見もの・読みもの日記

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若冲にも会えます/朝鮮王朝の絵画と日本(栃木県立美術館)

2008-11-29 23:09:47 | 行ったもの(美術館・見仏)
○栃木県立美術館 企画展『朝鮮王朝の絵画と日本-宗達、大雅、若冲も学んだ隣国の美』(2008年11月2日~12月14日)

http://www.art.pref.tochigi.lg.jp/jp/index.html

 気になっていた展覧会に行ってきた。これまで全く意識したことのなかった美術館で、いったいどこにあるんだ?と調べての初訪問である。本展は、朝鮮王朝(1392-1910)の絵画を通観すると同時に、室町・江戸絵画との影響関係を探る企画。そこで、日本国内の朝鮮絵画に、韓国の有名博物館からの出品を加え、さらに、宗達・若冲・桑山玉洲など、日本人画家の名品も見られるという、何重にもオイシイ展覧会なのだ。ただし展示替えが多いので、十分に注意されたし。上記の公式サイトに堂々と画像があがっている若冲の『百犬図』は、実は、栃木では出品されていなくて、巡回先の静岡でしか見られないらしい(いいのか、それって?)。

 展示は、第1部の朝鮮絵画史が「山水画」「仏画」「花鳥画」「民画」で構成される。いちばん面白かったのは花鳥画かな。韓国から、女流画家・申師任堂(シン・サイムダン)の『草虫図屏風』が出品されている(栃木のみ、全期間)。これは一見の価値あり。私はこの夏、韓国・江陵の申師任堂の旧居(烏竹軒)に行ってきたのだが、ソウルの国立博物館にある同作品は見られなかった。こうして日本でめぐりあうのも何かの縁に思われる。

 小さな虫や草花を愛しむように、鮮やかな色彩で丁寧に描かれた画面からは、不思議な幻想味がにじみ出している。虚空でホバリングする蝶々は精霊のようだ。ふと、イギリスの挿絵画家、J.J.グランヴィルの『花の幻想』を思い出した。若冲の作品(糸瓜群虫図とか)にも少し似ている。しかし、申師任堂の場合、士大夫の教養である水墨画に対して、伝統にとらわれない、女性ならではの美意識、と言ってみたくなるのだが、それに反応してしまう若冲って…。

 第2部の前半は、「描かれた朝鮮通信使」を特集。残念なことに、会場には解説が少ないのだが、この夏に出版されたロナルド・トビさんの『「鎖国」という外交』を読んでいれば、楽しみ倍増である。同書に掲載されていた絵画資料が、多数展示されているのだ。朝鮮通信使をアップで描いた(役者の大首絵みたい)『文化八年来聘朝鮮通信使画巻』には感激した。驚きだったのは、狩野常信が描いた『趙泰億像』(正徳元年の通信使正使の肖像画)が韓国国立中央博物館から出陳されていたこと。いつ、どういう経緯で韓国のものになったのか、興味深い。

 第2部後半は、朝鮮絵画の影響を受けたと思われる日本人画家の作品を紹介。若冲のタイル画(升目描き)のルーツは朝鮮の紙織画ではないか、という説が紹介されていたが、後者は市松模様(彩色と白色のマスが交互)なので、ちょっと違うと思う。宗達の『狗子図』は、なるほど李厳の『花下遊狗図』と、遠く響きあうものを感じる。でも宗達の子犬のほうがブサイクで、庶民の子っぽくて、愛らしい。

 最後は若冲の『菜虫譜』(佐野市立吉澤記念美術館)。これ、私は意外と見た記憶が少ない。2000年の京博の若冲展で、70数年ぶりに発見・公開されたというから、このときは見てるんだな。まず、冒頭の巻名の文字がいい。「菜」は人の顔みたいだし、「蟲」は3匹のヘビみたい。薄墨で埋めた画面(絹本)に、鮮やかな色彩の野菜や果物が躍る。深紅のヤマモモ、水色の慈姑、赤と緑のたらしこみで描かれたヒメリンゴ(?)。ジェリーか、飴細工か、お菓子のようでもあり、ごそごそと動き出しそうでもある。現物は前半(菜譜)しか開いていないが、展示会場の途中に、後半(虫譜)までの写真パネルが展示されている。しかも「これかな?」と思われる野菜や果物、昆虫の実物写真が、名前入りで並べてあるので(いや違うだろ、というのもあったけど)、ぜひ戻って確認するのをお忘れなく。

■佐野市立吉澤記念美術館:『菜虫譜』をムービーで!
http://www.city.sano.lg.jp/museum/collection/index.html

 なお、朝鮮絵画について予習するなら、別冊太陽『韓国・朝鮮の絵画』(平凡社、2008.11)がおすすめ。私は高麗仏画が好きなのだが、日本における高麗仏画は、中国製と誤認されることで生き延びてきた、という井手誠之輔さんの一文が興味深かった。
コメント (2)
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