見もの・読みもの日記

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語られる批評/思想地図 Vol.3:特集・アーキテクチャ

2009-06-23 22:51:29 | 読んだもの(書籍)
○東浩紀、北田暁大編『思想地図』Vol.3:特集・アーキテクチャ(NHKブックス別巻) 日本放送出版協会 2009.5

 同誌Vol.2の第二特集「胎動するインフラ・コミュニケーション」で突如として現れた(と私は思った)言葉「アーキテクチャ」が、今号の特集になっている。内容は平易と言えないが、共同討議など「語り」の文体で収録されているものが多いので、現代思想のシロウトにも読みやすいと思う。

 「アーキテクチャ」には「建築」「コンピュータ・システム」「社会設計」などの意味があり、われわれの生活や行動を制御する、顔のない権力的な存在を指し示す言葉でもある。濱野智史は、進化・生成するインターネット・アーキテクチャと、自然生態系モデルの類似性を指摘する。磯崎新氏は、建築家にできることは「切断をして、その瞬間を固定するだけ」という立場をとり、素材の重さや身体性にこだわる。一方で、ネットの上では物理的制限(紙が無くなるとかインクがなくなるとか)が限りなく希薄になり、切断(作家性の契機)のないコミュニケーションがだらだらと流れている状況が指摘される。この「切断」と「生成」というアーキテクチャ・モデルの対比は面白いと思った。収録されている共同討議は、発言者が多すぎて、曖昧な印象になっているけれど。

 今号で、いちばんわくわくしながら読んだのは「『東京から考える』再考」と題した鼎談。そもそもこの雑誌が生まれるきっかけとなった『東京から考える』(日本放送協会、2007)の著者、東浩紀と北田暁大に、『滝山コミューン1974』(講談社、2007)の原武史を加えたスペシャル版。これが面白くないわけがない。東、北田両氏が、東京で育った実体験を、やや観念的に整理しているのに対して、歴史学者・原氏の、団地・鉄道に関する実証的なデータとコメントが有効に機能していると感じられた。

 最後にもう1編、河野至恩の「東・宮台、北米講演旅行レポート」は、2009年3月下旬から4月上旬にかけて、アメリカ各地で行われたシンポジウム・講演・ワークショップをレポートしたもの。中心となったのは、アジア学会の2009年年次総会である。英語圏における日本研究が1990年代前半の認識で止まっていること(その問題意識から、この講演旅行が企画された)、シンポに参加した北米の学生たちが、かなりマイナーな日本のネット文化にも十分に精通していること、一方で日本のポップカルチャーはヴィジュアルイメージのみが受容され、日本のアニメやマンガについて日本人が日本語で語ってきた歴史が全く省みられていないことなど、重要で刺激的な指摘がたくさんあった。こういうグローバルな学術研究の最新情報を一般読者向けにレポートするというのも、批評誌としていい企画だと思う。
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