○町田市立国際版画美術館 企画展『救いのほとけ-観音と地蔵の美術-』(2010年10月9日~11月23日)
町田の国際版画美術館には、むかし1、2度来たことがあるはずだが、2004年から書いているこのブログに記事がないのだから、本当に久しぶりだ。本展は、観音と地蔵に重点を置き、「救い」をテーマとする仏教美術を紹介する展覧会。友人からもらった招待券に、木彫らしい仏像の写真があって、私は首をかしげた。版画美術館で仏像展、なのか?
会場に入ると、パッと目に飛び込むのは数体の仏像。まわりに並ぶ紙資料は「印仏」や「摺仏」で、多くは仏像の像内納入品だったものだ。版画美術館的には、こっちが主役なんだろうけど、やっぱり、仏像から語りたい。滋賀県近江八幡市の福寿寺の本尊・千手観世音菩薩立像(平安末期、重文)は、丸顔、太い首、くびれの少ない、肉づきのいい腰。対照的に、胸と腹の前で合わせた左右の腕は、細くたよりない。子どもが施した化粧のように、白目と赤い唇の色彩が鮮やか。像内からは、団子鼻の素朴な千手観音像(と解説は言うが、四臂しかない)をスタンプのように並べて押した印仏が発見されている
千葉の歴博が所蔵する地蔵菩薩像(鎌倉、重文)は、下ぶくれの顔、白い肌がリアルで、生き人形みたいな地蔵様だ。おびただしい納入品で知られる。縦が10センチ前後の地蔵の印仏は、よく見ると複数の種類が見られる。
仏像ではもう1体、よみうりランドが所蔵する聖観音立像(平安、重文)にも注目。四角ばった顔。上半身がゴツく、両腕が長い。大きく腰をひねり、左手を前に突き出して立つ。相撲取りかレスラーみたいに力強い。正力松太郎氏旧蔵で、遊園地内の聖地公園に安置されている。「準西国稲毛三十三観音」の番外札所にもなっているが、この霊場は、12年に1度の午年だけ開帳されるそうだ。次回は平成26年。4年後かあ。
この展覧会、特に後半は地元(東京)密着型で、祐天寺所蔵の『紺地金字法華経』とか、浅草寺所蔵の『浅草寺縁起』とか、東京育ちの私でも全く初見の文化財をいろいろ見ることができて面白かった。浅草寺では、節分の夜に秘仏・本尊の姿を摺りものにして信者に施す習慣(柳の御影)があったそうだ。図録の解説も触れていたが、絶対アクセス不能の「秘仏」と、大量に頒布される「複製」の関係って、考えると面白いと思う。奈良の当麻寺では、大正時代、畳1枚ほどもある天井板を外してみたら、十一面観音像の版木であることが発見された。なかなかの美人観音である。
『矢田地蔵大士縁起』は、あ、写真で見たことのある絵だ、と思ったが、絵巻のかたちではなくて、対幅(絵解きに適した)に改装されて伝わっているのは知らなかった。しかも奈良の矢田寺でなく、京都の別院に伝わっているのね。燃え盛る地獄の業火の描写がすさまじい。
最後の『観音大士五十三現象』(中国清代の版画集)は付録のつもりで見ていたら、デカルトみたいな黒髪・口髭の図像があって、びっくりした。17世紀の作だというが、既に西洋絵画の影響を受けているのかな。面白い。
町田の国際版画美術館には、むかし1、2度来たことがあるはずだが、2004年から書いているこのブログに記事がないのだから、本当に久しぶりだ。本展は、観音と地蔵に重点を置き、「救い」をテーマとする仏教美術を紹介する展覧会。友人からもらった招待券に、木彫らしい仏像の写真があって、私は首をかしげた。版画美術館で仏像展、なのか?
会場に入ると、パッと目に飛び込むのは数体の仏像。まわりに並ぶ紙資料は「印仏」や「摺仏」で、多くは仏像の像内納入品だったものだ。版画美術館的には、こっちが主役なんだろうけど、やっぱり、仏像から語りたい。滋賀県近江八幡市の福寿寺の本尊・千手観世音菩薩立像(平安末期、重文)は、丸顔、太い首、くびれの少ない、肉づきのいい腰。対照的に、胸と腹の前で合わせた左右の腕は、細くたよりない。子どもが施した化粧のように、白目と赤い唇の色彩が鮮やか。像内からは、団子鼻の素朴な千手観音像(と解説は言うが、四臂しかない)をスタンプのように並べて押した印仏が発見されている
千葉の歴博が所蔵する地蔵菩薩像(鎌倉、重文)は、下ぶくれの顔、白い肌がリアルで、生き人形みたいな地蔵様だ。おびただしい納入品で知られる。縦が10センチ前後の地蔵の印仏は、よく見ると複数の種類が見られる。
仏像ではもう1体、よみうりランドが所蔵する聖観音立像(平安、重文)にも注目。四角ばった顔。上半身がゴツく、両腕が長い。大きく腰をひねり、左手を前に突き出して立つ。相撲取りかレスラーみたいに力強い。正力松太郎氏旧蔵で、遊園地内の聖地公園に安置されている。「準西国稲毛三十三観音」の番外札所にもなっているが、この霊場は、12年に1度の午年だけ開帳されるそうだ。次回は平成26年。4年後かあ。
この展覧会、特に後半は地元(東京)密着型で、祐天寺所蔵の『紺地金字法華経』とか、浅草寺所蔵の『浅草寺縁起』とか、東京育ちの私でも全く初見の文化財をいろいろ見ることができて面白かった。浅草寺では、節分の夜に秘仏・本尊の姿を摺りものにして信者に施す習慣(柳の御影)があったそうだ。図録の解説も触れていたが、絶対アクセス不能の「秘仏」と、大量に頒布される「複製」の関係って、考えると面白いと思う。奈良の当麻寺では、大正時代、畳1枚ほどもある天井板を外してみたら、十一面観音像の版木であることが発見された。なかなかの美人観音である。
『矢田地蔵大士縁起』は、あ、写真で見たことのある絵だ、と思ったが、絵巻のかたちではなくて、対幅(絵解きに適した)に改装されて伝わっているのは知らなかった。しかも奈良の矢田寺でなく、京都の別院に伝わっているのね。燃え盛る地獄の業火の描写がすさまじい。
最後の『観音大士五十三現象』(中国清代の版画集)は付録のつもりで見ていたら、デカルトみたいな黒髪・口髭の図像があって、びっくりした。17世紀の作だというが、既に西洋絵画の影響を受けているのかな。面白い。