○鎌倉国宝館 特別展『薬師如来と十二神将~いやしのみほとけたち~』(2010年10月16日~11月23日)
気がつけば、久しぶりの鎌倉である。隣りの逗子市に住んでいた頃は、毎週末の散歩コースだったのに。鶴岡八幡宮の鳥居の前に立つと、今年の秋から、大銀杏の姿を欠いた正面の石段がもの思わしい。
お目当ての国宝館の展示室に入り、思わず、あっと声が出そうになった。本展は、辻薬師堂に伝来した薬師三尊像及び十二神将立像の修理完成を記念する展覧会。ということで、中央の「舞台」には薬師三尊像。その周囲(舞台の下)を、ほぼ等身大、全身鋼鉄のように黒光りし、玉眼ばかりが不気味に光る十二神将がぐるりと取り巻く。壁沿いの展示台上からは、これも魁偉な木造の神将像6体が、入館者を値踏みするように見下ろしている。さらに奥にも、小ぶりな神将像の列が続く。見渡す限り、甲冑に身をつつみ、武器を構えて睨みをきかす武闘派揃い。ちょっと待て。「いやしのみほとけたち」って、おかしいだろ…と苦笑する。
今回、集まった神将像は、大小取り交ぜて76体にのぼる。
(1)鎌倉国宝館(辻薬師堂旧蔵) 鎌倉時代、12体(4体は江戸)、等身大
(2)覚園寺 室町時代、6体、等身大
(3)曹源寺 鎌倉時代、12体
(4)宝城坊 鎌倉~南北朝時代、2体、等身大
(5)宝城坊 平安時代、12体
(6)影向寺 南北朝時代、12体
(7)円覚寺 室町時代、4体
(8)海蔵寺 江戸時代、4体
(9)東福寺 江戸時代、12体
はじめ、私は覚園寺の6体に見とれた。右端から、午神→未神→申神(実際の並びはこの逆)の3体が、高い台上から見下ろす視線を、ちょうど集中して受ける位置に立つと、ぞくぞくするほどいい。ただ、少し動きまわってみると、この神将像は、ある1点から見るにはいいが、視点を変えると、人体デッサンが崩れるように思った。その点、辻薬師堂の十二神将像は、いずれも、どの方向から眺めても破綻がない。12体のうち4体は江戸時代の作だというが、見分けがつかない。よくよく眺めて、未、申、亥までは当たりをつけたが、あと1体が分からなかった(正解は卯神)。そうかー。まだまだ眼力ないなあ。覚園寺像の「寅神の大きく腰をかがめる姿勢」「戌神の巻き毛」等の特徴は、鎌倉周辺に残るいくつかの十二神将像に(国宝館=辻薬師堂像にも)共通しており、その根本像として、覚園寺前身の大倉薬師堂が想像されるのだそうだ。
横須賀・曹源寺の像は、何度か東博でお目にかかっている。巳神が、運慶の毘沙門天に似ているというが、確かに様子のいい若武者ふう。私はむしろ隣りの辰神が、目尻の皺までリアルな、壮年の武将の顔をしていることに驚いた。はじめの子、丑、寅神が、誇張の大きい仏像顔であるのに比べると、後半は人の顔をした神将像が多い。
なお、「いやしのみほとけたち」は決してウソではなく、十二神将が仕える薬師如来も集合している。私の好みは、やや面長な、長楽寺像。どこのお寺から思ったら、八王子にあるらしい。この展覧会、県外者には聞きなれないお寺の名前がずいぶんあったので、展示図録に所在一覧(不完全でもいいから)を付けてくれればよかったのに、と思った。四季の花の美しい海蔵寺は私のお気入りのお寺で、立ち寄れば、薬師堂のご本尊には必ずご挨拶をしていくのだが、胸の中にこんな大きな仏頭を抱いていらっしゃるとは知らなかった。びっくりした。
気がつけば、久しぶりの鎌倉である。隣りの逗子市に住んでいた頃は、毎週末の散歩コースだったのに。鶴岡八幡宮の鳥居の前に立つと、今年の秋から、大銀杏の姿を欠いた正面の石段がもの思わしい。
お目当ての国宝館の展示室に入り、思わず、あっと声が出そうになった。本展は、辻薬師堂に伝来した薬師三尊像及び十二神将立像の修理完成を記念する展覧会。ということで、中央の「舞台」には薬師三尊像。その周囲(舞台の下)を、ほぼ等身大、全身鋼鉄のように黒光りし、玉眼ばかりが不気味に光る十二神将がぐるりと取り巻く。壁沿いの展示台上からは、これも魁偉な木造の神将像6体が、入館者を値踏みするように見下ろしている。さらに奥にも、小ぶりな神将像の列が続く。見渡す限り、甲冑に身をつつみ、武器を構えて睨みをきかす武闘派揃い。ちょっと待て。「いやしのみほとけたち」って、おかしいだろ…と苦笑する。
今回、集まった神将像は、大小取り交ぜて76体にのぼる。
(1)鎌倉国宝館(辻薬師堂旧蔵) 鎌倉時代、12体(4体は江戸)、等身大
(2)覚園寺 室町時代、6体、等身大
(3)曹源寺 鎌倉時代、12体
(4)宝城坊 鎌倉~南北朝時代、2体、等身大
(5)宝城坊 平安時代、12体
(6)影向寺 南北朝時代、12体
(7)円覚寺 室町時代、4体
(8)海蔵寺 江戸時代、4体
(9)東福寺 江戸時代、12体
はじめ、私は覚園寺の6体に見とれた。右端から、午神→未神→申神(実際の並びはこの逆)の3体が、高い台上から見下ろす視線を、ちょうど集中して受ける位置に立つと、ぞくぞくするほどいい。ただ、少し動きまわってみると、この神将像は、ある1点から見るにはいいが、視点を変えると、人体デッサンが崩れるように思った。その点、辻薬師堂の十二神将像は、いずれも、どの方向から眺めても破綻がない。12体のうち4体は江戸時代の作だというが、見分けがつかない。よくよく眺めて、未、申、亥までは当たりをつけたが、あと1体が分からなかった(正解は卯神)。そうかー。まだまだ眼力ないなあ。覚園寺像の「寅神の大きく腰をかがめる姿勢」「戌神の巻き毛」等の特徴は、鎌倉周辺に残るいくつかの十二神将像に(国宝館=辻薬師堂像にも)共通しており、その根本像として、覚園寺前身の大倉薬師堂が想像されるのだそうだ。
横須賀・曹源寺の像は、何度か東博でお目にかかっている。巳神が、運慶の毘沙門天に似ているというが、確かに様子のいい若武者ふう。私はむしろ隣りの辰神が、目尻の皺までリアルな、壮年の武将の顔をしていることに驚いた。はじめの子、丑、寅神が、誇張の大きい仏像顔であるのに比べると、後半は人の顔をした神将像が多い。
なお、「いやしのみほとけたち」は決してウソではなく、十二神将が仕える薬師如来も集合している。私の好みは、やや面長な、長楽寺像。どこのお寺から思ったら、八王子にあるらしい。この展覧会、県外者には聞きなれないお寺の名前がずいぶんあったので、展示図録に所在一覧(不完全でもいいから)を付けてくれればよかったのに、と思った。四季の花の美しい海蔵寺は私のお気入りのお寺で、立ち寄れば、薬師堂のご本尊には必ずご挨拶をしていくのだが、胸の中にこんな大きな仏頭を抱いていらっしゃるとは知らなかった。びっくりした。