○江戸川乱歩『少年探偵団』(ポプラ文庫・少年探偵) ポプラ社 2008.11
ごく最近、街の本屋で「江戸川乱歩・少年探偵」シリーズの文庫本がズラリと並んでいるのを見た。怪人二十面相と名探偵・明智小五郎が知恵比べを繰り広げる、子供向けミステリーのシリーズである。へえ~懐かしいな。そう思って、藤田新策氏の描く幻想的な装丁を眺めたが、購入するには至らなかった。
数日後、近所の本屋で再び「少年探偵」シリーズの文庫本を見た。それも、なんと昭和40年代の児童書の表紙絵が、そのまま使われている! びっくりした。小学校時代のさまざまな思い出が一気に押し寄せてくるように思った。事情を考えるより先に、とにかく1冊買って帰った。
私が親しんだ「少年探偵」シリーズは、昭和39年(1964)にポプラ社から刊行されたハードカバー版で、油彩画ふうの表紙は柳瀬茂氏による。同社は、2005年に「少年探偵」シリーズの文庫版(藤田新策氏装丁)を出しているが、このたび「ポプラ文庫」の創刊にあわせて、旧版の表紙・挿絵を忠実に再現した新装版が刊行されることになった。なぜ今、「少年探偵」リバイバルなのか? その答えは、文庫本の折り込み広告にあった。北村想『怪人二十面相・伝』を原作とする映画『K-20』が、12月20日公開予定なのである。へえ~初めて知った。
巻末の解説を書いている乙一さんは1978年生まれだというから、私よりずいぶん若いが「ポプラ社から出ている単行本の表紙の絵がこわかった」「小学校の図書室で『少年探偵団シリーズ』のならんでいる一画は、不気味でちかよりがたかった」という回想に、そうそう、と膝を打ちたくなる。「(このシリーズは)子どもが読んではいけないもの、という気がしていた」というのにも同感。
子供の頃、本を読むことは、何でも親に喜ばれた。マンガやテレビは、内容によって、承認されたり、嫌がられたりしたが、とりあえず活字を読む行為は「いいこと」だった。ところが、この江戸川乱歩シリーズを読んで、誰に教えられたわけでもないのに、「ほめられない読書」というものがある、ということが子供心に了解されたように思う。別の見方をすれば、私はこのシリーズによって「快楽としての読書」を知り染めたのである。
最近、宮崎駿が「悪人をやっつければ世界が平和になるという映画は作りません」と語ったという記事を読んだ。宮崎がどんな映画をつくろうとしているのかは分からないが、私は、正義派の追及をどこまでも逃げおおせ、闇の中に消えてしまう大悪党の物語は、ぜひ子供のうちに読んでおくべきだと思う。その微かな恐怖の記憶が、その後の人生をどれだけ豊かにするか、計り知れないからだ。映画『K-20』の予告編に見る、よみがえった怪人二十面相の颯爽としたダークヒーロー振りは、子供の頃の悪夢が形を取ったかのようだ。期待を持っていいかしら。
■こども図書館ドットコム:「少年探偵・江戸川乱歩」シリーズの旧版について
http://kodomotoshokan.com/m-b-book/ranpo-b.html
■『K-20 怪人二十面相・伝』公式サイト(※音が出ます)
http://www.k-20.jp/
ごく最近、街の本屋で「江戸川乱歩・少年探偵」シリーズの文庫本がズラリと並んでいるのを見た。怪人二十面相と名探偵・明智小五郎が知恵比べを繰り広げる、子供向けミステリーのシリーズである。へえ~懐かしいな。そう思って、藤田新策氏の描く幻想的な装丁を眺めたが、購入するには至らなかった。
数日後、近所の本屋で再び「少年探偵」シリーズの文庫本を見た。それも、なんと昭和40年代の児童書の表紙絵が、そのまま使われている! びっくりした。小学校時代のさまざまな思い出が一気に押し寄せてくるように思った。事情を考えるより先に、とにかく1冊買って帰った。
私が親しんだ「少年探偵」シリーズは、昭和39年(1964)にポプラ社から刊行されたハードカバー版で、油彩画ふうの表紙は柳瀬茂氏による。同社は、2005年に「少年探偵」シリーズの文庫版(藤田新策氏装丁)を出しているが、このたび「ポプラ文庫」の創刊にあわせて、旧版の表紙・挿絵を忠実に再現した新装版が刊行されることになった。なぜ今、「少年探偵」リバイバルなのか? その答えは、文庫本の折り込み広告にあった。北村想『怪人二十面相・伝』を原作とする映画『K-20』が、12月20日公開予定なのである。へえ~初めて知った。
巻末の解説を書いている乙一さんは1978年生まれだというから、私よりずいぶん若いが「ポプラ社から出ている単行本の表紙の絵がこわかった」「小学校の図書室で『少年探偵団シリーズ』のならんでいる一画は、不気味でちかよりがたかった」という回想に、そうそう、と膝を打ちたくなる。「(このシリーズは)子どもが読んではいけないもの、という気がしていた」というのにも同感。
子供の頃、本を読むことは、何でも親に喜ばれた。マンガやテレビは、内容によって、承認されたり、嫌がられたりしたが、とりあえず活字を読む行為は「いいこと」だった。ところが、この江戸川乱歩シリーズを読んで、誰に教えられたわけでもないのに、「ほめられない読書」というものがある、ということが子供心に了解されたように思う。別の見方をすれば、私はこのシリーズによって「快楽としての読書」を知り染めたのである。
最近、宮崎駿が「悪人をやっつければ世界が平和になるという映画は作りません」と語ったという記事を読んだ。宮崎がどんな映画をつくろうとしているのかは分からないが、私は、正義派の追及をどこまでも逃げおおせ、闇の中に消えてしまう大悪党の物語は、ぜひ子供のうちに読んでおくべきだと思う。その微かな恐怖の記憶が、その後の人生をどれだけ豊かにするか、計り知れないからだ。映画『K-20』の予告編に見る、よみがえった怪人二十面相の颯爽としたダークヒーロー振りは、子供の頃の悪夢が形を取ったかのようだ。期待を持っていいかしら。
■こども図書館ドットコム:「少年探偵・江戸川乱歩」シリーズの旧版について
http://kodomotoshokan.com/m-b-book/ranpo-b.html
■『K-20 怪人二十面相・伝』公式サイト(※音が出ます)
http://www.k-20.jp/