見もの・読みもの日記

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楽園の内側/沖縄、だれにも書かれたくなかった戦後史(佐野眞一)

2008-11-28 23:01:40 | 読んだもの(書籍)
○佐野眞一『沖縄、だれにも書かれたくなかった戦後史』 集英社 2008.9

 沖縄へはまだ行ったことがない。子供の頃は、亜熱帯の楽園だと無邪気に信じていた沖縄の近代が、差別と抑圧の歴史であることを知ったのは、小熊英二の『「日本人」の境界』(新曜社、1998)がきっかけである。それ以来、沖縄の基地問題や利権構造にも、複雑な歴史の影が尾を引いていることを感じるようになった。

 けれども著者は、沖縄を被支配・被害者の島と見て、沖縄県民を聖者化する左翼プロパガンダ的(大江健三郎的・筑紫哲也的)言説にはうんざりだという。そこで、誰も書かなかった真実の沖縄戦後史を求めて「沖縄県警」「沖縄ヤクザ」「沖縄財界人」「沖縄芸能プロダクション」の4つのフィールドにアプローチする。

 暴力団どうしの抗争・リンチ、沖縄空手の武闘派アウトロー、闇に通じた財界の顔役、軍用品の略奪、密貿易、密航など、エピソードのひとつひとつは凄まじいけれど、あまり衝撃は感じなかった。沖縄が特別に野蛮で猥雑なわけではなくて、東京でも大阪でも、広島でも福岡でも、およそ、大きな声で語られない歴史というのは、こんなものなんだろう、という気がしたためである。

 鹿児島県出身の政治家・山中貞則(1921-2004)が、あらゆるえげつない手を尽くして、沖縄の利権を護り続けたということも初めて知ったが、こういう政治家と特定地域の結びつきというのも、たぶんここだけの話ではないだろう。それにしても、薩摩藩の琉球侵攻に贖罪意識を感じて、という出発点は興味深い。今日のアジア諸国に対して、こういう義侠心を発揮する政治家のひとり位いないのか、と思った。

 最後の章は、著者の取材中に起きた米軍兵士による少女暴行事件(2008年2月)と、防衛省前事務次官守屋武昌の逮捕(2007年11月)に触れている。「被害者の島」でない沖縄を語る、という本書の主題からすれば蛇足にも思われるが、私は、この章をいちばん感慨深く読んだ。殺人を任務とする海兵隊の実態が、生々しく語られている。ヤクザや売春婦は、日本のどこにでもいるが、こんな大量の殺人者集団と同居しなければならないというのは、やっぱり沖縄だけの、深刻な問題だと思う。

 つねに強者の顔色をうかがう沖縄人の依存体質(事大主義)が役人天国の温床となった、という指摘は厳しい。本土人が沖縄人を差別するように、沖縄人は奄美人を差別してきた、ということも初めて知った。沖縄は、内にも外にも、変えていくべき問題をたくさん抱えた島である、ということが分かったように思う。
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