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山種美術館 開館記念特別展VI『江戸絵画への視線-岩佐又兵衛《官女観菊図》重要文化財指定記念-』(2010年7月17日~9月5日)
2009年10月に恵比寿(広尾)に新装開館した山種美術館。え~と、実は特別展III『大観と栖鳳』に行ったのだが、記事を書き落としてしまった。なので、これが新美術館初のレポートになる。今回は、「近代・現代日本画専門の美術館」として知られる同館にはめずらしく、江戸絵画コレクションを紹介する展覧会。
冒頭には、宗達画・光悦筆の『新古今集鹿下絵和歌巻断簡』。益田鈍翁旧蔵、もとは全長20メートルの巻物を分断したもの。これは、西行の「心なき身にもあはれは知られけり」(三夕歌の一)に、うつむき加減の「もの憂い風情の牡鹿」(解説)という取り合わせで、優品だと思う。光悦の筆跡は、ちょっと重い感じがするけど…。表具が素晴らしくいい! 鹿の絵に合わせた金泥色の地に桜の古木を刺繍した中廻し。細い一文字には、小さな雁の姿が見える。
さらに、『四季草花下絵和歌短冊』も宗達画・光悦筆のコラボで、全18面の短冊から成る。不思議だったのは、宗達画(短冊の文様)のテーマは、梅→柳→桜→卯の花…という具合に四季の移り変わりに合っているのに、梅や柳の図柄の短冊に書かれているのが、どう見ても秋歌だったこと。図柄と歌の内容を、わざと「はずして」いるのだろうか。桜柄の短冊の「花見にとひとやりならぬ野辺にきて 心のかぎり尽くしつるかな」(経信)は、桜の歌かと思ったが、調べてみたら、これも秋歌だった。不思議…。
同館には、琳派、特に酒井抱一の優品が多い。私はあまり抱一には興味がなかったのだけど、『宇津の山図』の緊迫した構図、『月梅図』のくらげみたいに現実離れした白梅など、ちょっと気に入ってしまった。『秋草鶉図』はフットボールみたいに細身の月が涼やか。照明がほどよいので、金屏風が映える。
岩佐又兵衛の『官女観菊図』は、以前の山種美術館でも見たことがあると思うが、薄い展示ケースを使用しているので、作品に肉薄できてうれしい。細く丁寧な線、薄い墨色が、鉛筆かクレパスで描いているみたいだ。又兵衛って、ほつれ毛フェチだよなあ、と思う。この作品、福井の豪商金谷家という旧家に伝来した六曲一双の押絵貼屏風であったそうだ。会場には、この「旧金谷屏風」をCGで復元した図が掲げられていた。『官女観菊図』は左隻の左から2枚目で、出光美術館所蔵の『野々宮図』や、昨年、道教の美術展で見た『老子出関図』(東博)も一連の作品であるらしい。左右両端の『雲龍図』と『虎図』(東博)が見たいなあ。こういうのって、リクエストすると効果はあるんだろうか。
ほかに気に入ったのは、椿椿山の『久能山真景図』。私は一度だけ久能山に行ったことがあるが、あ、あの坂だ、とすぐに記憶がよみがえった。「真景」とことわるだけのことはある。緑陰の坂道を登っていくピンクの僧服の人物が愛らしい。伝・蘆雪の『唐子遊び図』は期待していったんだけど、これは違うなあ、と思った。
近代絵画を常設する第2室で、同館随一の名品、速水御舟の『名樹散椿』が見られたのは眼福の余禄。この作品も、フラットな画像で見たときと、屏風として立てたときの印象は、ずいぶん違うように思う。今村紫紅、福田平八郎など、童心の清々しさを感じさせる近代絵画が多かった。