見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

絵で見る明治/聖徳記念絵画館

2008-05-27 00:04:29 | 行ったもの(美術館・見仏)
○明治神宮外苑 聖徳記念絵画館

http://www.meijijingugaien.jp/art-culture/seitoku-gallery/

 神宮の森に位置する絵画館は、一見、堅固な要塞のような建物である。中に入ったことのある人は少ないに違いない。私も最近まで、公開されている施設なのかどうか知らなかったくらいだ。一度入ってみようと思い始めて、先週、たまたま上記のサイトを見たら、”壁画6作品を修復の為、取り外します”というお知らせが上がっていた。5/29に取り外される3作品は10月中旬まで戻ってこない。そうと分かると、急に見ておきたくなった。

 日曜の午後、入場券を買って、人影のない入口をくぐり、大理石に囲まれた、広壮なエントランスホールに息を呑む。この建築だけで、一見の価値があると思う。左右には、日本画40点、洋画40点を備えた画廊が連なる。明治天皇の生誕から崩御、大喪までを年代順に描いたものだ。前半生は日本画、後半生は洋画で構成されている。

■Z旗:明治時代年表「明治神宮外苑聖徳記念絵画館壁画集」(個人サイト、全画像あり)
http://meiji.z-flag.jp/seitoku/index.html

 解説板には、1点ずつ、画題・時・ところ・描かれた人物の絵解き、そして奉納者と作者が記されている。奉納者は、有力華族のほか、海軍省・東京府・日本勧業銀行などの団体もある。おおよそ奉納者にゆかりの深い画題が選ばれており、『江戸開城談判』は侯爵・西郷吉之助と伯爵・勝精の奉納だったり、『京浜鉄道開業式行幸』は鉄道省の奉納だったりする。これは、はじめに80の画題を選んで、奉納者に割り振り、奉納者は、好みの画家に発注したのだろうか。奉納者は重なっていない(と思う)が、ひとりで複数の作品を描いた画家は何人かいる。

 最近、幕末・明治の画家に興味を持っているので、見覚えのある名前を見つけると嬉しかった。日本画では、小堀靹音の『二条城太政宮代行幸』『東京御着輦』が好きだ。引きのアングルで人物を小さく捉えた構図に品がある。前田青邨の『大嘗祭』は、神殿の屋根を大きく描き、登場人物はほとんど顔を見せないという特異な歴史画である。山口蓬春の『岩倉大使欧米派遣』は、小さな艀(はしけ)に乗って岸を離れる木戸・岩倉・大久保が一寸法師のように可愛らしい。絵本のような青い海が印象的である。錦絵に描かれた明治とは、ずいぶんイメージが異なることに驚く。

 洋画は、なかなか知った画家の名前を見つけられなかった。松岡壽、五姓田芳柳くらいか。暗い画面が多い中で、異彩を放っているのは小杉未醒の『帝国議会開院式』。軍艦の砲台をアップで描いた中村不折の『日露役日本海海戦』もかなり斬新である。

 藤島武二が『東京帝国大学行幸』と題して描いた東大の正門は、現在の姿そのままである。ほかの作品も、当時の建物や風景を、かなり正確に写していると思っていいだろう。だとすると、京都御所紫辰殿の壁には中国の聖人が描かれていたとか、福済寺の大伽藍(原爆投下で消失)が描かれた長崎市の図とか、いろいろ面白い発見がある。

 写真も映画もまだ大衆化していない当時、絵画は、情報の伝達と記録に必須のメディアだった。画家たちもその使命を強く自覚していたのではないかと思う。そんな時代に思いを馳せながら楽しみたい。また、同時代の画家で、ここに作品のない者を数えあげてみるのも一興である(黒田清輝とか)。
コメント
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