○徳川美術館 秋季特別展『室町将軍家の至宝を探る』(2008年10月4日~11月9日)
http://www.tokugawa-art-museum.jp/
どうしても見たくて、最終日に駆け込みで行ってきた。室町将軍家=足利将軍家の「至宝」とは、要するに「唐物(からもの)」のことだ。「唐物」とは、中国の美術品全般を指す言葉ではない。歴代の室町将軍と同朋衆といわれる人々の、きわめて独創的な美意識によって選ばれ、価値付けられた品々であり、彼らの鑑賞眼は、以後の日本における中国美術鑑賞に大きな影響を与えた、といわれている。
私は、今回、そのことを深く実感した。実は前日、大和文華館の特別展『崇高なる山水』で、李郭派の山水画をたっぷり堪能したばかりだった。さて、この展覧会にも、たくさんの中国絵画が出ていたが、会場の”空気”が全然違うのである。大和文華館の列品解説で、日本に伝わった中国絵画には、ある種の偏りがある、という話を聞いた。なるほど、思い返せば『崇高なる山水』の展示会場は、明らかに日本文化と異質な、中国の匂いがした。あの「山水好み」は、ずっと平俗化しつつも、いまの中国人の趣味の王道につながっていると思う。それに対して、「室町将軍家の至宝」の会場は、ほっとするような既視感が支配していた。あれは、日本人がはぐくんできた”唐物”の美学だと思う。
素人にもすぐ分かるのは、サイズの違いである。李郭派の山水画(特に明・清時代)は、大邸宅の壁面をどーんと埋めてしまう、巨大な縦長の軸が主流。それに対して、日本人好みの”唐物”は、もちろん例外はあるけれど、お茶室サイズが標準である。「もとは大きな画幅(画巻)の一部だった」という作品も多い。最もいいところだけを切り取った「断簡」に、表具やお茶道具を取り合わせて飾る。そこに美意識が働くのである。たまたま2つの展覧会を続けて見たために、いろいろなことを考えさせられた。
作品では、大和文華館の名品、李迪筆『雪中帰牧図』が、本家から追い出されて(?)こっちに来ていたのが可笑しかった。岡山県立美術館の伝月壺筆『白衣観音図』は初見。観音様は、中性的な美形である。左上方に浮かんでいるのは、天女か、剣を捧げた韋駄天か? 福岡市美術館の三幅対は、左右に猿猴図、中央にブタ鼻の猪八戒みたいな韋駄天図を置く。伝牧谿筆ってほんとかな。西日本の美術館の収蔵品は、関東では見る機会が少ないので、こうやって見られるとうれしい。松田の『石榴栗鼠図』(個人蔵)は久しぶりに見た。まさに枝から枝に飛び移ろうとするリスがかわいい。
絵画以外では、堆朱工芸に目を奪われた。1品だけ、他に例を見ない「堆白」にも。『足利将軍若宮八幡宮参詣絵巻』は、同朋衆らしき人々を描いた唯一の絵画資料だそうだ。僧形、帯刀、華やかな(女性のような)小袖に白袴って、ほんとなのかしら。想像してみると、ずいぶん異形だと思う。
http://www.tokugawa-art-museum.jp/
どうしても見たくて、最終日に駆け込みで行ってきた。室町将軍家=足利将軍家の「至宝」とは、要するに「唐物(からもの)」のことだ。「唐物」とは、中国の美術品全般を指す言葉ではない。歴代の室町将軍と同朋衆といわれる人々の、きわめて独創的な美意識によって選ばれ、価値付けられた品々であり、彼らの鑑賞眼は、以後の日本における中国美術鑑賞に大きな影響を与えた、といわれている。
私は、今回、そのことを深く実感した。実は前日、大和文華館の特別展『崇高なる山水』で、李郭派の山水画をたっぷり堪能したばかりだった。さて、この展覧会にも、たくさんの中国絵画が出ていたが、会場の”空気”が全然違うのである。大和文華館の列品解説で、日本に伝わった中国絵画には、ある種の偏りがある、という話を聞いた。なるほど、思い返せば『崇高なる山水』の展示会場は、明らかに日本文化と異質な、中国の匂いがした。あの「山水好み」は、ずっと平俗化しつつも、いまの中国人の趣味の王道につながっていると思う。それに対して、「室町将軍家の至宝」の会場は、ほっとするような既視感が支配していた。あれは、日本人がはぐくんできた”唐物”の美学だと思う。
素人にもすぐ分かるのは、サイズの違いである。李郭派の山水画(特に明・清時代)は、大邸宅の壁面をどーんと埋めてしまう、巨大な縦長の軸が主流。それに対して、日本人好みの”唐物”は、もちろん例外はあるけれど、お茶室サイズが標準である。「もとは大きな画幅(画巻)の一部だった」という作品も多い。最もいいところだけを切り取った「断簡」に、表具やお茶道具を取り合わせて飾る。そこに美意識が働くのである。たまたま2つの展覧会を続けて見たために、いろいろなことを考えさせられた。
作品では、大和文華館の名品、李迪筆『雪中帰牧図』が、本家から追い出されて(?)こっちに来ていたのが可笑しかった。岡山県立美術館の伝月壺筆『白衣観音図』は初見。観音様は、中性的な美形である。左上方に浮かんでいるのは、天女か、剣を捧げた韋駄天か? 福岡市美術館の三幅対は、左右に猿猴図、中央にブタ鼻の猪八戒みたいな韋駄天図を置く。伝牧谿筆ってほんとかな。西日本の美術館の収蔵品は、関東では見る機会が少ないので、こうやって見られるとうれしい。松田の『石榴栗鼠図』(個人蔵)は久しぶりに見た。まさに枝から枝に飛び移ろうとするリスがかわいい。
絵画以外では、堆朱工芸に目を奪われた。1品だけ、他に例を見ない「堆白」にも。『足利将軍若宮八幡宮参詣絵巻』は、同朋衆らしき人々を描いた唯一の絵画資料だそうだ。僧形、帯刀、華やかな(女性のような)小袖に白袴って、ほんとなのかしら。想像してみると、ずいぶん異形だと思う。