見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

知識への回路/「知」の十字路(原武史編)

2011-07-11 06:16:38 | 読んだもの(書籍)
○原武史編『「知」の十字路:明治学院大学国際学部付属研究所公開セミナー3』 河出書房新社 2011.5

 2009年度のセミナー2をまとめた『「知」の現場から』で、この公開連続セミナーの存在を知った。本書のもとになったセミナー3(2010年10月5日~2011年1月7日)は、早々にネットで日程をチェックして、聴きたいなあと思った講座もあったのだが、平日に仕事を早退していくのが難しくて、果たせなかった。今回も、対談者一覧を書いておこう。

佐野眞一×原武史
佐藤優×原武史
辻井喬×原武史
東浩紀×高橋源一郎
赤坂真理×原武史
奥泉光×原武史
大澤真幸×永澤佳祐
井上章一×竹尾茂樹
小熊英二×高橋源一郎
中川家礼二×原武史

 各回の分量は、20~30ページ。ひとつのテーマを語るのに十分とは言えない頁数だが、どの回もちゃんと中味があるのは、編集に苦労なさった結果ではないかと思う。このことをもっと知りたい、あるいは、この本読みたい!と思わせる箇所が、まるで罠のように無数に仕掛けられている。いくつか書きぬいてみよう。

 佐野眞一さん→「歴史は必ず尻尾を残すものだと私は確信しています」。これはグッとくる発言である。近代天皇制における皇后の役割、突出して「できすぎ」の美智子妃の存在は、かえって、次世代の危機を深化させているのではないか。

 佐藤勝さん→(尖閣問題に関連して)国際法の規定とは別に、やっていいことといけないことは、目に見えないルールで決まっている。外交は難しいなあ。和辻哲郎の『風土』は、1944年に第3章「シナ論」が改訂されていて、そこに(改訂後?)「エリート層である帝国の中心部がなかなかしぶとい」ということが書かれている由。読みなおしてみたい。朝鮮についても「日韓併合よりもむしろ1920年代の神社参拝のほうが問題でしょう」と指摘。

 東浩紀さん→ルソーは「代議制は奴隷制度だ」と言っている。これも面白い。「一般意志」というけれど、実は人々の合意なんて一切考えていないとか、コミュニケーションが無いほうが「一般意志」はよいものになるとか、妙にインターネット時代にフィットしていて、民主主義の元祖みたいなルソーのイメージが、ガラガラと崩れてしまった。東浩紀の注解でルソーを読んでみたい。

 井上章一さん→アカデミズムの人々は、国家主義や軍国主義によって、学問がねじまげられたという。しかし、実際の学問は、もっとみみっちいことに左右されている。「むしろみみっちいものに縛られていることを忘れたいために、国家などという抽象的な御託を並べて悦に入ってはる人が多いんじゃないかな」。これはキツイが、よくできた発言。

 最後の原先生と中川家礼二さん(漫才師)との「鉄道漫談」は、聴きたかった対談のひとつ。大阪の長い駅名「西中島南方」の英語アナウンスのイントネーションがおかしいとか、鶴見緑地線の発車ベルが音楽調なのはいいが、最後にうめき声みたいなのが聞こえるとか、大阪ネタが多い。最近、西国巡礼で、大阪に行く機会が増えたので、今度行ったら、気をつけてみよう。礼二さんの『笑う鉄道』も読んでみたい。まだ手に入るかな?

※明治学院大学国際学部付属研究所:2011年度 公開セミナー「歴史と現在」
10月4日開講。うまくすれば、1回くらい聴けるかも…。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする