見もの・読みもの日記

興味をひかれた図書、Webサイト、展覧会などを紹介。

初訪問/祈りの書-写経と経筒(センチュリーミュージアム)

2011-07-31 19:49:32 | 行ったもの(美術館・見仏)
センチュリーミュージアム 『祈りの書-写経と経筒』(2011年4月11日~年7月30日)

 2010年10月にオープンしたミュージアム。今年のはじめくらいに存在を知って、一度行ってみようと思っていた。最寄り駅は、東京メトロ東西線の早稲田駅。むかし、親戚がこのへんに住んでいたはずだが、初めて降りる駅で、全く土地勘がない。地図をたよりに、マンションの多い都心の住宅街を歩いていくと、瀟洒なオフィスビルにたどりついた。1階の受付で入館料を払うと「展示室は4階と5階です。エレベータで上がってください」と説明される。ホテルのチェックインみたいだ。

 4階と5階は、それぞれ1室ずつが展示スペースになっていた。4階、いきなり巨大な仏頭(鉄製、新羅時代)がむき出しで展示されていて驚く。大きさは、山田寺の仏頭くらいあるかな。

 ケースの中は写経と経筒。先週、根津美術館のコレクション展『古筆切』で見たばかりの「賢愚経断簡(大聖武)」に再会。荼毘紙の白がきれいだ。もらった解説パンフレットに「もとより天皇の自筆ではない」って、ちゃんと書いてある。『紺紙銀字華厳経断簡』はいわゆる「二月堂焼経」。上側(だけ)が焼けているのは珍しいと感じたが、そんなことないのかしら。また、比較的、焼損面積が少ないとも思った。

 『一字宝塔法華経断簡』の癖字は、一目見て、お~”定信様(よう)”の戸隠切だ!と分かって、嬉しかった。ほかにも、中尊寺経、神護寺経など、どこかで見聞した記憶のある名品が出ていたが、心ひかれたのは、むしろそれ以外の作品。平安後期(11世紀)の『紺地金字一字蓮台法華経序品』は「専門技師による精巧な一字宝塔蓮台経と比して稚拙にみえるのは、不慣れな供養者みずからが竹刀で微細な泊を置いたものであろう」と説明されているのだが、蓮台が蛸の列にしか見えない。見返しの普賢菩薩が乗った象も、なんだか斜めに浮いていて、楽しげ。また12世紀の『紺紙金字成唯識論』は、銀泥だけで描かれた見返し絵(水の流れを挟んで、人物が二人)が気になる。元永二年(1119)の年記を持つ滑石経(8枚)も珍しかった。最後の1枚には、天部らしき絵が描かれて(彫られて)いた。

 5階に上がって、エレベータの扉が開いた瞬間、え!と声が出てしまった。4階は展示物保護のため、暗くしてあったが、5階は窓から、外の風景がよく見えた。遠くまでビルが林立する、東京都心の風景。ところが、室内には、平安・鎌倉等の木彫仏が、ずらりと並んでいる。片側一列は、ガラスケースもなく、むき出し。しかも私以外は無人。いいのか、これ…。窓際に気持ちのいいソファが据え付けてあって、ここに座って、窓の外を見やれば、確かに21世紀の東京。室内に目を向ければ、観仏三昧という、なんとも不思議な空間だった。

 木造の増長天像(2体)と毘沙門天像は、古拙な造型、踊るような袖の翻り方が、東北ふうに感じられた。大日如来像は、慶派の造型である。反対側の壁のケースに目を移すと、ほかにも多数の仏像、仏具。唐代の石造観音半跏像は、優美な造形で知られる天龍山石窟を思い出させた。

 ふと窓の外のベランダ(?)に置かれた5枚の四角い黒い石が気になった。窓枠の下に掲げられた説明を読んだら、これらは「特青砥」といって、明清の宮廷に敷き詰められていた特大タイル(2尺=約60センチ四方)だという。側面に「嘉靖六年」「雍正四年」等々の銘が入っている。おもしろいと思ったが、中国語のサイトで「特青砥」を探しても、うまく情報が見つからない。全て「快特青砥行き」になってしまう(笑)。

※参考:センチュリーミュージアムについて。
・旺文社の創業者である赤尾好夫氏(1907-1985)のコレクションが原型。
・はじめ、文京区本郷のセンチュリータワー(順天堂病院の隣り)に開館。
・2002年9月より休館。2006年秋、神奈川県鎌倉市扇ガ谷に、新美術館として発足する予定だった。

 Googleマップで調べてみたら、くずきり「みのわ」の近辺に「センチュリー文化財団」の文字を発見。しかし、同ミュージアム館長・理事だった小松茂美氏(1925-2010)の死去に伴い、新美術館開館は取りやめとなって、早稲田に移転したらしい。いろいろ紆余曲折があるようだが、これから末永くおつきあいしたいと思う。次回は絵画コレクション展。
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原先生に聞いてみよう!/「鉄塾」(中川家礼二×原武史)

2011-07-31 09:39:41 | 読んだもの(書籍)
○中川家礼二、原武史『「鉄塾」:関東vs関西 教えて! 都市鉄道のなんでやねん?』 ヨシモトブックス 2011.8

 今年初め、明治学院大学の公開セミナーで行われたお二人の対談を、河出書房刊『「知」の十字路』で読んだばかりである。期待にたがわず、面白かったので、大満足していたら、どこかの駅ホームでニコヤカに微笑むお二人の写真をオビにした本書を本屋で見つけて、さっそく購入してしまった。

 主な内容は3部構成。「鉄塾1 長距離私鉄について考える」は、2月某日、ふたりで「アーバンライナー」に乗ってみる。アーバンライナー? 何それ?と思ってしまうのは、私が関東人で一般人(非・鉄道ファン)である悲しさ。名古屋~難波間を走っている近鉄特急だそうだ。近鉄名古屋線・大阪線は、伊勢・松阪方面とか、室生寺・長谷寺方面に行くときに利用したことがあるので、車窓の風景が変化に富んでいて、魅力的なことは知っていた。でも、近鉄で名古屋-大阪間を突っ切ってしまおうという発想は全くなかった。本書を読んでみたら、ノンストップなら所要時間は、ほぼ2時間。毎時1本(朝夕はそれ以上)走っているのか。

 本文は実況(ダイジェスト)ふうの車中対談で、車内アナウンスや車窓の風景を紹介。JRの快速や同じ近鉄の普通列車をバンバン抜いていく様子が分かる。最徐行区の中川短路通過の際、名古屋列車区と大阪列車区の運転士さんが(運転しながら)交替するのを見物してきた礼二さんの興奮ぶりが、たのしい。よし!これ、近いうちに必ず乗ってみよう。

 第2部「鉄塾2 都市鉄道の不思議を解明」は、都市鉄道の沿革・現状など、基本となる知識をおさらい。原先生の著書『「民都」大阪対「帝都」東京』や『鉄道ひとつばなし』シリーズで語られ済みの事柄が多いが、礼二さんの素朴な疑問「私鉄王国いうてもスピードでJRに負けてるやん?」等々に対し、原先生が「…というわけです」「…ですね」と丁寧な語り口で答え、ときどき礼二さんの合の手「そうやったんや」「それって…とちゃいますか」等々が入り、最後に「礼二のまとめ」が付く。この編集のしかたは、巧いと思った。

 本書のようなライトな読みものまでは手を伸ばすけど、新書や選書はよく知らないとか、ハードルが高くてちょっと、と思っている層から、原先生の著作を読んでみよう、と思う読者が現れてくれれば、長年の愛読者として嬉しい。ちなみに、礼二さんによる原先生の紹介「なんで原先生かっていうと、えらい学者さんなんですけど」には笑ってしまった。

 最後に「鉄塾3 身近なあれこれ徹底対決」は、再び対談形式。でも、関西・関東の違いを考えると言いながら、実は関西でも会社によってアナウンスが全然違うとか(阪急は必ず「みなさま」と呼びかける、近鉄では「特急○○ゆき」と言わず「○○ゆき特急」と言う等々)、おいしいローカル駅弁が消えていくのは関西も関東も同じ、という結論になっていて、ちょっとテーマと内容が合っていないかも。おもしろいけど。

 特別付録「鉄道あれこれ大アンケート」もおもしろかった。「好きな駅はどこですか?」「好きな駅食は?」等々、原先生と礼二さんの答えを見ながら、ついつい、自分ならどう答えるかを考えてしまった。私も原先生と同じで、ターミナル愛好癖がある。関東人は、ターミナルらしいターミナル駅を知らずに育つからかもしれない。鉄道マニアのための本ではなく、「日常生活の中の鉄道」を愛する人たちに読んでほしい1冊。
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