのう)が開かれることを知ったのだ。まだ明るさの残る興福寺に行ってみると、「般若の芝」と呼ばれる南側の草地に人が集まっており、笛と鼓の音色が聞こえてくる。おお、もう始まっている!と思ったときは、最初の演目が終わってしまった。
「次は大蔵流『柿山伏』です」という放送が入る。狂言か~。私は小学生の頃から母親の趣味で、よく狂言の舞台を見に行っていた。だから、狂言は古馴染みである。けれども能は、舞台はおろか、字幕つきのテレビ放送でさえも通しで見たことがないのに、いきなり薪能で初体験か、と思ってドキドキしていたら、次はまた狂言だというので、苦笑してしまった。
狂言「柿山伏」が終わって15分の休憩。大分あたりが暗くなって、雰囲気が出てきたところで、私の人生初の能楽体験、金春流「熊坂」が始まった。前半は2人の僧侶の掛け合い。どちらも地味ないでたちである。後半、旅の修行僧のもとに、さきほどの在地の僧、実は天下の大盗賊・熊坂長範の幽霊が、金糸輝くきらびやかな衣装に大長刀を抱えて現れる。前半と後半の落差が痛快で面白かった。能楽は敷居が高いと思っていたが、開眼してしまったかもしれない。大学生の頃、哲学科の「日本倫理思想史」で、夢幻能の構造論とかを聞きかじったことを懐かしく思い出した。佐藤正英先生、お元気ですか?
この薪御能は、観客のカメラ使用を禁止している。まあ九分どおりは守られていて、静かに舞台を楽しむ雰囲気が保たれているのは有難い。とはいえ、記念に1枚。これは最後に演者が退場するところなので見逃してほしい。
http://www.nara-yakushiji.com/
飛鳥を出て奈良に向かう途中、少し時間に余裕があったので、西ノ京駅で下りた。現在、東京国立博物館では、日光・月光両菩薩と聖観音がお出ましになって『国宝 薬師寺展』を開催中である。その間、「薬師寺はどうなっているのか」に、ちょっと興味があったもので。
拝観券(大人800円)を買って境内に入る。順路に従って東院堂前に進むと、「東院堂(国宝)/聖観世音菩薩(国宝)」の立て看板。いや、お堂はともかく、聖観音はいないはずだろ、と思って堂内を覗くと、お厨子の中に、見覚えのある聖観音のお姿が。えええ~!!「本物」は東京においでのはずだが…。近寄って見ると、正面に小さな文字で「御分身(複製)」の札。しかし、札を気にする拝観客はあまりいなかった。塑像や木彫像とちがって、金銅仏というのは、原本と複製にあまり差がない。東京国立博物館・本館の1階と2階にも、2体の聖観音の複製像が飾られているが、これも実に見分けがつきにくい。
では、金堂はどうなっているか。遠目に恐る恐る覗き込むと、ここにもいないはずの日光・月光菩薩のお姿がある。「御分身(複製)」か?と思ったが、巨大な写真パネルだった。薬師寺イリュージョンにはびっくりである。もっとも、信仰の立場からは、人間のつくった仏像は、全て真実の仏菩薩の「御分身(複製)」であろう。白鳳の金銅仏も、近代の模造も、その点で変わりはない。だから、「国宝が見られないのなら金返せ」という非難は当たらないと、私は思っている。なお、出口付近の立て看板では「聖観世音菩薩」の下の「国宝」の文字が隠してあったことを付け加えておこう。
■奈良国立博物館 特別展『天馬-シルクロードを翔ける夢の馬-』
http://www.narahaku.go.jp/
ギリシア・ローマから西アジアを経て、中国・日本まで、馬、とりわけ有翼馬(天馬)の造型に関する考古遺品・美術品を集めた展覧会。一目見てそれと分かるものもあるが、小さな食器や装身具の意匠など、こんなところに馬がいるのを、よく見つけたなーというのもあって、面白かった。興味深かったのは、20世紀、大谷探検隊がアスターナ古墳から持ち帰った布の断片と、法隆寺献納宝物の『四騎獅子狩文錦』の文様(有翼馬にまたがる武人の図)が酷似しており、「同一工房で織られた可能性が高い」という推論。当時、どれだけの織物工房があったのか知らないが、そんなことって、あるものなのかぁ。
■興福寺薪御能
http://narashikanko.jp/j/ivnt/ivnt_data/ivnt1/
ホテルにチェックインの後、再び外出。前日、近鉄駅で見つけたチラシで、5/11~12の2日間、興福寺の薪御能(たきぎおのう)が開かれることを知ったのだ。まだ明るさの残る興福寺に行ってみると、「般若の芝」と呼ばれる南側の草地に人が集まっており、笛と鼓の音色が聞こえてくる。おお、もう始まっている!と思ったときは、最初の演目が終わってしまった。
「次は大蔵流『柿山伏』です」という放送が入る。狂言か~。私は小学生の頃から母親の趣味で、よく狂言の舞台を見に行っていた。だから、狂言は古馴染みである。けれども能は、舞台はおろか、字幕つきのテレビ放送でさえも通しで見たことがないのに、いきなり薪能で初体験か、と思ってドキドキしていたら、次はまた狂言だというので、苦笑してしまった。
狂言「柿山伏」が終わって15分の休憩。大分あたりが暗くなって、雰囲気が出てきたところで、私の人生初の能楽体験、金春流「熊坂」が始まった。前半は2人の僧侶の掛け合い。どちらも地味ないでたちである。後半、旅の修行僧のもとに、さきほどの在地の僧、実は天下の大盗賊・熊坂長範の幽霊が、金糸輝くきらびやかな衣装に大長刀を抱えて現れる。前半と後半の落差が痛快で面白かった。能楽は敷居が高いと思っていたが、開眼してしまったかもしれない。大学生の頃、哲学科の「日本倫理思想史」で、夢幻能の構造論とかを聞きかじったことを懐かしく思い出した。佐藤正英先生、お元気ですか?
この薪御能は、観客のカメラ使用を禁止している。まあ九分どおりは守られていて、静かに舞台を楽しむ雰囲気が保たれているのは有難い。とはいえ、記念に1枚。これは最後に演者が退場するところなので見逃してほしい。