見もの・読みもの日記

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誰でも読める巡礼指南/百寺巡礼・奈良(五木寛之)

2010-11-25 23:23:12 | 読んだもの(書籍)
○五木寛之『百寺巡礼 第1巻:奈良』(講談社文庫) 講談社 2008.9

 学生の頃からずっと寺巡りが好きで、30年を経て今日に至る。当時、寺巡りの必携本といえば、和辻哲郎の『古寺巡礼』と亀井勝一郎の『大和古寺風物誌』が二大定番で、高三の修学旅行の前後から、これらを読み始めた。私は圧倒的に和辻の愛読者だったが、まわりには、亀井のほうが好きという友人が多かったように思う。その後、1990年代に突如として登場した、みうらじゅん・いとうせいこうの『見仏記』も、私の好きな巡礼ガイド本である。

 という私の読書歴とは全く別に、2000年を過ぎた頃から、小説家・五木寛之が『百寺巡礼』というシリーズを書き始めたことには気づいていた。たまたま古寺で行き合った、私より少し上の世代の参拝客が「五木寛之さんの…」と熱く語っているのを聞いて、ブームなんだなあ、と実感したことも何度かある。私は、あまり読みたい気持ちが起きなかったが、先日、奈良に旅行中、読む本が切れたので、大和西大寺駅前の本屋で、たまたま目についた本書を買った。

 本書・奈良編は『百寺巡礼』の第1巻で、冒頭に、巡礼をはじめるに当たっての不安(はたして百寺のすべてを巡ることができるのか)と昂揚感が述べられている。訪ねたお寺は、室生寺、長谷寺、薬師寺、唐招提寺、秋篠寺、法隆寺、中宮寺、飛鳥寺、当麻寺、東大寺。まあ、順当なところだろう。文章は平易で、読むことにほとんど努力が要らない。著者が見聞した情景描写を主とし、自分の半生や日本の歴史に思いをめぐらすことはあっても、衒学的になり過ぎないよう、強く自制しているように思う。本書に比べると、和辻の『古寺巡礼』も、みうらじゅん・いとうせいこうの『見仏記』も、対極と言っていいくらい、マニアックである。

 文中には、寺の風景、仏像などの参考図版が挟まれており、その何点かには、さまざまなポーズで佇む著者の姿が配されている。ああ、五木寛之って、むかしからこういう販売戦略が平然とできる作家だった。これを笑わずに、あるいはドン引きせずに受容できる読者がいるんだよなあ…。私は駄目だ。見ているだけで恥ずかしくて、脂汗が出る。

 本書を読んでの収穫は、室生寺金堂の有名な十一面観音の影(左端)に、由来の知れない客仏の聖観音像があると教えられたこと。右手を胸の前に上げ、左手に蓮華のつぼみを持つ小さな像だ。(→室生寺公式サイトのTOPページには写っていない)

 京都に向かう近鉄急行の車内で本書を読んでいて、あっと思ったのは、ついさっき、秋篠寺の秘仏ご開帳で見てきたばかりの大元帥明王の写真が掲載されていたこと。西大寺駅前の本屋では、そんなことには全然気づかず、本書を書棚から抜き取ってきたのだから、これも仏縁である。五木氏は、秘仏・大元帥明王を拝しての感想を書かれているが、これは6月6日に行ったんだよね…有名作家と大手出版社の企画だからということで特別扱いされてたら、許さないぞ、と思った。
コメント
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