見もの・読みもの日記

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ハイビジョン工芸/幕末・明治の超絶技巧(泉屋博古館分館)

2010-11-18 22:13:50 | 行ったもの(美術館・見仏)
泉屋博古館分館 特別展『幕末・明治の超絶技巧 世界を驚嘆させた金属工芸-清水三年坂美術館コレクションを中心に-』(2010年10月16日~12月12日)

 幕末から明治時代にかけて世界を席巻した日本の金属工芸の展覧会。ネットの評判が妙にいいので見に行った。ロビーに置かれた『十二の鷹』がいいと聞いて、何だろう、日本画かしら?くらいに思っていたので、チケットを求めてロビーに立った瞬間は、愕然とした。一応、文化財オンラインへのリンクを貼っておくが、このサムネイルでは、実物に向き合ったときの衝撃は伝わらないだろう。左右に4間ほどもある止まり木の上に、12羽の金属製の鷹が並んでいるのだ。白銅、赤銅、金、銀を用いて、毛筋の一本一本までリアルに再現された12羽の鷹。鈴木長吉(1848-1919)渾身の大作。1893年のシカゴ万国博覧会に出品するために作られたものだ。私は、作品自体は初見だが、たぶん木下直之先生の本か講演で、写真は見たことがある、と思い出した。

 それにしても、開いた口が塞がらないぐらいすごい。ポスターもチラシも、どうしてもっとこの作品をフィーチャリングしないのか、と思ったけど、本展の趣旨は「清水三年坂美術館コレクションを中心に」だから、国立近美所蔵の本作品は参考扱いなのか。もったいない。ちょっと不満を感じながら展示室へ。

 しかし本筋の「清水三年坂美術館コレクション」も悪くないことに、すぐに気づいた。まずは刀装具。そもそも実用品であった刀装具(鍔など)は、泰平の世となった江戸時代、大きく装飾性を増し、工芸品として自立的な存在となる。展示図録を読んだら、幕末には全国に少なくとも1万人の刀装金工たちがいたと清水三年坂美術館の館長が語っていた。刀装具って、見たことはあったが、今回ほど感激したことはなかった。(装飾品として)特に質の高いものが集められているということだろう。黒ないし濃茶に金の取り合わせがシックの極み。正阿弥勝義による刀拵(かたなこしらえ)を見て、幕末の武家の美意識って高かったんだなあとつくづく思った。余談だが、大河ドラマ『龍馬伝』の余波で仕入れた豆知識に「日本人ではじめてルイ・ヴィトンを愛用したのは後藤象二郎」というのがあるが、この刀拵を見るとうなずける。

 廃刀令によって仕事を失った刀装具の職人たちは、金工作家に転身していく。その作風は「超絶技巧」のひとこと。しかし、その超絶技巧は、遊び心や品格に寄り添い、明らかに「美しさ」を目指している。海野勝の『孔雀図煙草箱』にしても、加納夏雄の『月に雁図額』にしても、あ、美しい、愛らしい、という気持ちがまず起こり、近づいてみて、それが人の手業で作られたものだと知り、驚嘆するのである。寡黙のようで饒舌、冷やかのようで熱い、そんな感じのする芸術だ。

 それにしても、これらの工芸品は、いわゆる日本的美意識(骨董的・茶の湯的・民芸的・白州正子的)から、甚だしく遠ざかっている。もう、気持ちいいくらいに! 展示図録に、明治の工芸はハイビジョン向きだ、という発言があるが、確かにその通りだと思う。アナログ時代の低解像度の写真や映像では、この魅力は伝わらないだろう。

 その点では、この展覧会の図録は、すごく頑張っていると思う。写真がどれもきれいで、細部拡大図の選び方にもセンスが感じられる。週末からずっと、舐めるように眺めているが、飽きない。冒頭の山下裕二氏と清水三年坂美術館館長・村田理如氏の対談も読みごたえあり。編集・発行は、来年1月から同展が巡回する佐野美術館である。
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