週末は台風とすれ違うように、遷都1300年祭のフィナーレが近づく奈良へ。もちろん目的は正倉院展だが、その前に。
■薬師寺(奈良市西ノ京町)
まもなく解体修理が始まる東塔初層の特別開扉(2010年4月8日~10月31日)をようやく見に行った。中に入れるのかと思ったら、扉の内側に斜めに立てた大きな鏡があって、華麗な法相華文を留める天井を、井戸のように覗き込む形式。
大宝蔵殿では特別公開『吉祥天女のすべて』(10月5日~12月12日)を開催中。薬師寺の吉祥天図像は、何度も見ても美しい。唐代の仕女図との類縁性も感じるが、やっぱり、この世ならぬ女人の美しさをあらわしていると思う。昭和32(1967)年に行われた修復に関する資料を同時公開。剥ぎ取られた旧表装裂は太い黄色い帯の内側に細い藍色の帯が使われており、現在の表装が、これと全く同一であることが確認できる。写真パネルでは、昭和30年頃の京都国立博物館内の修理所が、一見、フツーの木造二階家みたいであったこと(よく見ると窓がゴツイ)、修復を担当した七代目宇佐美直八氏の机には、粗末な裸電球のランプが載っていたこと(倒したらどうするんだ!)などが確認でき、興味深かった。貧しい中で守られてきたんだなあ、この国の文化財は。
■平城宮跡資料館(奈良文化財研究所)
平城宮跡歴史公園の西の隅にあり、大和西大寺駅から歩いて10分くらい。いつも気になりながら素通りしていたので、初訪問である。復原展示コーナーには、正倉院展でおなじみの屏風や絨毯(に似せた複製)が、リビング空間らしくセットされていた。こうしてみると、韓国のサランバンに雰囲気が似ていると思う。遺物展示コーナーには、木簡や瓦(の複製)を分かりやすく展示。地味な出土資料なのに、意外なほど楽しい。
特別展示エリアでは、平城宮跡発掘調査50周年記念『天平びとの声をきく-地下の正倉院・平城宮木簡のすべて-』(2010年9月25日(土)~11月7日)が行われており、木簡約100点(×展示替え3回)が見られる。保存に神経を使う木簡の実物を、これだけ一度に見られる機会は、なかなかない。興奮! 平城宮跡で初めて木簡が見つかったのは、1961年。ちょうど私が生まれた頃の話だ。そうか、それ以前の古代史には、木簡資料って無かったのか…。1989年、長屋王邸跡から大量の木簡発見を伝えるマスコミの興奮は、私もよく覚えている。
実物の木簡以外に、木簡庫を保存するバット(皿)が整然と並んだ木製の棚や、保存液を貯めておくポリバケツ、保存液のつくりかたを書いた貼り紙、研究員の机など、「へんなもの」が要所要所に展示されているのも面白かった。発掘されたばかりの木簡の「読みかた」の提案を呼びかけているのもよいアイディア(子どもだましのクイズでなく、かなり本格的!)。見学者に媚びるわけでもなく、衒学的にもならず、淡々として、しかも熱い。「ね、木簡の発掘調査って楽しいんだよ」という、控えめな誇りに満ちた語りかけが聞こえてくるようで、見終わったあと、こちらの気持ちも晴れやかになる展示だった。※しかも観覧無料。
■奈良県立美術館 平城遷都1300年祭特別展『花鳥画-中国・韓国と日本-』(2010年9月28日~11月14日)
夜間開館(金土は午後9時まで)を利用し、10月26日から始まった後期展示を見に行く。個人的な好みでは、後期のほうが中国絵画らしい(日本風味の薄い)作品が多くて楽しめた。印象に残ったのは、名古屋の万松寺に伝わった、王冕筆『墨梅図』と李衎筆『竹石図』(ともに元時代、現在は三の丸尚蔵館蔵)。写実的のようで構成的なのがいい。対幅なのに離れて展示されていたのが残念。次の機会には並べて見たい。明・呂敬甫筆『草虫図』は不思議さ全開の着色草木図。東博の所蔵で、2005年や2006年の平常展示にも出ていたらしい。「中国書画精華」みたいな名品展だけ狙って行っていると、明清の名品は見落とすんだな、と反省。若冲の『糸瓜群虫図』はやっぱりいい。先日、板倉聖哲先生が「若冲の作品は、必ずそれと分かります」と力説していたことを思い出した。
このあと、同じく東京から出てきた友人と、会場で落ち合って、奈良町のおでんやで遅い夕食。
■薬師寺(奈良市西ノ京町)
まもなく解体修理が始まる東塔初層の特別開扉(2010年4月8日~10月31日)をようやく見に行った。中に入れるのかと思ったら、扉の内側に斜めに立てた大きな鏡があって、華麗な法相華文を留める天井を、井戸のように覗き込む形式。
大宝蔵殿では特別公開『吉祥天女のすべて』(10月5日~12月12日)を開催中。薬師寺の吉祥天図像は、何度も見ても美しい。唐代の仕女図との類縁性も感じるが、やっぱり、この世ならぬ女人の美しさをあらわしていると思う。昭和32(1967)年に行われた修復に関する資料を同時公開。剥ぎ取られた旧表装裂は太い黄色い帯の内側に細い藍色の帯が使われており、現在の表装が、これと全く同一であることが確認できる。写真パネルでは、昭和30年頃の京都国立博物館内の修理所が、一見、フツーの木造二階家みたいであったこと(よく見ると窓がゴツイ)、修復を担当した七代目宇佐美直八氏の机には、粗末な裸電球のランプが載っていたこと(倒したらどうするんだ!)などが確認でき、興味深かった。貧しい中で守られてきたんだなあ、この国の文化財は。
■平城宮跡資料館(奈良文化財研究所)
平城宮跡歴史公園の西の隅にあり、大和西大寺駅から歩いて10分くらい。いつも気になりながら素通りしていたので、初訪問である。復原展示コーナーには、正倉院展でおなじみの屏風や絨毯(に似せた複製)が、リビング空間らしくセットされていた。こうしてみると、韓国のサランバンに雰囲気が似ていると思う。遺物展示コーナーには、木簡や瓦(の複製)を分かりやすく展示。地味な出土資料なのに、意外なほど楽しい。
特別展示エリアでは、平城宮跡発掘調査50周年記念『天平びとの声をきく-地下の正倉院・平城宮木簡のすべて-』(2010年9月25日(土)~11月7日)が行われており、木簡約100点(×展示替え3回)が見られる。保存に神経を使う木簡の実物を、これだけ一度に見られる機会は、なかなかない。興奮! 平城宮跡で初めて木簡が見つかったのは、1961年。ちょうど私が生まれた頃の話だ。そうか、それ以前の古代史には、木簡資料って無かったのか…。1989年、長屋王邸跡から大量の木簡発見を伝えるマスコミの興奮は、私もよく覚えている。
実物の木簡以外に、木簡庫を保存するバット(皿)が整然と並んだ木製の棚や、保存液を貯めておくポリバケツ、保存液のつくりかたを書いた貼り紙、研究員の机など、「へんなもの」が要所要所に展示されているのも面白かった。発掘されたばかりの木簡の「読みかた」の提案を呼びかけているのもよいアイディア(子どもだましのクイズでなく、かなり本格的!)。見学者に媚びるわけでもなく、衒学的にもならず、淡々として、しかも熱い。「ね、木簡の発掘調査って楽しいんだよ」という、控えめな誇りに満ちた語りかけが聞こえてくるようで、見終わったあと、こちらの気持ちも晴れやかになる展示だった。※しかも観覧無料。
■奈良県立美術館 平城遷都1300年祭特別展『花鳥画-中国・韓国と日本-』(2010年9月28日~11月14日)
夜間開館(金土は午後9時まで)を利用し、10月26日から始まった後期展示を見に行く。個人的な好みでは、後期のほうが中国絵画らしい(日本風味の薄い)作品が多くて楽しめた。印象に残ったのは、名古屋の万松寺に伝わった、王冕筆『墨梅図』と李衎筆『竹石図』(ともに元時代、現在は三の丸尚蔵館蔵)。写実的のようで構成的なのがいい。対幅なのに離れて展示されていたのが残念。次の機会には並べて見たい。明・呂敬甫筆『草虫図』は不思議さ全開の着色草木図。東博の所蔵で、2005年や2006年の平常展示にも出ていたらしい。「中国書画精華」みたいな名品展だけ狙って行っていると、明清の名品は見落とすんだな、と反省。若冲の『糸瓜群虫図』はやっぱりいい。先日、板倉聖哲先生が「若冲の作品は、必ずそれと分かります」と力説していたことを思い出した。
このあと、同じく東京から出てきた友人と、会場で落ち合って、奈良町のおでんやで遅い夕食。