見もの・読みもの日記

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出版文化を救うもの?/電子書籍の衝撃(佐々木俊尚)

2010-11-29 00:31:49 | 読んだもの(書籍)
○佐々木俊尚『電子書籍の衝撃:本はいかに崩壊し、いかに復活するか?』(ディスカバー携書) ディスカバー・トゥエンティワン 2010.4

 昨今、加速度的に目につくようになってきた「電子書籍」なるもの。本が電子化される世界は、私たちの「本を読む」「本を買う」「本を書く」という行為に、どのような新しい世界を作り出すかを描いている。

 著者は、書籍より一足先にインターネット配信が一般化した音楽の世界をモデルに、これから電子書籍が歩むであろう道を考察する。私は、音楽マーケットのことをよく知らないので、興味深く読んだ。また電子書籍についても、旬の話題ばかりでなく、90年代末に立ちあがり、失敗して今は忘れられた試み(たとえば、日本の150社の出版社と電機メーカーによる「電子書籍コンソーシアム」)に目配りし、「なぜ失敗したか」を検証している点も好ましく思った。さらに歴史をさかのぼって、日本の出版文化の問題の根本は「委託制」(売れ残り商品は返品してもいい)にあること、これは、いわば雑誌の流通プラットフォームに本も載せてしまったシステムであること(欧米では、雑誌と本は流通経路が全く別で、本は「買い切り制」が基本)、この慣行は、関東大震災後に現れたことなどが語られている点も面白かった。種本は村上信明著『出版流通とシステム』(新文化通信社、1984)らしい。

 「日本の出版文化はなぜダメになったのか」で引用されているのは、故山本夏彦さんの出版業界批判である(なつかしい!)。志ある編集者がじっくり仕事をすることができず、読者が読みたい本を見つけることができず、駄本ばかりがあふれ、ますます本は売れなくなるという出版業界の負のスパイラルは、インターネットやグーグルが原因で始まったわけはない。むしろ電子書籍が作り出す新しい生態系は、この不幸な時代を終わらせることができるのではないか、と著者は期待を込めて語る。
 
 「本の読者から見れば、電子ブックに不利益などひとつもありません」と著者は断言する。実際、そうだろうと思う。私は、とにかく本の中味検索が自在にできるようになったら、どんなに嬉しいかと思っているので(これからますます衰える自分の記録力に頼らなくてもいいのが嬉しい)電子書籍には全く反対しない。ただ、ものぐさな私は、携帯電話やデジカメの充電も面倒に思っているので、これ以上、充電の必要な日用機器が身のまわりに増えるのは、うっとおしい。

 それと、私は書店の棚で「面白い本」を嗅ぎわける自分の嗅覚には、けっこう自信を持っている。この嗅覚は、タイトルとか表紙の紙質とか帯のキャッチコピーのセンスとか、いわく言い難い、さまざまな要素によって成り立っている。しかも人間の能力とは不思議なもので、売り場に並んだものすごい数の書籍を視線で瞬時にスキャンしながら、ちゃんと気になる1冊にフォーカスすることができるのだ。はたして、この能力は、インターネット上の電子書籍ストアでも同じように発揮できるのか。そのことだけが、ちょっと気にかかる。
 
コメント (2)
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