見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

書斎の秘仏/近江の祈りと美(寿福滋、高梨純次)

2010-11-21 23:01:13 | 読んだもの(書籍)
○寿福滋・写真、高梨純次・文『近江の祈りと美』 サンライズ出版 2010.10

 というわけで、33年に1度の「秘仏本尊ご開帳」を拝観に行った正明寺で、本書を衝動買いしてしまった顛末は報告のとおり。本書は、近江の仏像、神像200余点のカラー写真集成である(石仏、狛犬等も少し含む)。各像、正面からの全体写真1点が原則で、資料性が高いが、ものによっては別アングルや頭部拡大図も付いている。ごくまれに、美術写真を意識して撮っているものもあり、その1例が冒頭の石山寺の如意輪観音。2009年、横浜そごうの『石山寺の美』で見た覚えのある写真だった。

 厳密ではないが、年代順を意識した構成となっており、第1章「石山寺と奈良時代の仏像」では、同寺に伝わる金銅仏を多く紹介。第2章と第3章は「平安古像」、第7章「高僧を偲ぶ」あたりから鎌倉彫刻の比重が増す。ただし、最も著名な向源寺(渡岸寺)および石道寺の十一面観音は、終章で扱われている。先日、大津歴博で見たばかりの盛安寺の十一面観音や、町田の国際版画美術館にお出ましの福寿寺の千手観音も掲載されていた。櫟野寺の十一面観音坐像や比叡山・横川の聖観音は、すぐにそれと分かって、懐かしく眺めた。

 この写真集のすごいところは、ふだん公開されていない秘仏の写真も特別に掲載許可をもらっていること。彦根に社を置く地方出版ならではの快挙というか、役得かも。正明寺もその1例だが、衝撃だったのは金剛輪寺の秘仏本尊・聖観音立像。頼むからこういう写真は、知る人ぞ知るにとどめて、ネットに流出しないでほしい…。西明寺の十二神将立像の写真(特に亥神)もいいが、これはどこかで見た記憶がある。あと石仏は、見に行きたいけど、周囲の風景を見ると、いかにもアクセスが悪そうだなあ。

 巻末に「滋賀県文化財一覧・彫刻(国宝・重要文化財・滋賀県指定文化財)」という便利なリストが掲載されており、447件(工芸1件を含む)が挙げられているので、およそ半数が本書に掲載されていると分かる。また、高梨純次氏は「近江の彫像」という30ページほどの長大な概説を書かれているが、個別の像についての解説は、必ずしも十分でない。しかし、これだけ網羅的なカラー写真集を手元におけるだけでも、ありがたいと思う。

 なお、Amazonではなぜか中古品(定価より高い!)しかヒットしないが、サンライズ出版のサイトでは、現在「在庫あり」で定価購入可能。
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秘仏のたのしみ/正明寺(滋賀県蒲生郡日野町)

2010-11-21 11:49:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
正明寺(滋賀県蒲生郡日野町):本尊・千手観音菩薩立像御開帳(2010年10月17日~11月23日)

 秘仏ご本尊は「33年に1度のご開帳」だという。10月に行ってきた友人からは「とにかく不便」と聞いていたが、覚悟を決めて行くことにした。近江八幡駅の南口から1時間に1本のバスに乗る。「横町(よこまち)」というバス停で下りるという情報しか持っていなかったので、バス停の名前を聴き逃してはいけないと思い、40分以上、ずっと緊張しっぱなしだった。バスを下りると、幸い、停留所に観光ルート図が貼ってあったので、これをデジカメに撮って、参照しながら15分ほど歩く。やがて、近江(滋賀県)らしい里山にひっそりと抱かれた古刹、正明寺に到着した。

 紅葉に彩られた、感じのよい参道を進み、山門をくぐると、低い植え込みできっちりと区分けし、白い砂利を敷きつめた境内が広がる。禅寺らしい清浄な雰囲気。桧皮葺の本堂は御所の一部を移した桃山建築だというが、威丈高な感じがなくて、すっきりしている。本堂と棟続きの方丈には、近在の方々(?)が集まってなごやかに談笑されていた。

 本堂に上がり、拝観。みやこぶりの、均整のとれた千手観音だった。お寺の方らしいおばあちゃんが「御所から持ってきはった観音さんやで」とおっしゃっていたのも、なるほどとうなずけた。脇侍は毘沙門天と不動明王。塔を掲げる毘沙門天が、また鎌倉彫刻らしい顔をしている。33年ぶりの開扉ということで、おばあちゃんがお連れの方に説明して「23日を過ぎたら、もう何があっても開けまへん」と強く断言したあと、「教育委員会の人に言われたら別やけどな」と言ってるのが聞こえて、可笑しかった。

 三尊をおさめた厨子の左側には中国服の小さな坐像。伽藍神かなと思ったが、むしろ宇治の万福寺の華光菩薩像を写したものではないかと思う。同じ黄檗宗だし。”伽藍菩薩”という札が立っていた。右側には剣を倒して合掌するかたちの韋駄天像。韋駄天像の前に「水陸一切男女孤魂等」と記した位牌が置かれていた。調べたら、同じ滋賀県の黄檗宗寺院・永明寺のサイトがヒットして、施餓鬼法要に用いると書いてあったが、大陸の水陸会の影響を残していると思う。たぶん。

 本堂の右の禅堂では、鎌倉時代の大日如来像などの文化財を展示。左の庫裏の土間(室内に大きな魚板が下がっている)、斉堂、台所などは開けっぱなしで立ち入り自由。参拝客のために、湯茶と一緒に、山盛りの煎餅が用意されていて、なごむ。拝観受付で、ご朱印はもちろんいただいたが、気になったのは『近江の祈りと美』という立派なハードカバーの図書が数冊、積まれていたこと。本堂内にも1冊置いてあって、自由に閲覧できるようになっていたが、なかなかいい。サンライズ出版って、聞いたことのない出版社だし、東京に戻ると入手できないかもしれない…と思い、値段も聞かずに、買い求めることを決意。税込み9,450円だった。これも御縁。内容はまた詳しく。

 再び近江八幡に戻ったときは、もう4時過ぎ。1箇所くらい札所に寄れるかと思ったが、あきらめる。大好きな秋の近江路の風景は、バスの車窓からたっぷり楽しんだのでいいとするか。もう1泊遊んできたかったんだけど、仕事が片付いてないので、今回は帰京。
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